aēsop
launches new fragrance Inspired by Greek mythology

イソップが生み出したのは、想像力をかき立てる香り。調香師バーナベが語るフレグランスの奥深さ

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イソップが生み出したのは、想像力をかき立てる香り。調香師バーナベが語るフレグランスの奥深さ

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interview & text: yuko igarashi

教科書や小説で見かけた、古代から現代まで語り継がれるワンシーン。もしタイムスリップできるとしたら、どんな空気の匂いだろう? 現実と想像世界の境界にある世界「リミナルスペース」に着想を得た Aēsop (イソップ) のフレグランスコレクション「アザートピアス」。この秋、4つ目のラインナップとしてギリシャ神話をモチーフにした「イーディシス オードパルファム」が新たに仲間入り。地面、草木、人など。周りの環境から構成される「空間」を再現した複雑な香りはどのようにして作り出されたのか。調香を手がけた Barnabe Fillion (バーナベ・フィリオン)に本作のインスピレーション源からオススメのつけ方までをインタビュー。ストーリーを知れば、きっと誰かに話したくなるはず。

2012年よりAēsopのフレグランスの香りを手がけるフランス人調香師バーナベ・フィリオン| Courtesy of Aēsop

—新作「イーディシス」のテーマについて教えてください。

昨年リリースしたフレグランスコレクション「アザートピアス」の「ミラセッティ」「カースト」「エレミア」の3つは、架空の「場所」を表現しました。しかし、今回の「イーディシス」はギリシャ神話に登場する美少年「ナルキッソス」からインスパイアされています。彼はナルシストの語源とも言われるほど、自分が大好き。水面に映された美しい自分の姿に目が離せなくなり、寝食を忘れ、ずっと見続けたという逸話が今でも語り継がれています。

私は、ナルキッソスは世界最初のエコロジストではないかと感じています。なぜなら彼は自分自身、また自分自身の投影された姿を自然の中に取り込んでいるからです。見つめる先にいる自分は、自然の一部なのです。そのため、人と自然が一体化した香りを演出しました。また、物語で登場する鏡という要素は、終わりのないどこかへ導く無限性という考えを生み出すことができます。鏡はなぜか、誰しもが自分の中に抱えているある種の空虚感に結びつけてくると思うのです。アザートピアスシリーズ全体の根底には瞑想的、哲学的な側面がありますが、特に「イーディシス」には、自分自身とつながるというコンセプトと親和性が高いと思います。

—調香するときのそういったアイディアはどこから来ていますか?

私はもともとビジュアルアートスクールで写真を学んでいました。ポラロイドカメラで植物の形状や見た目を顕微鏡のように撮影していて、次第に植物や香りに興味を持つようになったのです。写真で表現していたのは、自然界に存在する構造物や構造の繰り返しを描く「自然の建築」。めしべやおしべなどの主たる構成要素を撮影することが多かったですね。そして徐々に、成分がもたらす作用や嗅覚に及ぼす機能、またアロマ同士の相互効果などを理解することに惹かれていきました。香水を作るときはこのようなスタイルの写真からインスピレーションを得ています。

—どのようにして今回のテーマを香りで表現しましたか?

ウッディで華やかな香りです。メインはブラックペッパー、フランキンセンス、そしてサンダルウッドで、この成分ひとつひとつに意味を持たせています。ブラックペッパーは、鏡に映った自分を初めて見たときの「ショック」を暗示し、フランキンセンスが放つ芳醇なバルサミコのノートに異世界突入体験のシーンを託し、さらにサンダルウッドが透明性、そして人と自然の一体化を表現しています。

イーディシス オードパルファム 50mL ¥21,450

—より詳しい香りの説明を教えてください。

トップノートは、プチグレン、ブラックペッパー、フランキンセンスを含み、水のほとりを思わせる淡いフローラルの香りも漂います。そのため、非常にフレッシュではじけるような香りだといえるでしょう。クミン、シダー、フランキンセンスが醸すミドルノートは、全体としてスパイシーかつウッディで、お香のようでもあり透明感のある趣です。フランキンセンスとクミンが、ドライウッドとあわさりメタリック要素を添えますが、あくまで温かみの感じられるアプローチによるものです。これは、鏡の中に「入る」、あるいは鏡を通り抜けて異世界へ突入することをイメージしています。そして、ベースノートは、ふんだんに使われているサンダルウッドがカギとなり、シダーとベチバーも香ります。ベチバーは、ナルキッソスの神話で描かれる、泉へとつながる草木や土壌などの緑を彷彿させる一方で、木や樹脂などの温もりも感じさせます。シダーは強いムスクの香りをもたらし、さらにボリュームを加える役割をサンダルウッドが果たしてくれるのです。

—調香するうえで苦戦したことはありますか?

「透明感」をたたえながらも個性あふれる香りを作ろうとした点です。ライトながら、ボリューム感のある香りを出すためにかなり苦労しました。また、香りを長時間継続させるのもとても難しかった。時間経過による香りの変化に関して、時とともに進化を遂げる一定のリズムというものを見出さなければならなかったからです。成分の主役はサンダルウッド、一時的にいろいろな香りが登場する仕掛けをすることで完成形に辿り着くことができました。

Courtesy of Aēsop

—「イーディシス」の魅力について教えてください。

つけていることを忘れるほど、肌なじみがよく、すでにそこに存在していた肌の層のように感じられるのが特徴。また、皮膚や体温に呼応するので、身につける人によってかなり香りの変化があります。なので、ひとりひとりの肌で体感していただきたいフレグランスです。ウッディでスパイシーな香りを好まれる方は、この香りを新しくモダンなものだととらえるでしょう。軽やかなグリーンやフローラルの香調が好きな方々にも好かれるかと思いますが、対照的に香りに深さや濃厚さを求める人にもマッチします。

—日常に寄り添うようなデイリー使い、もしくは特別な日につけたい香り、どちらに分類されると思われますか?

この香りは昼間の光が反射した、森の中の水面にうつる鏡の中の世界を表現しています。そのため透明感のあるフレッシュな香調なので、普段から使用できる香水です。しかしながら、イーディシスは肌との相互作用が深いうえに、サンダルウッド、シダー、ベチバーなどのベースノートの官能性があわさるので、夜にはより魅力を放つ香りとして間違いなく機能すると思います。

Courtesy of Aēsop

—アザートピアスのシリーズはアロマ的要素が強い新しい香水だなと個人的に感じています。調香する際にそういった点は意識されましたか?

香水をひと吹きすることで、自分自身を映し出し、また自分の感情と対話し高め、広げることができるような心地よい場所を作り出したいという思いがあります。それを実現したのが、このフレグランスシリーズです。サンダルウッドをたっぷり使用することで、境界のないリラックスできる空間を生み出したのです。

—Barnabeさんがオススメする香水の付け方を教えてください。

香りを持続させたいと思ったときは、ボディクレンザーやボディスプレー、ボディ ロールオンなど、香りを引き立てる製品と重ねづけをするとよいでしょう。また、私はスカーフや布などに香水をつけることが多いですね。スカーフが動いたときに漂う、さりげない香りは素晴らしく、異なる角度からさまざまな香りを演出することができます。