「方丈記」の無常観は現代にリンクする。名和晃平個展『Oracle』がジャイルギャラリーにて開催
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「方丈記」の無常観は現代にリンクする。名和晃平個展『Oracle』がジャイルギャラリーにて開催
kohei nawa
new exhibition "Oracle" at gyre gallery
京都を拠点に国内外で活躍する現代彫刻家の名和晃平による個展『Oracle』が GYRE GALLERY (ジャイルギャラリー) にて開催中だ。会期は2020年1月31日まで。
彫刻を「目の前の物質そのものから感覚を引き起こす」芸術と捉え、立体からキャンバスを用いたものまで幅広い作品を発表している美術家の名和晃平。自身が主宰し、2019年に10周年を迎えた「Sandwich」は、京都・伏見のサンドイッチ工場跡をリノベーションし、スタジオ、オフィス、ワークショップスペース、レジデンスを備えるプラットフォームで、建築家やデザイナー、エンジニア、コレオグラファーらクリエイターが集い、日々コラボレーションが繰り広げられている。
今回 GYRE GALLERY で展示されるのは、今年に入って完成した新作ばかり。新型コロナウィルスの影響により、作家自身が国内で過ごす時間が増えた影響からスタジオ内で繰り返し行われた実験と制作の賜物ともいうべき作品群だ。
起点となったのは、2019年に二条城で開催された展覧会『時を超える:美の基準』で発表された「方丈記」の無常観をテーマにした映像インスタレーション「Tornscape」。鎌倉時代に書かれ、日本の3大随筆にも数えられるこの史料は、地震や竜巻、疫病、飢饉といった災害を通して形あるものは無くなるという無常観を描いており、現代にもリンクするところがあると名和は考えたという。
そこで生み出されたのは、廃液となったメディウムと粒子の違う絵の具と水などを混合し、流し広げることで、変容するランドスケープを表現した「Dune」や油絵の具と油を組み合わせることで、数ヶ月間かけて状態変化が続き、本個展開催中も変化していく「Black Field」といった実験作品。また、粘度調整した絵の具が入ったタンクに一定の圧力をかけ、ノズルから出る絵の具によって描かれた「Moment」や特殊顔料が塗布された半透過性の板の表面に、UVレーザーを照射して描いた植物の種子や胚珠をテーマにした3Dモデルの断面が紫外線によって現れては消滅していく「Blue Seed」といった、制作過程を知るほど興味深くなる作品が並ぶ。
加えて、オブジェクトを透明の球体で多い、その存在を「映像の細胞」に置き換えるという名和の彫刻作品「PixCell」の新作や鎌倉時代の「春日神鹿舎利厨子」をモチーフに京都の伝統工芸復興プロジェクトとして伝統的技法を用いた木彫漆箔仕上げの「Trans-Sacred Deer」も展示されている。
合わせて、GYRE の吹き抜けには2018年にピアニストの中野公揮氏のコンサートに舞台美術として登場した彫刻作品「Silouette」が、明治神宮鎮座百年大祭の一環として明治神宮ミュージアム前には「White Deer (Meiji Jingu)」、本殿手前の南神門には「Ho / Oh」が展示中。この機会に GYRE GALLERY から明治神宮まで散策してみるのもいいかもしれない。