孤高の天才デザイナー ドリス・ヴァン・ノッテン、初の公認ドキュメンタリー『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が公開
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孤高の天才デザイナー ドリス・ヴァン・ノッテン、初の公認ドキュメンタリー『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が公開
"Dries" Is Now Showing
ファッション勢力図を塗り変えた企業買収の嵐や、共同経営者の死を乗り越え、唯一無二のブランドを牽引する天才デザイナー、Dries Van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン) の素顔に迫る初のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が公開した。
ファッション勢力図を塗り変えた企業買収の嵐や、共同経営者の死を乗り越え、唯一無二のブランドを牽引する天才デザイナー、Dries Van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン) の素顔に迫る初のドキュメンタリー映画『ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男』が公開した。
監督は『マグナム・フォト 世界を変える写真家たち』(1999) で知られるドキュメンタリー監督の Reiner Holzemer (ライナー・ホルツェマー)。写真家 Juergen Teller (ユルゲン・テラー) のドキュメンタリー『Juergen Teller』(2012) の撮影で Dries に出会った彼は一目で惹かれ、3年に及ぶ取材交渉の末に撮影許可を取り付けたという経緯をもつ。それだけにドリスファンが知りたかった私生活について質問を重ね、Dries の口から パートナーへの深い愛と感謝の言葉を引き出すことに成功した。音楽は Radiohead (レディオヘッド) のベーシストを務める Colin Greenwood (コリン・グリーンウッド)、Matthew Herbert (マシュー・ハーバート) らが担当。Colin Greenwood は、Dries Van Noten 2014春夏レディース・コレクションで音楽を担当した縁もあり、本作で映画音楽を初めて手掛けた。
本作では、2014年9月にパリのグラン・パレで開催された2015春夏レディース・コレクションの舞台裏から、2016年1月にオペラ座で発表した2016-17秋冬メンズ・コレクションの本番直後までの1年間に密着。彼が半年間かけてクリエイトした努力の結晶を幼さの残るモデルに自ら着付けるショーの舞台裏はもちろん、世界中に特注した生地のサンプルが整然と並べられたアトリエ、インドで彼の要望に応えるためにフル回転する刺しゅう工房など、創作活動の全貌を明らかにした。さらに、彼の創作を公私ともに支えるパートナーの Patrick Vangheluwe (パトリック・ファンヘルーベ) との暮らしにも密着。アントワープ郊外にある彼らのサンクチュアリでは、お互いを真摯に思いやりながら日々の生活を丁寧に営む二人の姿を捉えており、スタッフにすらも見せない彼の素顔は実に貴重な映像となっている。
本ドキュメンタリーの撮影を許可した経緯や、実際に1年間という長い時間密着されるという初の試みについて Dries Van Noten 本人がアントワープで行われたインタビューで以下のように振り返っている。
—本作は、あなたのキャリアを追った初のドキュメンタリーです。写真や香水など服以外のプロジェクトとの違いは何でしょう?
Reiner 監督のドキュメンタリーは、他のプロジェクトとは一線を画するものだと思います。彼は、私や私のチームや Patrick を1年以上にわたって追いかけてきました。ですから実際ここには、私という人間や私の仕事の仕方や考え方の全体像が収められています。ポートレートは、一瞬を切り取ったものですが、これは1年分の映像ですから。かなり強烈です。でも素晴らしい出来だと思います。
—監督のレンズを通して自分自身を見ての感想は?
映画を観ると彼が私をどう見て、私の仕事ぶりをどのように捉えているか、事細かに見て取れます。質問の答えはとても難しいですね。私は実にいろんなことをこなしますが、映画は90分だから編集が必要になります。すべてを盛り込むことはできないでしょう。ですが監督は、私の一連の仕事内容をかなり素敵にまとめ上げたと思います。
—長期間にわたってカメラと生活をすることに、やりにくさはありましたか?
