銀座メゾンエルメス フォーラムにて、ミルチャ・カントルの展覧会「あなたの存在に対する形容詞」が開催

銀座メゾンエルメス フォーラムでは、4月25日(水)よりパリを拠点に制作を続けるアーティスト、Mircea Cantor (ミルチャ・カントル) の展覧会「あなたの存在に対する形容詞」を開催している。

私たちが生きる世界の複雑さや不確かさを、透明な距離や余白をもたらす独特の詩的な表現によって浮かび上がらせてきた Mircea Cantor。2005年に発表した「Deeparture」は、真っ白なギャラリー空間に1対の鹿と狼を放ち、自然から隔絶された獣たちの不自然で危うい緊張関係を観察するといったメッセージ性の高い映像作品で国際的に話題を呼んだ。純白のドレスをまとった美しい少女たちが、ゆったりとしたリズムで足元の白い砂を箒で払ってゆく儀式のような動作を繰り返す映像作品「Tracking Happiness」(2009) や、指紋によって描かれた有刺鉄線を思わせるドローイング「Chaplet」(2007)、空き缶で作られたバラ窓のような彫刻「Rosace」(2007) など、簡素な素材やミニマルな身振りから、ミクロとマクロのレベルで行き来するさまざまな問いを浮かび上がらせ、私たちの身体へ深く刻まれるような体験を作品を通してもたらしてきた。

Tracking Happiness | 2009 11’00” | S-16 mm transferred on HDCAM | Sound: Adrian Gagiu Courtesy of the artist, Magazzino, Rome and Dvir Gallery, Brussels/Tel Aviv

日本での初個展となる本展では、銀座メゾンエルメスのガラスブロックの「透明性」に着想を得た新作を展示する。人々が透明なプラカードを持って行進する映像作品は、アルバニアで撮影された「The landscape is changing」(2003) に連なるシリーズとして東京のさまざまなロケーションで撮影されたもの。「透明な主張」を掲げる群集を映し出すことで、東京の日常のなかに詩的な瞬間を呼び起こしてゆく。また、数十本ものアルミニウムの鐘とガラスの屏風を組み合わせたインスタレーションでは、静寂や、響きあう鐘の音が、一陣の風のように目には見えない記憶や感情を呼び起こし、私たちの内に透明な波動を生み出すだろう。規則や慣習、権力といった透明なものの力によって無意識のうちに縛られている私たちの存在。彼の作品はここで、「あなた」を形容する言葉についてのシンプルな問いを通じて、不確かな世界のなかで個人の存在を成り立たせる地平についての問いを投げかける。

Rosace | 2007 Drink cans, plexiglas, aluminum | ø 400 cm Photo: Aurélien Mole | Courtesy of the artist and Dvir Gallery, Tel Aviv

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＜プロフィール＞
Mircea Cantor (ミルチャ・カントル)
1977 年、ルーマニア生まれ。現在はパリ在住。日常の世界がいかに複雑で不確かなものかを控えめな身振りで気づかせる、写真や彫刻、 映像、インスタレーションなどを手がける。アルバニアの首都ティラナで、スローガンの代わりに大きな鏡を掲げて練り歩く様子を映像に収めた「The landscape is changing」(2003) や、狼と鹿がギャラリー内で出合う様子を映像に記録した「Deeparture」(2005) などで国際的な注目を集めるようになる。マルセル・デュシャン賞(2011) をはじめ、受賞経歴は多数。作品はポンピドゥー・センターやニューヨーク近代美術館などにも収蔵されている。