Interview With Tori Matsuzaka

PORTRAITS | Sep 15, 2017 9:00 PM
9月23日(土) より公開される映画『ユリゴコロ』。熊澤監督をして「香り立つような芝居ができる役者」と言わしめる松坂に本作への意気込みや役者としての覚悟を聞く。
Photo by UTSUMI

Photo by UTSUMI

2011年に発売し、瞬く間に沼田まほかるブームを巻き起こした傑作ミステリー『ユリゴコロ』。原作には映像化のオファーが殺到したが、複雑な伏線や叙述トリックは映像化不可能と言われ、企画がなかなか成立しなかったという。今回誰よりも映像化を望んだ石田雄治プロデューサーの大胆な原作改変と熊澤尚人監督による幻想的な映像美によって、実写映画化が実現。ダークで過激な要素もありながら、はかない人間愛を描く。半世紀にわたって紡がれるストーリーの中で映画のオリジナリティが色濃く出ているのが現代を生きる人々を描いたシーンだ。松坂桃李はこの現代パートの中心となる人物、亮介を演じる。父の病気が発覚したと同時に婚約者が失踪。加えて、「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどっか普通と違うのでしょうか」という異様な書き出しで始まるノートをきっかけに徐々に自分の知らなかった過去に触れ、葛藤する青年を演じている。熊澤監督をして「香り立つような芝居ができる役者」と言わしめる松坂に本作への意気込みや役者としての覚悟を聞く。

 

—生まれながらに絶望的な失望感を抱え、「死」を味わうことでしか生きる悦びを感じられない美紗子 (吉高由里子) を中心に物語は進みますが、惨殺なシーンも多い中、人間同士の愛に向かう姿が描かれていて、いろいろと考えさせられました。

そうですね。美紗子のシーンは描写的に目を覆いたくなるようなところがありながら、彼女の人生に光をもたらす洋介 (松山ケンイチ) とのシーンは、究極の愛が描かれていると思います。

—松坂さん演じる亮介は現代を生きる人物ですが、一冊のノートを読み進めていくうちに温厚な人柄から、徐々に凶暴な面も表に出てくるようになります。そういう役柄の変化はどう意識して演じられたのでしょう?

亮介が自分でも知らない一面に出会うことで生まれる「無自覚の感情」は一つのことがきっかけに一気に出るんじゃなくて、ノートを読み進めていく過程や、細谷さん (木村多江) とのやりとりを重ねていくうちに少しずつなんですね。今回は順撮りではなかったので、その都度、監督と相談して、亮介の「無自覚の感情」をどこまで出すか、バランスを大事に表現しました。亮介自身、一つの感情で成り立つ人ではないんです。おさえきれない凶暴さと、それに抗いたい気持ちとが同居している。ときには一方の感情が強かったりするけど、0 か 100 になることはない。シーンごとにどちらの感情が強いのか、その微妙な違いを表現したいと思いました。それは凶暴さだけじゃなくて、優しさ、悲しさなどあらゆる感情についてもそうです。一つの感情だけに寄りかからないで、なんとか必死に立とうとする亮介の姿を繊細に演じたい、と。

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

—同じシーンの中にものすごく怖い亮介もいるし、落ち着きを取り戻して冷静にもなる亮介もいて、そういう微妙な心の揺れが見て取れました。松坂さんが演じた中でもっとも印象的なシーンはどこですか?

クライマックスで細谷さんと対峙したところですね。夜中から夜明けまでのシーンですが、実際の撮影時間もその時間帯で撮っていたので、精神的にも体力的にもなかなかハードでした。おかげでリアルな疲労感が出ていると思います (笑)。

—過去と現代を結ぶ大事な場面ですよね。松坂さんは過去の世界にいる吉高さんや松山さんと撮影は別々だったと思うのですが、完成した作品をご覧になって、過去のシーンに対してどのような感情を持ちましたか?

映像がきれいで時間を忘れるほど引き込まれてしまいました。凄惨なシーンも多々あるのですが、照明の使い方、独特のカメラワーク、色合いが美しく、背筋が凍るほどのシーンでも変な生々しさがなかった。現実なのか非現実なのかわからないような、そんな不思議な印象を持ちましたね。美紗子がしていることは冷酷なんですけど、その映像美に圧倒された感じです。

 

『ユリゴコロ』

—映像の美しさは撮影を担当されたカメラマン今村圭佑さん特有のものだと伺っています。カメラのブレを抑えるスタビライザーを多用した移動撮影や、反射光を使ったハレーション照明による画作りなど時間をかけて現場で撮っていた、と。今村さんを起用した熊澤監督もまた、一般的には共感しづらい人物を魅力的に、難解なストーリーを思わず引き込ませる物語へと昇華させています。

そうですよね。この映画は現代と過去がはっきりと分かれていて、監督がどのようにつなげていくのか撮影中、僕も気になっていたので、完成したものを見たときは、それが見事に一本の線に繋がっていて納得しました。デジャヴを見ているような錯覚に陥るシーンもありますし、最終的にはこういうことだったのか、ってストンと自分の中に入ってくるところもあります。これは監督が仕掛けた罠ですし、裁量の成せる技だな、と。

—作品には伏線がたくさんあり、一度見ただけでは気づかないところもたくさんあります。ラストを知った上でそのままもう一回観たくなるような。

はい。過去の話や関係性などを知ってから見ると、また違う見方ができると思います。この作品はかめばかむほど面白さが増すというか。たとえば亮介の父や細谷さんの視点になって見てみると多層的な楽しみが出来ると思います。

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

1/5

—さて、今作の題にもなっている「ユリゴコロ」とは、「生きていく上で欠かせない心の拠りどころ」という意味が込められていますが、松坂さんにとっての心の拠りどころはなんでしょうか? 

