【History】 若き才能を支援するトッズ・レガシー
History
【History】 若き才能を支援するトッズ・レガシー
Tod’s
and Central Saint Martins – Tod’s Legacy
text: kaori mori
クラシカルで優雅なデザインと高いクオリティで、人々を魅了している Made in Italy (メイド・イン・イタリー)。そこには職人たちの技の伝承があり、つくり手の思いや願いが品質となって引き継がれている。TOD’S (トッズ) もそうしたものづくりで人気を確立してきたイタリアンブランドのひとつ。偉大な遺産としての職人技を受け継ぎながら、昨年からは新たな試みとして、アイデアの実験室と呼ばれる TOD’S Academy (トッズ・アカデミー) を始動。過去と未来をつなぐラボから今、新しい革新が生まれようとしている。
イタリア・マルケ州に拠点を置く TOD’S は1970年代後期に設立された。もともとは現在の会長兼CEOの Diego Della Valle (ディエゴ・デッラ・ヴァッレ) の祖父である Filippo Della Valle (フィリッポ・デッラ・ヴァッレ) が、20世紀初頭に靴の製造業をスタートしたのが始まりだ。3世代続くファミリービジネスの中枢には「Made by humans (メイド・バイ・ヒューマンズ)」をスローガンに支えてきた職人たちの技術があり、TOD’Sは精度の高い手仕事へのこだわりと機能美を兼ね備えたデザイン性でインターナショナルなラグジュアリーブランドへと成長していった。
「ゴンミーニ」と「Dバッグ」
一躍 TOD’S の名を高めた逸品が、ドライビングシューズをヒントに作られた 「Gommini (ゴンミーニ)」。100個以上のラバーペブル (ゴム製突起) がソールを包み込むシューズは、さまざまなシーンに対応可能なシンプルかつ都会的なデザインで、たちまち多くのセレブリティをはじめ世界中に愛好家を持つ人気アイテムになった。
そしてもうひとつ、TOD’S を代表するブランドアイコンとなっているのが、1997年に誕生した「Dバッグ」である。シンプルなデザインで機能性も高く、故ダイアナ元妃も愛したことでも知られる。最高級の革を用いた手縫いのステッチが特徴だ。
若手を支援する TOD’S Legacy
昨年7月、イタリア・マルケ州にあるトッズ本社を本拠地として発足した TOD’S Academy (トッズ・アカデミー)。職人らが学生たちに製品づくりの方法や技術を提供し、先代から受け継ぐ技が、現代的でパーソナルな学生の視点と交わっていく。アイデアラボの異名を持つ本アカデミーでは、未来のデザイナーと職人たちが化学反応を起こしながら、win-win の関係で創造力、熟練の手技、知識の交流が進められていく。
そして今年、アカデミー初のプロジェクトとして立ち上がったのが、TOD’S Legacy (トッズ・レガシー) である。TOD’S 会長兼 CEOの Diego Della Valle が発案し、Fabio Piras (ファビオ・ピラス/セントラル・セント・マーティンズ MAファッションコースのコースディレクター) がコーディネイターを務める本プロジェクトは、新世代のクリエイターたちへの支援・奨励を目的とし、セントラル・セント・マーティンズより35名の学生を選出。先日2月19日に行われたロンドン・ファッションウイーク期間中に、デジタル発表された。
「ゴンミーニ」や「Dバッグ」をはじめ、TOD’S のコードひとつ以上に自らの解釈を加えることが課題。審査は、最終提案に至る創造のプロセスに焦点が当てられる。学生一人ひとりには、それぞれスパーリングパートナーとして、ファッション界の著名人が名を連ねる。デザイナーの Simone Rocha (シモーネ・ロシャ) や Charles Jeffrey (チャールズ・ジェフリー) をはじめ、セレクトショップ 10 CORSO COMO (ディエチ コルソ コモ) 創業者の Carla Sozzani (カルラ・ソッツァーニ)、ファッションジャーナリストの Sarah Mower (サラ・ムーア) などそうそうたる面々がメンターとして学生に寄り添う。学生独自の私的な分析と提案に、メンターが評価とアドバイスを加えながらプレゼンテーションの肉付けをサポートしていく。
TOD’S Legacy プロジェクトは そのタイトル通り、TOD’S のレガシーと未来をつなぐ試みだ。そして未曾有の時代こそ、新しいクリエーションが明るい未来を描き出せるという願いも込められている。将来ここから実際にデザイナーとなって夢をかなえる学生や、TOD’S を支えるクリエイターとなって次代のファッション界を担っていく学生もいるだろう。職人やメンターらとディスカッションする学生の姿からは一筋の希望の光が見えた気がした。