【Histoty】 アレキサンダー・マックイーンとローズ
History
【Histoty】 アレキサンダー・マックイーンとローズ
Alexander McQUEEN
and Rose
text: kaori mori
画家やクリエイターにとって、花はいつの時代も魅力的なモチーフであり、想像を掻き立てられるインスピレーションの源として幾度となく取り上げられてきた。それはファッションの世界でもしかり。毎シーズン、多くのデザイナーたちのランウエイにはプリントや刺繍、装飾として花々が咲き乱れる。Alexander McQUEEN (アレキサンダー・マックイーン) とローズ。この二つの繋がりもまた、美しさや儚さ、時には生と死、さまざまな意味合いで用いられ、濃密な関係性を築いてきた。
生と死の表現としての花
1992年の創設から、数々の伝説をファッションに刻んできた Alexander McQUEEN。中でも人々の記憶に刻まれるアーカイブのひとつとして有名なのが、2007年春夏シーズンの「Sarabande (サラバンド)」コレクションで発表された、ボディ一面に生花を飾ったドレスである。フィナーレで登場したこのドレスは、息を呑む美しさを持つと同時に、やがて朽ちていく花々の様子が「生と死」を彷彿とさせ、人々の情感を誘った。
豊かな自然の生命力としてのローズ
2010年に創業者 Lee Alexander McQueen (リー・アレキサンダー・マックイーン) がこの世を去った後、彼の右腕としてブランドを支え続けていた Sarah Burton (サラ・バートン) がデザイナーに就任。Alexander McQUEEN の精神を受け継ぐなか、花のモチーフはやはり彼女にとっても大切な存在であり続けている。たとえば 2019年秋冬シーズンは、彼女の生まれ故郷である英国北部が着想源となり、豊かな自然の中で力強く咲き誇るローズがデザインソースのひとつとなった。フィナーレで登場した真紅のシルクタフタのドレスは、造形そのものがローズの姿を描き、複雑に構築された布の動きとともにエネルギーに満ち溢れる。
未来へ託す思い
現在、ロンドンのオールド ボンド ストリートに位置する Alexander McQUEEN 旗艦店のトップフロア (3階) には 2019年1月よりクリエイティブな体験のできる空間が設置されている。イベントや講演会、特に学生を対象としたエキシビションと教育の場としての活用を目的としたスペースだ。ここで昨年 11月末より、エキシビション「Roses(ローズ)」が開催されている。
展示場のエントランスで出迎えてくれるのは、伝説的な Sarabande の生花を使ったドレス。奥に進むと、Sarah Burton によるローズドレスをはじめ、さまざまなフラワードレスが展示されている。それぞれのボードにはデザインの説明、制作背景や細かな素材使いが記されており、学生やファッションを志す人々にとっては、インスピレーションとともに多くの学びが得られそうだ。
新型コロナウイルスの影響で自宅謹慎を余儀なくされている現在は、SNSを通じてブランドとデザインスタジオ、学生などコラボレーターを結びつけるプロジェクトとして、参加型アートプロジェクト McQueen Creators を始動。第1弾のテーマとして、ローズドレスのスケッチがお題となっている。
英国の国花でもあるローズ。そしてパンクのスピリットに根ざしながら変わらぬエレガンスを描き続ける Alexander McQUEEN。両者の蜜月関係はブランドを形成する重要なシンボリズムのひとつとなり、今後もさまざまなクリエーションとなって発展していくことだろう。