【香料連載】 第2回 砂糖
Select
【香料連載】 第2回 砂糖
open the door to a new world of scents vol.2 sugar
photography: So Mitsuya
text: AYANA
edit: miwa goroku
人気の香り、ときめく余韻、あの人の香り、刺激的なスパイス…… 香りに求める要素は人それぞれ。さらにその日、その場所によって、使いわける香りをいくつか知っていると、服装や気分まで変わってきそうです。ファッションフレグランスからニッチなメゾンフレグランスまで、どこまでも広がる膨大なラインアップから、ビューティライターの AYANAが<香料>をフックに香りの魅力を紐解く新連載。独自のデジタルコラージュで注目を集める写真家・三ツ谷想のヴィジュアルとともに、新しい香りの世界へとつながる入り口までご案内します。第1回の「お茶」の香りに続き、今回は「砂糖」にフィーチャー。
いうまでもなく、さらさらの砂糖そのものに香りはほとんどありません。ですが、砂糖が加わることで香りの魅力が豊かになる、そんな例はたくさんあるのです。さっぱりと甘酸っぱいサワーチェリーは、シロップに漬けるとぐっと濃厚に。渋みの強いオレンジの皮も、砂糖をまぶせばほろ苦のオレンジピールに。プレーンなパンにアイシングをたっぷり効かせれば、しっとりと甘いペストリーに変身します。
砂糖による化学反応は、フレグランスの世界でもひとつの重要なモチーフになっています。重さがあってじんわりと甘い……そんな香りを表現するには、バニラやシナモン、フルーツ、ミルク、カカオ、アーモンドなどがいい仕事をしてくれます。
また、砂糖が変化して生まれる香りもあります。砂糖を火にかけて作るスティッキーなお菓子──キャンディやキャラメル、シロップなど──には、甘く香ばしいニュアンスが含まれます。かつてエルメスの専属調香師だったジャン=クロード・エレナは、バニリン(バニラの香りの主要成分)やエチルマルトール(焦がしたカラメルのような香気成分)などの有機化合物を巧みに組み合わせ、綿菓子やキャラメルの香りを見事に描きました。こうしてみると、砂糖は実に饒舌な素材なんだなと感心してしまいます。
さまざまな手法によって生まれる「シュガリーな香り」に共通するのは、一度味わったら抜け出せない強烈な中毒性ではないでしょうか。誘惑やアイロニー、官能、いたずらなどの「毒っ気」を、カラフルな包装紙でくるんだようにポップな世界は、どこか背徳的で、だからこそめくるめく幸せに満ちた空気を孕んでいます。惑わすつもりが惑わされていた、そんなドラマを楽しむ香りなのかもしれません。