カメラに追われるというのは、かなりの緊張を伴いました。特に最初の頃は、「じゃあ、ちょっと演技しなくちゃいけないかな。ときには、それらしく見せる必要があるし」、というような感じでした。「真っ直ぐに立っているかな?英語は間違ってないかな?正しく喋れているかな?みんなが後で振り返ってくれるような、興味深いことを見せたり撮影したりできているかな?」なんて考えました。でもしばらくすると、だんだん自然になってくる。映画を観る人も感じ取れると思います。撮り始めた頃は、少しこちらの意図を押し付けたようなところがありましたから。その後は、もっとオープンになったと思います。Reiner がそばにいることに私たちはすっかり慣れてしまって、本当にすべてが自然になっていきました。
—カメラの存在が全く気にならなくなりましたか?
もちろん、すべてが上手くいっているときは、カメラがそこにあることを忘れてしまうこともありました。でも、問題が持ち上がっているときは、カメラの存在がテーブルの周りにいる多くの人たちの一人のようになったこともあります。最初の頃は、「私がためらう様子や問題なんかは撮って欲しくない」と言ったりもしましたよ。でも最後には、いや、撮ってもらった方がいいな…と。これも私という人間の一部だし、私の仕事の一部だから、カメラに収めてもらうのは大事なことだと考えるようになりました。
—今回、初めて自宅や庭が公開されましたが、プライバシーについては?
Patrick と私は、それについてずいぶんと考えました。「私たちの家や庭や暮らしぶりのすべてを撮影に含んでよいものか?」でも最後には「うん、そうした方がいいだろう」という結論に達しました。これは私の素顔に迫るドキュメンタリーです。そして家や庭や私生活は、私を構成する大切な要素の1つです。私たちがどんなふうに仕事をしているのかなど、全てを見せたいのなら、その一部である私生活を見せることは重要でした。
—自宅での撮影で、心境の変化はありましたか?
仕事だけではなく、映像や画像に映し出されたあらゆるものを目にするのは簡単なことではなかったけれど、どんどん慣れていきました。でも、スクリーンや写真で自分たちの私生活を見るとなるとね…。だから、「どうしたものか、本当に個人的な領域に入ってきたぞ」と思ったりもしました。ですが、Reiner はすべてを実に慎重に進めたと思います。彼は行き過ぎることがないように尽力しました。とても嬉しく思います。本当に感謝しています。
—多くをさらけ出すことに不安を感じませんでしたか?
誰もが自分のやり方で服をデザインし、仕事をし、インスピレーションを得ていると思います。パリで開催したインスピレーションズ展で、私はすでにその一端をお見せしました。いや、一端じゃなく、なんて言うのかな… 現実なんです。私の頭に浮かんだいろんな突飛な考えとか、私がどのように仕事をするのかという。それから、映画を観て自分の仕事のやり方が分かったと感じるかもしれないけど、完全には理解できてないはずです。なぜなら私は、誰より自分自身に、毎シーズン驚きを与えなくてはならないからです。つまり私の仕事はシステム化されていないのです。だから、昨日、正しかったことは、明日には正しくないかもしれない。そういう意味では、未来に何が来るかなんてわからないと思います。
—映画の中でいちばん見せたかったこと、いちばん隠したかったことは何でしょう?
もちろん、すべてはパーフェクトだと、カメラの向こうに示したいと思うでしょう。インスピレーションとはこんなふうに湧き上がるものだ、自分は完璧な人間だ、みたいに。でも私は完璧じゃない。そして創作とは、求めれば必ずやって来るものじゃない。最初は、躊躇とか苦悩とか奮闘の瞬間は見せたくなかった。それは何かを作り出す限りない努力や、意図したように物事が進まなかったらどうしようという恐れについてです。でも最後には、美しいバージョンの現実もあるけど、現実は、時としてとても過酷なものになりうると考えるようになりました。
—お気に入りのシーンは?
