【History】 アニー・ホールとラルフ ローレン
History
【History】 アニー・ホールとラルフ ローレン
Ralph Lauren
in Woody Allen's Annie Hall
text: kaori mori
edit: miwa goroku
ストーリー、演技力、カメラワークや映像表現などに加え、その作品の時代背景や空気感をまとったファッションが、映画に大きな魅力を与えることがある。ファッションと映画の関係。それは往々にしてファッションデザイナーと俳優の関係でもあった。
ヒロインたちはスクリーンから抜け出したあとも、アカデミー賞や各映画賞の華やかな場において、ファッションデザイナーとタッグを組み、特別なドレスを着用する。その中で数々のスタイルが伝説となって人々の記憶に刻まれていく。
最新作『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』が公開となり、再び熱い注目が集まっているWoody Allen (ウディ・アレン) 監督。ニューヨークといえば Allen 監督がこれまでの多くの作品において舞台に選んできた場所であり、本作には 70年代の代表作の数々がフラッシュバックするようなシーンもある。1977年に制作され、その年のオスカーを受賞した 『Annie Hall (アニーホール)』はそのひとつ。ファッションバイブルとしても語り継がれる名作だ。
Woody Allen 扮する主人公アルビーの、恋人 Annie Hall を演じた Diane Keaton (ダイアン・キートン) のファッションが当時話題を呼んだ。特に注目されたのがシャツにベスト、幅広のネクタイ、ワイドなチノパンツといった Ralph Lauren (ラルフ ローレン) のアイテムを用いた、マニッシュなトラッドスタイルだった。
なぜそこまでファッション的にも注目される作品になったのか。『アニー・ホール』の劇中で着用する Annie のファッションは、Keaton のプライベートな私服と、Ralph Lauren で彼女自身がチョイスしたアイテムのミックスだったといわれている。つまり素顔の彼女自身を見せることで、フィクションとノンフィクションが交差し、Annie のファッションは現実味を増した。
Ralph Lauren のメンズのシャツをサラリと着こなす姿は、70年代のフェミニズムの後押しもあって時代性を兼ね備え、世界中の女性を魅了した。Joan Juliet Buck (ジョアン・ジュリエット・バック/1994~2001年までフランス版 VOGUE の編集長を務めたアメリカ人女優で作家)は自身の誌面で「このルックは全く新しい独特の着こなしを提案するものでした。優しく、個性に溢れ、独創的でした」と語っている*。ファッションを取り扱うプロからも支持され続け、『アニー・ホール』はヒロインとファッションが絶妙にマッチしたファッションバイブルとなったのだ。
そして今改めて Annieのスタイルを、ひいては Woody Allen 監督の作品を見てどうだろう。懐かしさと同時に新鮮さも決して損なわない。つい先月 TFP が実施した Allen 監督へのインタビューで、その魅力の秘密を彼自身はこう語る。「時代遅れになるかならないかというのは、結局のところそれが良い映画か酷い映画かということだと思います。僕の場合は描いてきた題材のおかげというのもあるかな。『アニー・ホール』や『マンハッタン』で描かれているような問題は、きっとこれから10年先も同じだと思うんです。だから、出来の良い作品だったら永遠に見てもらえると思う。そこで描かれている問題が普遍的だから」と。
普遍的なテーマを扱う名匠 Woody Allen、自然体の個性が光るDiane Keaton、そしてトラッドの名手 Ralph Lauren のタッグにより生み出された『アニー・ホール』という伝説。誕生からおよそ半世紀を経た今、再び観てみたらまた新しい気づきが得られそうな予感がする。
*参考リンク: Ralph Lauren 公式HP THE TIMELINE