Lily Franky
Lily Franky

俳優・リリー・フランキーインタビュー

Lily Franky

Photographer: Hiroki Watanabe
Writer: Satoru Kanai

Portraits/

スタジオのドアが開かれると、前の取材を共にした柴田祥太役の城桧吏と撮影中のリリー・フランキーがそこにいた。じゃれ合うふたりの姿は、まるで映画の続きを観ているようだ。『そして父になる』(2013) で演じた父親をもう一度撮りたかったという是枝監督のオファーにリリーはどう応えたのか。城桧吏を出口まで送り届けたあと、スタジオに戻ってきたリリーに話を訊いた。

俳優・リリー・フランキーインタビュー

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

スタジオのドアが開かれると、前の取材を共にした柴田祥太役の城桧吏と撮影中のリリー・フランキーがそこにいた。じゃれ合うふたりの姿は、まるで映画の続きを観ているようだ。『そして父になる』(2013) で演じた父親をもう一度撮りたかったという是枝監督のオファーにリリーはどう応えたのか。城桧吏を出口まで送り届けたあと、スタジオに戻ってきたリリーに話を訊いた。

東京の下町にある高層マンションの谷間に取り残されたように建つ古い平屋。そこに暮らすのは、家主である初枝の年金と万引きで生計を立てる治と信代夫婦、息子の祥太、信代の妹の亜紀の5人家族。是枝裕和監督の長編14作目となる映画『万引き家族』には、年金詐欺や育児放棄、そのほか様々な社会問題が込められており、そうした問題はすべて家族というミニマムな集合体に内包されているのだと父親役を演じたリリー・フランキーは言う。「希林さんがいると怒られるので」と言いながら火を付けたショートホープをくわえ、落ち着いた “あの声” で 『万引き家族』について語ってもらった。

 

 

—血のつながりを題材にした『そして父になる』と同じく、今回の『万引き家族』もまた “家族” と “絆” が大きなテーマです。

是枝 (裕和) さんは、いつもやりやすい役をセットしてくれますけど、今回はより自然にその街の家族になれましたね。みんな、存在が生々しいんですよ。撮りながら「やっぱ樹木 (希林) さんすげえな」とか、「安藤サクラ、松岡茉優ってすげえな」って。それでハッて気づいたときに、「あ、いま撮影してるんだ」って思う。

—あまりにもリアルすぎた、と。

だって女優さん全員化粧もしてないし、樹木さんにおいては入れ歯すら入れてないですからね。ラッシュを観たときに「ドキュメンタリー番組を観ているみたいだな」って。

—ロケ地となった古民家は、実際にあったものなんですよね。

いまでもあります。古民家なんてもんじゃない、ただの廃屋ですけどね。ほんとにビルに囲まれている誰も住んでないお家なんですけど、よくぞ見つけたなと。映画の撮影ってセットは荒川区だけど、このお店は世田谷区っていうことがありがちなんですけど、今回はほぼ全部その街にあるもので撮っているので。そういう意味でも、街やそこに住む人たちに協力してもらいながら、自然と役になりやすかったです。

 

『万引き家族』

 

—本作の中で “名前” というのも、本作における重要なファクターです。リリーさんは事務所のスタッフや友人に「ホセ大周」など様々なニックネームを付けられていましたが、そうして名付けることはコミュニティを形成する上で大事なことなのでしょうか?

名前って記号だと思うんですよ。例えば「よしこちゃん」「たろうくん」って呼び合っている夫婦が喧嘩になったら、関係が記号化されてないから殴り合いになるっていうか。これが「たろうさん」「よしこ」だったら、主従関係が生まれるじゃないですか。そうなってきたら、男側もなかなか手を出せないと思うんです。役割によって主従が変わればいいんだけど、友だちみたいな夫婦ってすごい共同幻想だと思うし、名前の記号化って人間生活のなかで、すごい意味のあることだと思うんですよね。俺の知り合いでデリヘルマニアのやつは、学生時代の嫌いな友だちの名前で (部屋に) 呼んでるって。そこは愛着のある名前で呼ばれたくないんでしょうね。

—名前の記号化もそうですが、商品名で会話をするというのも家族を象徴するディテールですよね。万引きしてきたシャンプーに対して「メリットのニオイ嫌いなんだけど」というセリフは、『そして父になる』の「向こうの家では絆創膏っていうんだよ」というセリフにも通じているように思いました。

今回の設定は現代だと思うんですけど、メリット自体が俺と是枝さんの子ども時代のシャンプーだから。台本にもメリットってはっきり書いてあるんだけど、是枝さんのなかではエッセンシャルでもティモテでもいけない。ただ、メリットシャンプーがかわいそうだわって。

—ナンシー関さんとの対談集『ちいさなスナック』では、“サビオ” について語り合っていましたね。

ああ、言ってましたね。バンドエイドとサビオの家があるって。その家で当たり前のことがよそで当たり前じゃないことってありますよね。学生のときに友だちの家に泊まりに行って、朝飯で味噌汁にキュウリが入ってた時に「これいつも?」って聞いたら「なんか変?」って言われて。それ以上は聞かないじゃないですか。

Photo by Hiroki Watanabe

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—基本的に役作りをしないで現場に入ると過去のインタビューでも語っていますが、柴田治を演じる上で何か準備したことはありましたか?