バナナですね。

—バナナですか。

撮影のときに限っての話ですが、今回は特にハードだったので「よし、頑張るぞ」って気合いを入れるためにバナナを食べていたんです。バナナって消化が早くて、すぐ体のエネルギーになるので、早く役に集中できるんです。朝は必ず食べていましたし、昼もバナナでしたね。

—一日二本体制で。

そうですね。二本食べると、撮影中に集中力が切れることなく頑張っていられるんです。「バナナを食べたから大丈夫だぞって、俺イケるぞ」って自分に言い聞かせる、安心材料にもなっていたと思います (笑)。

—バナナ、すごいですね。映画では亮介の料理シーンもありましたが、松坂さんはふだん料理されますか?

学生時代や実家暮らしの頃はしてましたけど、今はほとんどする時間がないんです、残念ながら。

—実家暮らしのときに料理されていたんですね。

両親が共働きだったので、兄弟でローテーションを組んでご飯を作っていたんです。今回、映画の中でふわふわとろとろのオムレツを作っているんですけど、それまで作ったことなかったので、死ぬほど練習しました。失敗するたびに大量のオムレツができるので、スタッフの方たちにも食べていただきました。味はともかくとして、ハードな撮影の栄養源になってくれたら、オムレツも無駄じゃなかったかなと思えます (笑)。

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

©「ユリゴコロ」製作委員会

1/5

—亮介は運転しているシーンも多かったですが、松坂さんも運転はされますか。

はい、車を持っているので時間があれば運転します。ただ、今は朝ドラの撮影で大阪に行きっぱなしなので、全然乗ってないんですよ。そういえばエンジン動くかなぁ。不安になってきました (笑)。

—さて、朝ドラの話が出たところで、今後の出演作についてですが、次に公開される映画『彼女がその名を知らない鳥たち』(以下、『かの鳥』) も本作と同じ、沼田まほかるさんの小説が原作ですよね。これは偶然でしょうか?

そうなんです。たまたま2作連続で沼田さん原作の映画に出演させていただくことになって自分でもびっくりしているんです。運命の巡り合わせですね。

—作品選びはどうされているのでしょう?

「おもしろそうだな」ってワクワクする感情が出てきたものを頼りに作品に向かっている感じがします。好奇心が大きいですね。

Photo by UTSUMI

Photo by UTSUMI

—『かの鳥〜』で蒼井優さんにインタビューさせていただいたとき、「白石監督が松坂さんにゲスな男の役をオファーしていると聞いて、たぶん引き受けてくださらないだろうと思っていたら、OK だったのでとてもびっくりしたんです」っておっしゃってました。

そうそう。それ衣装合わせのときに白石監督にも言われたんですよ。「なんで受けたの」って (笑)。おもしろそうだったからとしか言いようがないんですよね。「ワクワクするようなものが作品の根底にある」と思えるかどうかが出演の決め手なので。正直、今は “俳優・松坂桃李” の見え方は気にしていないんです。ゲスな役でも、カッコ悪い役でも、惹かれるものだったら意欲的にやっていきたい。ただ、ちょっと失敗したなと思うのが、朝ドラのオンエア中にこのダークな役柄の映画が公開されちゃうんです。作戦ミスというか、順番間違えちゃったなって (笑)。特に『かの鳥〜』は本当に最低な役なので、その印象で朝ドラを見てしまうと世界観が崩れてしまうな、と。あとはもう見る方にお任せするしかないのですが (笑)。

—ファンとしては、いい人の松坂さんも悪い人の松坂さんも同時に見られてお得だと思います。特に今作は新しい松坂さんが見られますし。

そうですね。今作は自分にとってもいい挑戦になりました。役というよりも感情としての挑戦というか。常に揺れている、揺れ動かされている、そういう役柄は自分にとっても新鮮で、挑戦しがいがありました。亮介が揺れ動かされている様をぜひ堪能してもらいたいです。

Photo by UTSUMI

Photo by UTSUMI

<プロフィール>
松坂桃李 (まつざか とおり)
1988年10月17日生まれ。神奈川県出身。2009年「侍戦隊シンケンジャー」(EX)  で俳優デビュー。2011年に『僕たちは世界を変えることができない。But, we wanna build a school in Cambodia.』、『アントキノイノチ』で第33回ヨコハマ映画祭最優秀新人賞、第85回キネマ旬報ベスト・テン新人男優賞を受賞。翌12年に『麒麟の翼〜劇場版・新参者〜』、『ツナグ』、『今日、恋をはじめます』で第36回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。以降は映画・ドラマ・CMと多岐に渡り活躍をしている。公開待機作として『彼女がその名を知らない鳥たち』(2017年10月28日公開)、『パディントン2』(声の出演、2018年1月公開)『不能犯』(2018年2月1日公開)、『孤狼の血』(2018年5月12日公開) が控える。10月2日スタートのNHK連続テレビ小説「わろてんか」に出演。

作品情報
タイトル ユリゴコロ
監督 熊澤尚人
原作 沼田まほかる
脚本 熊澤尚人
出演 吉高由里子、松坂桃李、佐津川愛美、清野菜名、清原果耶、木村多江、松山ケンイチ
配給 東映/日活
製作国 日本
製作年 2017年
上映時間 128分
HP yurigokoro-movie.jp
 ©「ユリゴコロ」製作委員会
9月23日(土) 全国公開
Related Articles

Connect with The Fashion Post