liyo gong

日常の一瞬に宿る見落としがちな美しさ。「Here」リヨ・ゴンと白く染まる東京

liyo gong

photography: kairi hanawa & so hirose
styling: takanohvskaya
edit & text: manaha hosoda

『Here』と『ゴースト・トロピック』、日本で2月2日より公開となったベルギー発の新鋭 Bas Devos (バス・デヴォス) 監督の2作品が、いま密かに話題だ。ベルギーで暮らすルーマニア出身の建設労働者・シュテファンと中国系ベルギー人の植物学者・シュシュの出会い、そしてふたりのささやかながら、やさしい日常を描いた『Here』は、第73回ベルリン国際映画祭エンカウンターズ部門にて、最優秀作品賞と国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)をW受賞。Devos 監督作品に共通する16mmフィルムで撮影された映像の美しさと丁寧で繊細なストーリーテリングが高い評価を集めている。

本作の公開を記念して、監督とともにシュシュ役を演じた Liyo Gong (リヨ・ゴン) が来日。決して登場シーンは多くなくとも、その神秘的で、どこか儚げな雰囲気で、抜群の存在感を示した彼女だが、実はDJとしてロングランのパーティーを主催するなど、ブリュッセルのカルチャーシーンを牽引するひとり。映像編集者としても活動するという彼女は、いったい何者なのか。突然の大雪に見舞われた翌日の東京で、わずかな時間ながらも彼女と普段と見違えるような景色を眺めた。

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日常の一瞬に宿る見落としがちな美しさ。「Here」リヨ・ゴンと白く染まる東京

ピュアなホワイトにうっすらと浮かび上がるフラワージャガードが、雪景色と呼応する。ドレス ¥290,400、スカート ¥261,800、ブーツ ¥181,500、ネックレス ¥182,600/すべて Jil Sander by Lucie and Luke Meier (ジルサンダージャパン)

—あなたの普段の活動を教えてください。

主に映画編集者として活動しています。映画の編集を学びましたし、生活のほとんどを占めています。ずっと映画に関心があって、中でも編集は自分にとって映画の制作において最もミステリアスで魅力的でした。学生時代にちょっとした偶然からDJを始めてから、自分でパーティーを企画するようになり、それ以来ずっと続けています。私にとって編集と DJ は、その創作過程で多くの共通点があるけれど、編集は長期間を作業に費やし、孤独な仕事であるのに対して、DJ は即時的で多くの人が周りにいる。私にとってすごく良いバランスを与えてくれて、どちらの仕事も大好きです。

ー本作に出演したきっかけは?

それも偶然なんです。Bas と私の共通の友人が、ベルギーにいる中国人の女の子をキャスティングしたいと考えていて、声をかけてくれました。

ー実際にシュシュを演じてみていかがでしたか?

役を演じるにあたり、Geert (ギアト)という植物学者と知り合って、苔についてたくさん教えてもらいました。彼は生涯を通じて苔に関する研究を行い、苔の酸性雨への影響についてマサチューセッツ工科大学で博士号を執筆するなどしています。彼が森の散歩に連れて行ってくれた際は、さまざまな種類の苔を見せてくれました。苔の研究に情熱的に取り組み、知識豊かな彼の話はとても面白く、充実した時間でした。

ー『Here』の見どころや魅力を教えてください。

優しさに溢れた映画だと思います。映画自体は地に足が着いているような落ち着きがあってシンプルなので、現実的かもしれません。ですが日常の一瞬に宿る見落としがちな美しさを詩的に表現していて、それが大きく感情を揺り動かすようなような感動を生み出せたら、と願っています。

風になびく旗からインスピレーションを得たという2024年春夏コレクションから、ねじったようなデザインで身体をやさしく包みこむニット。ドレス ¥77,000、中に着たドレス ¥58,300、中に着たトップス ¥69,300/すべて ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ)

ー主宰されている「HE4RTBROKEN」についても教えてください。

「HE4RTBROKEN」とは、ブリュッセルで友人たちと一緒に行っているコレクティブです。2015年からパーティを主催していて、主にブリュッセルですが、パリ、ロンドン、ベルリン、上海でも開催してきました。モットーは「クラブで泣く」。私たちは感傷的なクラブミュージックを受容していて、招待している具体的なアーティストだと Total Freedom (トータル・フリーダム)、Laurel Halo (ローレル・ヘイロー)、Why Be、Tzusing (ツーシン)、Triad God (トライアド・ゴッド)、Oli XL、Physical Therapy (フィジカル・セラピー)、Toxe、Mobilegirl (モバイルガール)、Klein (クライン) などです。 次のパーティーは行松陽介、Dove、Bapari、DOSS、Aya などを呼ぶつもりです。

ーブリュッセルのカルチャーシーンについても詳しく聞きたいです。映画と音楽が密接に関わっていますか?

ブリュッセルが人口わずか100万人の都市ということも特筆すべきほど、非常に豊かなカルチャーシーンが根付いています。様々な場所や流行の交差点みたいに、色々な場所からたくさんの人が来るので多様性があります。小さな都市なので誰でも気軽に来れるというのも良い点です。大きな影響力や権力が存在する大都市のように、すみ分けされることがない。映画、音楽クリエイター、一般的なクリエイティブサークルが同じ場所に集まって交流できるというオープンな雰囲気がとても好きです。

ー出身は?ブリュッセルを拠点に選んだ理由も教えてください。

私はリエージュという、ベルギー南部の小さな町で生まれました。私の両親は80年代初頭に中国から移住してきました。2007年にブリュッセルに留学して以降、勉強と仕事を両立しながらベルリン、上海、パリにも住んだことがあります。コロナ禍で私はブリュッセルに定住し、より多くの時間を過ごすことになりました。ブリュッセルはどこへでも簡単に移動でき、周囲の大都市よりも安くて居心地が良いことが理由でしょうか。

ー日本での滞在はどうでしたか?

私は東京が大好きです。ここに来るのは3回目で、来るたびに新しい発見があります。映画や音楽に詳しくて、情熱的な人がたくさんいて、印象的な場所です。東京でDJができることは本当に嬉しいですし、今回は私たちの映画が東京の人たちになにをもたらすのかとても楽しみにしています。