私が庭や家を歩き回っているシーンが特に好きです。もちろんそれは自分の私生活だから、私のそんな姿を見られる機会はそうそうないと思います。家にいる私は、オフィスにいる自分とは別人ですから。
—いちばん感激したシーンは?
我々がオペラ・ガルニエでファッションショーをやったときに、Reiner が一緒にいたことはとても嬉しかったです。そこでショーを開催するためにおよそ15年間も働きかけてきました。だから、ステージの美しいイメージが映画に収められたのは、本当に喜ばしいことです。同様にバックステージのイメージも実に美しいのです。ファッションショーをやっているのだから当たり前ですが、それが収録されたことをとても嬉しく思っています。
冷静沈着で「病的な完璧主義者」と自嘲する Dries の日常に斬り込み、ここまで親密なポートレートを映像で切り取った Reiner Holzemer とは一体どんな人物なのか。TFPではアントワープで行われた公式インタビューに加え、年末に行われた電話インタビューも織り交ぜてご紹介。ドキュメンタリーを制作するうえでのこだわりや、長期間の密着撮影を通して感じた Dries Van Noten という人物についてなどざっくばらんに語ってくれた。
—なぜ Dries Van Noten の映画を撮ろうと思ったのですか?
Dries は現在、ファッション界で最も興味深い人物のひとりだと思います。彼は独立して会社を立ち上げていますし、創作やデザインの面でも、唯一無二の人間だと思います。私から見ると、彼はファッション界のカリスマ。他のアーティスト達を見るように、Dries のことを見たいと思いました。私は彼がどのように仕事をし、どんな作品を世に送り出し、どんなデザインを作り出すのか。その過程を見たかったのです。そしてその創作の源を見つけたかった。彼の背後には誰がいるのだろう?舞台裏のストーリーは?アーティストとしての進化は?これが私のフォーカスだったのです。
—きっかけを教えてください。
私が最初に Dries に会ったのは、Juergen Teller のドキュメンタリーを撮っているときでした。それが初対面で、私はすぐにDries に心を奪われ、「この人の映画を作りたい」と思ったのです。同時に、彼が撮られることについてあまり快く思っていないことも分かったのです。とても慎重な人ですから。彼が、「よし、じゃあ映画を撮ろうじゃないか」と言ってくれるまで、じつに3年かかりましたよ (笑)。いくつか引き受けてもらった理由はあったと思いますが、今まで受けた様々なオファーと僕のオファーのコンセプトが違っていたからだと思います。僕はファッション界の人間ではなくて、いわゆるデザイナーやファッション関係者のドキュメンタリーをたくさん撮ってきたわけでもありません。ファッション界やそういった部分にしか興味のない人だと、デザイナーのコレクションのバックステージとか、そこで見られるドラマばかりに興味がいってしまう。そうじゃなくて、僕は彼のアーティスティックなアプローチに興味を持ったというのが、たぶん一番の理由だったんじゃないかと思います。ただ、仕事に集中したいというのがあって、どうしてもカメラがあるとチームの集中が切れ、気が散ってしまうんじゃないかということを心配していたから、まず僕が提案したのが、テスト撮影。3日かけて、自分の仕事のやり方を経験してもらって、それで物事が乱れるかどうかを判断してもらったんです。これがちょうど2015年のパリのコレクションを準備しているタイミングでした。そして、そのあと実はやる、やらないの話は一切していないんですね。このままいけそうだなとお互いにおもって、特にやろうという言葉はなくそのまま進んでいったんです。
—このドキュメンタリーはあなたの過去の作品とどのように異なりますか?