プロットをもらってからやるまでが長かったっていうのもあるかもしれないけど、今回は色々考えましたね。でも、最初に「あ、自分の声がこの役に向いてないな」って思ったんですよ。さっき (樹木) 希林さんと一緒に取材を受けていたんですけど、「やーなんかね、あんたの声が、どっかに知的な要素が入ってて、なんかちょっとさー」みたいなことを言われて。「ああこれ、俺がずっと考えてたことだな」って。でも、どうすることも出来ないですもんね。何を用意したかっていえば、日サロに行くぐらいのことしかなかったですけど。

—是枝監督は、今回の作品に関するインタビューで「怒りで作られたものは強い」とコメントをされています。リリーさん自身の作品にも社会的な物事に対する怒りや憤りの目線があるように感じます。

そうですね。ものを書くときに楽しいとか、嬉しいって意外と作品にならないっていうかね。悲しいとか怒ってることのほうが強いのかもしれない。是枝さんは映画作家の前はドキュメンタリー作家だったわけだし、常に気になっているいろんな問題がこの作品にはふんだんに入ってると思うので。でも、そういう社会問題を描こうとしたら、意外と家族っていうミニマムな集合体に全部入ってるんですよね。それぞれの性の話とか、お金や教育のことにしても。

—個人的には滋味深いというか、派手さはけっしてない。ただ面白かったとも言えないし、泣く映画でもない。自分のなかに留めて是枝さんが提示した問題について考えるキッカケとなる作品でした。

台本を読んだ時、俺ちょっと泣いたんですけど。やっぱ是枝さんは上品なひとなんで、露骨に人が泣くようなシーンは撮るだけ撮って、あとでバサッと切りますからね。いま、お芝居の仕事をお休みしてるんですけど、撮影が終わった後もこの家族ロスになってますよ。ちょっと自分のことを省みなければなって思いました。

—それは今後の人生というか家族構成ということですか?

そうですね。家族の疑似体験をしていくなかで、「いままでこれで良かったのかな」とか「あの時ああすればよかったのかな」とか。自分の人生を省みることがすごくあった。家族にフォーカスがあたってる映画だから、余計にそう思いました。まあね、そんなことずっと考えながら、家族ってずっといるんじゃないかなって。だから、よその家族って正解に見えがちじゃないですか。でも蓋を開けてみたら、いろんな虫が湧いてるのが現実だと思うから。この前にやった家族 (吉田大八監督作『美しい星』(2017))なんて、全員が宇宙人になっていく話ですし。

—だいぶ極端な家族像ですよね。とは言え、今回も “犯罪で繋がる” 特殊な家族ではあります。

台本では『声に出して呼んで』だったのが、直前になってタイトルが『万引き家族』になったとき、急に振り切ったなって思ったんですけど。でも、このポスターになったことでポピュラリティがやっと出た。これは何度も言ってるんですけど、みんな笑顔のポスターで『万引き家族』って入ってると、ソフトバンクの家族割引みたいでしょ。

Photo by Hiroki Watanabe

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<プロフィール>
リリー・フランキー
1963年11月4日生まれ、福岡県出身。武蔵野美術大学卒後、イラストやデザインのほか、文筆、写真、作詞・作曲、俳優など、他分野で活動。初の長編小説『東京タワー オカンとボクと、時々、オトン』が230万部を超えるベストセラーとなり、2006年本屋大賞受賞。絵本『おでんくん』はアニメ化し、人気となる。音楽活動では、総合プロデュースした藤田恵美『花束と猫』が「第54回 輝く! 日本レコード大賞」において優秀アルバム賞を受賞。俳優としては、映画『ぐるりのこと』(2008) でブルーリボン賞新人賞、『そして父になる』(2013) で第37回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞、『凶悪』(2013) で優秀助演男優賞ほか多数の映画賞を受賞。2016年にも第40回日本アカデミー賞、第59回ブルーリボン賞でそれぞれ優秀助演男優賞を受賞。

作品情報
タイトル 万引き家族
監督・脚本・編集 是枝裕和
出演 リリー・フランキー、安藤サクラ/松岡茉優、池松壮亮、城桧吏、佐々木みゆ、緒形直人、森口瑤子、山田裕貴、片山萌美 、 柄本明/高良健吾、池脇千鶴、樹木希林
配給 ギャガ
制作年 2018年
制作国 日本
上映時間 120分
HP gaga.ne.jp
©︎2018フジテレビジョン ギャガ AOI Pro.
6月8日(金)、TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー