静かな熱を帯びた、杉咲花の眼差し〈前編〉
10年以上の芸歴を経ていまや数々の映画やドラマの座長として、その姿を見ない日はない俳優・杉咲花。あの頃から変わらない演じることへの情熱を纏うような GUCCI (グッチ) のレッドカラーのジャケットとポインテッドトゥのシューズが目を引く凛とした装いは、いまも変わらない演じることへの情熱を感じさせるかのようだ。
映画『朽ちないサクラ』では、信じるべきものと貫きたい正義の間で葛藤を重ねる、県警の広報職員・森口泉を演じた。森口を通して見せた杉咲の真摯な眼差しは、たしかな説得力とともに作品に昇華されている。本作への向き合い方、仕事と日常の境界について、対話することについて、いま感じていることを話してくれた。
hana sugisaki
model: hana sugisaki
photography: naoki usuda
styling: saki nakazawa
hair & make up: masako toyoda
interview & text: rei sakai
edit: manaha hosoda
―本作に向けたコメントに、“再生を見守る”という言葉があり印象的でした。杉咲さんは、主人公の森口泉をどのように見ていましたか?
大切な人を傷つけてしまって、取り返しのつかないことになって。何ができるというわけではないんだけれども、自分なりに責任を取ろうと再生に向かっていく姿を、見捨てられないと思ったんです。きっと、怒りとか悲しみとか、泉という人が生まれながらにして持っている強い感情が、何かをきっかけに一気に着火する人なのではないかと思って。千佳との関わりや、その先に見えてくるものを通して、泉という人の本質が炙り出されていったように感じました。
―着火するタイミングは、それぞれの人生で築き上げられた倫理観や価値観に触れたときだと思います。杉咲さんは、着火するほど感情が高ぶることはありますか。
そこまで多い方ではないと思いますが、お仕事よりも日常の方がありますね。深く関わりを持つ人たちとはやっぱり衝突することもありますし、わかってほしいという気持ちになってしまうこともあるじゃないですか。その思いが交差した時って対話にならない瞬間もあって、そういう時に感情が高ぶってしまうことがあります。
―本作は、登場人物それぞれの守りたいものが交差して、事件が起きてしまいました。杉咲さんが演じられた森口泉も、他の登場人物も、仕事としての自分と人間として生きる自分との狭間で葛藤する描写が印象的でした。杉咲さんも、そのような葛藤に戸惑うことはありますか。
ありますね。まさにいまそういうフェーズに入ってきているという感覚が、特にこの数年はあります。ただ、やはり生活をしている自分が仕事に落とし込まれていくと思うので、あまりそこに乖離が生まれないようにしたいと思っています。
―座長としての作品も増えてきたと拝見していますが、そういったポジションも葛藤に繋がっていたりするのでしょうか。
そうですね。そういった機会をいただくようになった頃が、ちょうどコロナ禍だったりとか、自分が選挙に参加できるようになったりとか、状況の変化をすごく感じていた時期だったのもあります。いまの時代を生きていて、自分がどうこの先生きていきたいのか、より考えるようになりました。物語に関わるというお仕事は、誰かの生活と密接していると感じるからこそ生半可には向き合えません。自分が作品に関わるということは、自分の意思表明でもあると思うので、そこに対してはすごく神経を使っています。
「孤狼の血」シリーズの柚月裕子原作、異色のサスペンスミステリー小説を映画化。愛知県平井市在住の女子大生が、度重なるストーカー被害の末に、神社の長男に殺害された。地元新聞の独占スクープ記事により、警察が女子大生からの被害届の受理を先延ばしにし、その間に慰安旅行に行っていたことが明らかになる。県警広報広聴課の森口泉(杉咲花)は、親友の新聞記者・津村千佳が約束を破って記事にしたと疑い、身の潔白を証明ようとした千佳は、1週間後に変死体で発見される。自分が疑わなければ、千佳は殺されずに済んだのにーー。自責と後悔の念に突き動かされた泉は、自らの手で千佳を殺した犯人を捕まえることを誓う。