私は他のアーティストを撮るのと同じやり方で Dries を撮りました。つまり、彼の今の仕事を捉えようとしたのです。他のアーティストの場合でも、私は被写体が行うことをすべて追いかけていましたから。それから、その人物の経歴を見ます。学歴やデザイナーとしての進化を。これまでと多くの類似点がありました。私は他のアーティストと Dries を同じように扱いました。でも後になって分かったのは、例えば写真家とその作品を追う方が簡単だということです。写真家は、ドキュメンタリーには自発性と挑戦が求められることをすでに知っていますから。もちろんファッション界も同じだと思う。だが、ファッションは多くの人たちに見せることが主体ですから。だから私が Dries を追いかけて気づいたのは、私自身がプロセスやコレクションの準備を見せることに興味があるという点です。Dries はデザイナーとして、最後に完璧なイメージを見せるよう訓練されています。彼は完璧なデザインを見せたいのであり、プロセスを見せたいわけじゃない。プロセスは完成形ではないから。プロセスは必ずしも綺麗で美しいものじゃないし、プロセスの中では多くの試行錯誤がある。これは新鮮でした。私にとって、他のプロジェクトとは違っていました。
—これはファッション映画でしょうか?
ファッション映画だとは思っていないです。私が知っているファッション映画はバックステージのドラマとか、特定のデザインについてのものですから。この映画は、一人の人間について、一人の芸術家について、私が思うにとても感受性豊かな一人の人間についての作品です。リアルな一個人についてのリアルなドキュメンタリー。そして Dries は自分の感情や仕事に対して極めて正直な人間でした。
—長期にわたる撮影でしたがいかがでしたか?
コレクションを4回も追いかけるとなると、少しばかり退屈じゃないかと思われるかもしれないですね。毎回同じ手順を繰り返すわけですから。仮縫いがあってスタイリングがあって、それが延々繰り返される。でも Dries には毎回驚かされました。撮影に訪れると、毎回違うのです。仮縫いもスタイリングも毎回常に違うから、退屈なんて全くしなかったですね。それは私にとってとても重要なことでした。本当に素晴らしかったですね。そして、そう、Dries …。さっきも言ったように、彼は多分私がこれまで会った人の中で、最も慎重な人間でした。彼はカメラに追いかけられることを好まない。発言の全てをマイクが拾って、それを録音されるのも嫌い。撮影される状態は、彼にとって大きな困難を伴うと、何度も私に言いました。カメラがあると少し無防備な感じがして、あまり快適じゃないと。でも、彼の不安をスクリーン上で見ることはないでしょう。それは最初に見たラッシュではっきりしました。彼は撮られるべきであり、私たちは一緒に仕事をするべきだと、私はずっと感じていました。だから彼の不安は画面の中に現れてはないと思います。
—この映画の中でいちばん見せたかったものは何ですか?
まず、Dries がどういう人間かを見せたかったです。これが何より重要でした。ここにデザイナーがいる。彼の仕事を見る。コレクションを見る。でも私たちは彼の素顔についてはほとんど知らない。それが私にとって最も重要なことでした。この人間が何者であるのかを発見すること。そしてだからこそ、その人物にできるだけ密着して撮りたかったのです。私がドキュメンタリーを撮るときに掲げるゴールは、観客が映画を観たとき、その人物に個人的に会っているかのような印象を与えることなのです。
—このプロジェクトをもう一度行うとしたら、どこを変えたいですか?
我々は丸一年かけて Dries を撮りましたが、見逃したこともたくさんあるのです。365日、撮り続けることはできないですから。見逃したのは、仕事の細部ですね。彼が何かに苦悩しているときや、特定の服の問題の解決とか、そういうもの。もし、もう一度チャンスがあれば、そうしたことにもっとフォーカスしたいですね。
—好きなシーンは?
好きなシーンは、自宅でドリスが花瓶に花を生けて、彼のパートナーのパトリックが手に大きな枝を抱えてドアを通り抜けようとしているシーンです。とても素敵なシーンですね。何とかドアを通り抜けようと四苦八苦して。彼らは大邸宅に住んでいますが、あれほど大きな家でも枝が大きすぎるとドアを通り抜けるのは大変なんだってわかりますよ (笑)。
—ストーリーの深みとプライバシーを追求する上で、どのようにバランスをとりましたか?
