注目の高感度ファッション誌『Fantastic Man』と『The Gentlewoman』のアートディレクター、ヨップ・ヴァン・ベネコム
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注目の高感度ファッション誌『Fantastic Man』と『The Gentlewoman』のアートディレクター、ヨップ・ヴァン・ベネコム
FANTASTIC MAN and The Gentlewoman's Art Director Jop van Bennekom
「いま注目する海外雑誌はなんですか?」と聞かれると、最近はその答に少し困ってしまうことが多い。自分でも雑誌好きとして自負しているにも関わらず、インターネットでさまざまな情報が入手できるようになり、以前よりも雑誌を購入する機会も減ってきた。昔は海外に行けば、帰りのスーツケースは現地で購入した雑誌やヴィジュアル書籍で一杯になったものだ。スーツケースのスペースをあけるために、お土産どころか、文具や着替えまでホテルで捨ててきたこともある。しかし、最近はどうだろう。一部のマニア向けは別として、海外のどの書店に行ってみても、置いてある雑誌や書籍はほとんど同じ。雑誌もタイトルが違うだけで、内容も似たようなものばかり。どの都市でもスターバックスやマクドナルドなどのチェーン店が軒を並べているのと同じような風景だ。
「いま注目する海外雑誌はなんですか?」と聞かれると、最近はその答に少し困ってしまうことが多い。自分でも雑誌好きとして自負しているにも関わらず、インターネットでさまざまな情報が入手できるようになり、以前よりも雑誌を購入する機会も減ってきた。昔は海外に行けば、帰りのスーツケースは現地で購入した雑誌やヴィジュアル書籍で一杯になったものだ。スーツケースのスペースをあけるために、お土産どころか、文具や着替えまでホテルで捨ててきたこともある。しかし、最近はどうだろう。一部のマニア向けは別として、海外のどの書店に行ってみても、置いてある雑誌や書籍はほとんど同じ。雑誌もタイトルが違うだけで、内容も似たようなものばかり。どの都市でもスターバックスやマクドナルドなどのチェーン店が軒を並べているのと同じような風景だ。
時代の変化にあわせて状況は変わる。ましてやファッションをテーマにした雑誌であればなおさらだ。80年代ロンドンの「i-D」「The Face」、90年代にはパリで「Purple」「selfservice」などが創刊され、20世紀におけるファッション雑誌のスタイルはある程度の完成形となった。多くの人々は、良くも悪くもこれらの過去の雑誌の影響を受けている。それ以降はこれといった新しいスタイルのファッション雑誌を作り出せていないのが現実だ。そんななか2005年に創刊されたメンズファッション雑誌「Fantastic Man」は、00年代を代表する新しいスタイルのファッション雑誌として衝撃的だった。創刊から約7年経ったいまでもその人気にまったくかげりはなく、他の雑誌の追随を許さない注目のファッション雑誌となっている。毎号いったい誰が特集されるのか、どんな内容なのか、どんなデザインなのか、とても楽しみな雑誌だ。
その人気の理由はいくつかあげられるだろう。「THE GENTLEMAN’S STYLE JOURNAL」とサブコピーがつけられているように、ファッション雑誌でありながら、写真イメージだけでなく、読み物としてのテキストも充実していること。毎号特集され、表紙にもなる人物のタイムリーなセレクション。(14号ではファッションデザイナー Raf Simons、15号は freize/freize art fairのMatthew Slotover)。モノクロ、2色、4色など、ページ構成やコンテンツに合わせて考えられた印刷と紙質。シンプルながら、読みやすく美しいレイアウト。他にもいくつも理由があげられるが、最も重要なのはこの雑誌の共同発行人/編集人、アートディレクション/デザインを担当しているのが Jop van Bennekom ということだ。
1970年生まれの彼は、1997年マーストリヒトの大学院時代に「RE」というインディペンデント雑誌を創刊し、その後2001年には現在「Fantastic Man」の共同発行人兼編集人の Gert Jonkers とともに、ピンクのラフな紙に印刷されたスタイリッシュなホモセクシャルマガジン「BUTT」(2011 AW #29号で休刊、現在はオンラインマガジンとなっている)を創刊する。そして、2010年に「Fantastic Man」の姉妹紙である「The Gentlewoman」を創刊、編集長に Penny Martin を迎え、彼はクリエイティブディレクション、アートディレクション/デザインを担当している。
なかでも、彼がインディペンデントとしてつくっていた実験的な雑誌「RE」やゲイマガジン「BUTT」などは、デザイン/アート関係者から高く評価されており、いま見ても新鮮だ。彼が手掛ける雑誌は「Fantastic Man」「The Gentlewoman」も含め、どれも単なる情報を伝えるだけの雑誌メディアというよりは、コンテンツからレイアウトなど細部にまでデザインされた、デザインプロダクトとして捉えることができるのではないだろうか。それは彼が手掛けた雑誌を手にとって、ページをめくり、見て、そして読んでみると、きっとそれがよくわかるに違いない。とても気持ちよく、美しく、楽しい、雑誌本来が持つ魅力を堪能することができるはずだ。それは彼が元々デザイナーでありアートディレクターであるということも大きな要因となっているだろう。ファッションジャーナリストやファッションエディターではなく、アートディレクター的な視点からファッション雑誌を編集/出版/デザインすることによって、雑誌そのものがコミュニケーションメディアとしてデザインされている。そして、それが他のファッション雑誌との違いでもある。
21世紀はもはや読者をイメージやブランドだけでごまかすことができない時代でもある。カタログ雑誌やタイアップばかりの雑誌、あるいは他の雑誌を真似したような雑誌では、読者とのコミュニケーションが成立するわけがない。本質的なところでしっかりとデザインされている「Fantastic Man」「The Gentlewoman」のような雑誌にこそ、広告出稿が増え、部数も伸び、評価されているという現実は、あまり明るい話がない雑誌業界にとってはとても嬉しい話ではないか。
蜂賀 亨(はちが・とおる)/クリエイティブディレクター
大学卒業後、ピエブックスを経て、クリエイターマガジン「+81」を企画/創刊し、11号まで編集長を務める。 その後「GASプロジェクト」開始にあわせて、クリエイティブディレクター、エディトリアルディレクターとして、書籍シリーズ、DVD、GAS SHOPのディレクション、展覧会の企画等を担当。 現在は、世界のクリエイティブジャーナル誌「QUOTATION」編集長ほか、クリエイティブをテーマに様々な分野で、企画/プロデュース、執筆、デザイン、ディレクションなどで活躍中。