【History】 グッチのホースビット
History
【History】 グッチのホースビット
Gucci
Horsebit
text: kaori mori
GUCCI (グッチ) 2020年クルーズ コレクションの広告キャンペーンは、とあるヴィラで開催されたパーティに集まったゲストたちという設定。Sienna Miller (シエナ・ミラー) や Iggy Pop (イギ—・ポップ)、Benedetta Barzini (ベネデッタ・バルジーニ) らが GUCCI のスピリットを体現するべく、年齢不詳のワイルドなロックスターやグラマラスなソーシャライト、貴婦人、財界の大物らになりきった。アートディレクションは Christopher Simmons (クリストファー・シモンズ)、撮影は Harmony Korine (ハーモニー・コリン) が担当した話題の本作において、気になるクラシックなバッグが登場する。キッチンのシーンで Sienna Miller が持っている「グッチ 1955 ホースビット」。GUCCIのアーカイブから60年以上の時を経て、誕生当初と同じショルダースタイルで生まれ変わったハンドバッグである。
ファッション史に名を刻むホースビット
GUCCI のブランドを象徴するモチーフ、ホースビットが誕生したのは 1950年代。乗馬の世界からインスピレーションを得て生み出された同モチーフは以来、バッグやシューズのみならず、シルクのプリントパターンとしても取り入れられてきた。
中でもクラシックローファーは、ホースビットを語る上で避けて通れないアイテムである。現在、ニューヨークのメトロポリタン美術館・コスチュームインスティテュートでは永久所蔵品となっており、ファッション史に名を刻む名品といえる。さまざまなアイテムにアクセントを添えながら、ホースビットは GUCCI に欠かせないラグジュアリーモチーフとして、70年近くにわたり親しまれている。
進化し続ける名品
2015年にクリエイティブ・ディレクターに就任した Alessandro Michele (アレッサンドロ・ミケーレ) は、ビンテージライクなアイテムを、自由自在にミックススタイリングすることを得意とする。ジェンダーを軽やかに飛び越えて、それまでの GUCCI の客層から一気にストリートの若者までを虜にする、魅力的なコレクションを立て続けに発表している。多くのヒットが生まれるなか、とりわけ注目を集めたファーのライニング付きのスリッパ「プリンスタウン」も、やはりホースビットに根ざした一品だ。名品は新しい進化を遂げながら、常にブランドの中心的存在であり続けている。
「グッチ 1955 ホースビット」の誕生
広告キャンペーンにも登場した「グッチ 1955 ホースビット」はローマのカピトリーノ美術館で開催された2020年クルーズ コレクションで新しいハンドバッグラインとして披露された。これは Michele が GUCCI のアーカイブバッグの普遍的な美を新たな視点で捉え、オリジナルのディテールと現代的なスピリットを見事に融合させたハンドバッグである。また実用的で使いやすい構造の「グッチ 1955 ホースビット」ラインは、長さ調節可能なショルダーストラップを備えたショルダーバッグをはじめ、バケットバッグやソフトな素材のメッセンジャーバッグなどを展開。フェミニンで洗練された佇まいでありながら、整理しやすい内部構造の機能的なバッグは、そのジェンダーレスなスタイルで人気を呼んでいる。
先ごろ1月に発表されたばかりの最新2020-21年秋冬メンズ コレクションでは、ドーム型のバッグの片面に「FAKE」、他方に「NOT」と書かれたバッグと、小花柄で有名なリバティをフィーチャーしたホースビットバッグが登場。
コレクションでは「男らしさ、その多元性」と題し、家父長制による男気や世間一般に言われる男らしさという固定概念を解体。花柄のワンピースやフェミニンなアイテムを並べ、多様性の時代にあって自分らしく自己決定できることが現代における真の男性像とし、その姿を描く上でハンドバッグやショルダーバッグといったホースビットバッグは重要な役割を果たした。
Michele にとって、ホースビットは、馬と人とをつなぐ手綱のように、GUCCI像を描く上で欠かせないアイコンとなって今後も進化していく。