私は特定の人物についてのドキュメンタリーを撮るとき、できるだけ親密な空間を維持しようと努めます。スタッフは最小限に留めます。一人で撮るときもあります。録音係と二人で臨むときも。それがカメラの前で人に不安を感じさせない最低限の人数ですね。カメラの前にいて、周りにそれ以上の人がいたら、いつも上手くいかなくなる。人数制限の厳守は仕事上の鉄則です。そしてたくさん撮る。ミーティングがあるときは最初から最後まで撮る。スイッチをしょっちゅうオンにしたりオフにしたりして、こちらに注意を引きたくないですから。私がいることを忘れて欲しいのです。自分の存在をみんなが忘れてくれるときが、最高の瞬間です。Dries の場合はそう簡単にはいかなかったけど (笑)。撮影が始まって30日経った後でも、彼は「カメラがあると、いつもちょっと混乱するんだ」とか「スイッチを切ってもらえないかな?」と言ってましたから。でも、彼も対処の仕方を学んだと思います。私を信頼してくれた。Dries は非常にストレートな人間だと思います。彼はいつもおおらかというタイプの人ではないし、またやらなくちゃならない仕事について四六時中考えている本当に忙しい人です。でも彼は絶対にいい加減なことはしない。常にとても率直で正直。嫌なことがあれば、はっきり口にする。これはとても重要なことだと思います。
—オペラ・ガルニエの舞台を撮影するのはいかがでしたか?
Dries はパリのオペラ・ガルニエでショーをしたいと考えていました。私は、「じゃあ、それは絶対に撮らなくちゃ」。とても特別な場所だし、またとない機会だから。彼は16年間も待ち続けたんです。大喜びしていました。私たちもとても喜びました。もちろん、この機会を見逃す手はない。だから映画に収めました。4番目のコレクションです。
—編集でカットされた映像はどうするのですか?
我々は200時間近くの大量の映像を撮影しました。ひとつのプロジェクトでこれほど多くを撮ったことは今までありません。最終的にDVDに収録されるものもあるけど、残りは自分のアーカイブに収められることになると思います。100年後に誰かが、Dries van Noten の当時の仕事について知りたいと思うかもしれないですから。
—撮影前のイメージと、撮影後では彼の印象に違いはありましたか?また、驚いた意外な一面などはありましたか?
本当に毎日彼と過ごすうちに驚かされることがたくさんありました。特にアントワープの彼のアトリエを訪れている日々で、コレクションの初めは生地を見て考えたり、コンセプトから立ち上げていくわけですが、その時に彼が持っているアイディアとか、彼がイメージする人物とか、そういう新しいアイディアが毎日そこにあって驚かされました。特に劇中出てくるメンズコレクションの白とチェックをちょっとだけのせてみたいなコンセプトからスタートしたコレクション、その部分を撮ってから2週間後にアトリエに行ったときに、突然前にはなかったマリリンモンローとか唇とか、えび?みたいなデザインが置かれていて、突然どこから湧いて来たんだろう!?と驚きました。それほどまでにファッションについてのアイディアや空想、ファンタジーが常に彼の中では進展していっているんだなということに驚かされましたし、一年でコレクション4回作っていく中で、一人のアーティストがこんなにもたくさんのアイディアを持てるんだということがもしかしたら最大の驚きかもしれません。
—Dries はプロフェッショナルな完璧主義者と自身を揶揄していますが、そこはどう思いましたか?
