内田紅甘が纏うファッション、綴る言葉。「君のきれい」〈前編〉
俳優やエッセイストとして自身を表現する内田紅甘。その佇まいや眼差し、そして選ぶ言葉には、ひと言では言い表すことのできない魅力が滲む。普段のやわらかな物腰、纏っているやさしい空気は、カメラの前で一変。凛とした表情に、思わず釘づけになる。
少女のように透き通った瞳に、世界はどのように映っているのか。彼女を取り巻く「内」と「外」の世界を舞台にした2部構成で、写真家の鈴木親が撮り下ろしたファッションストーリー。内田紅甘自身が綴った、ショートエッセイとともにお届けする。
guama uchida
model: guama uchida
photography: chikashi suzuki
styling: sumire hayakawa
hair: tsubasa
makeup: kie kiyohara
edit: daisuke yokota & yuki namba
text: guama uchida
撮影中、自転車の男が「おっ」と私を見て言った。それが獅子おどしの音みたいにあんまり朗らかに響いたので、思わず頬がゆるんでしまう。日中のがらんとした通りで真っ赤なドレス姿、しかもこんなに肌が出ていたらそりゃあ「おっ」だよなぁと、あらためてすまし顔を作りながら私は彼に共感していた。
実際、私には彼の気持ちが手に取るようにわかった。たとえばそう、きれいな着物を纏ってしゃんと座る淑女と同じ車両に乗り合わせたときや、雑踏の中で振り袖姿の若者がタクシーから降りてくる場面を見たとき、一種の武装とも呼べる派手な装いでハイヒールをかつかつ鳴らす女性と夜道ですれ違ったときなんかに、私も「おっ」と思うから。
あとになってから「きれいだった」とか「かっこよかった」と思い直すが、見つけたそのときはただどきっとして目が離せなくなって、言葉のない世界に飛ばされる。それは私の神経が、細胞が、目の前のうつくしいものに集中しきった瞬間である。