本当に完璧主義者だと思います。花のアレンジをしているシーンがありますが、あれを何時間もやるし、ちょっと物を動かすのもミリ単位で動かしていたりするし、それは服をデザインしているときも一緒なんです。僕はファッションに関わる映画を作ったことがなかったためあまり知識がなかったのですが、プライベートの中に発揮される完璧主義が、仕事の中でも発揮されているということが、非常に興味深かったです。服を生地から作っていくときに、半ミリ単位で調整していくし、それは正確をきする追及の仕方で、コントロールしたがるところもあって、それは自社のCEOでもあるし、どの選択に責任をもって、例えばショーであれば、照明であるとか、ここがどうとかすべての責任を取る。お店でも外観をどうするか、内装をどうするか、家の中でも完璧主義者。スタッフにとっては、もうちょっとリラックスしたらと言いたくなるような時もあるようですが、しかし、完璧主義でなくてはいけないとおもうんです。あれだけのクオリティを生み出すためにも。僕は Dries の服をよく着ています。Dries の服を着てから他のデザイナーの服が着れなくなってしまって。すごくフィット感がいいし、彼の完璧主義なところが服を身に着けたときに感じられるんです。
—完成した映画を観た Dries はどうでしたか?
最初に見せたときは本当に緊張していました。見せたのが完パケ版ではなかったので、今の尺より10分くらいあるバージョンを、結構近い席に座って観ていたのですが、鑑賞中声を掛けてくることもなくて、笑ってくれることもなくて、僕はとても緊張してしまいました。観終わって、Dries に「どう思いますか?あなたの肖像として正しいとおもいますか?」と聞くと、「正直、今言うのは難しい。」と。と言うのも、Dries 自身も初めてカメラの前に立ちそれが好きな方ではないので、“初めて自分の側面とか、性質とか性格とかっていうのがにじみ出ているのに直面しなくてはいけなかったから” という感じでした。ただ、数日後に話をしたら、Patrick やほかの仲のいい友人、スタッフが、観て凄い良かったと言ってくれて、特に Patrick がもの凄く気に入ってくれていたんですね、それを聞いて。そのあと数週間後に完パケ、映画を終わらせたんですが、話は一切しなかったそうなんです。その後に、Dries の方からアントワープでプライベートスクリーニングを主催してくれて、その時に久しぶりに作品について話して、その上映前に Dries がスピーチで、監督にすごく感謝しているということと、作品が好きで気に入っているということ、そこに映し出されているのは間違いなく自分であると言ってくれて、私にとっては超エモーショナルな瞬間でした。控えめな彼は普段から自分の事を話すタイプではないから、そういう事を話してくれているということで、本当に気に入ってくれているというのがひしひしと伝わってきて。それがちょうど一年前のことだったんですが、未だに二つ三つ見られるのが恥ずかしい、プライベートなシーンがあって、あのシーンって外せないの?って聞かれたんですが、それは外せませんと答えました。だって、プロフェッショナルなデザイナーとしてファッション界のマシンのように機能している彼を捉えるだけでなく、他の誰もが持っている感情をこの素晴らしい人も持っているんだという所も見せるということが重要だと思っていたから。だから、そういうシーンに対する気恥ずかしさは残っているものの、作品は気に入ってくれているみたいです。Patrick と共にこの作品をずっと応援してくれて、今までの自分の作品と人生というものをきちんとリアルに映し出している作品だと言ってくれているんです。
作品情報 | |
作品名 | ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男 |
原題 | Dries |
監督 | Reiner Holzemer (ライナー・ホルツェマー) |
音楽 | Colin Greenwood (コリン・グリーンウッド)、Matthew Herbert (マシュー・ハーバート) |
出演 | Dries van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン)、Patrick Vangheluwe (パトリック・ファンヘルーベ)、Iris Apfel (アイリス・アプフェル)、Suzy Menkes (スージー・メンケス) |
配給 | アルバトロス・フィルム |
製作国 | ドイツ、ベルギー |
製作年 | 2016年 |
上映時間 | 93分 |
HP | dries-movie.com |
© 2016 Reiner Holxemer Film – RTBF – Aminata bvba – BR – ARTE | |
2018年1月13日(土)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー |