【実録】 2020年秋冬メンズトレンド対談 vol.2
Trend Talk
【実録】 2020年秋冬メンズトレンド対談 vol.2
trend talk
men 2020 fall winter
artwork: yukio sugaya
edit: miwa goroku
TFP編集長がゲストとともに、今シーズン気になるコレクションをサーフィンする企画。初となるメンズ対談は、スタイリストの服部昌孝を迎えてお届け。トーク後半は、服部氏の個人的なお気に入りから仕事に対する姿勢、新しい時代をリードするクリエイティブのあり方にまで話は及んだ。
(vol.1 から続き)
合六美和 (TFP編集長、以下 G): ちなみに服部さん、1月のパリメンズは行かれましたよね?
服部昌孝 (スタイリスト、以下 H): いや、ここまで話しといてなんですが、行ってないんですよ。いつもスタイリングを手伝っている東京ブランドの BED j.w. FORD (ベッドフォード) が今回パリ初参加で。13体ほどのゲリラショーだったんですが、先に日本でスタイリングを組んでおいて、モデルとスタイリングのハメをリモートでチェックしました。
G: リモートで。まさかその2カ月後にリモートワークの時代が来るとは、まだ思いもよらなかった時期ですね…… というか、ゲリラだったんですか。
H: MAISON MIHARA YASUHIRO (メゾン ミハラヤスヒロ) のショーのスケジュールにお邪魔させてもらうかたちで、シークレットでやったんです。
G: 音楽ライブの前座的な。
H: そうそう (笑)。というか僕、パリコレ行ったことないです。
G: ( ! )
H: 僕、展示会も行かないんですよ。プレスの人はみんな知っている。
G: なぜ?
H: 仕事に対して常にフレッシュでいることを優先したいから、かな。1シーズン中、リースして返却してって、何度もやっていると飽きちゃうんです。もし展示会に行ってしまったら、その1回で全部見てしまうでしょ。
G: そうすると今回の対談にあたっては、どのようにリサーチしてくださったのですか。
H: ウェブで気になるブランドのルック見て、ひらすらスクショしてきました。改めてこうやってみていて、個人的に好きだなと思うのは、JACQUEMUS (ジャックムス) ですね。あと、さっきも話した DRIES VAN NOTEN。Y / Project (ワイプロジェクト)、Casablanca (カサブランカ) もいいですね。
G: JACQUEMUS はレディスもたくさん交えて出していたので、私も印象に残っています。ライラックの差し込み方とか、色使いがいいなと。ところで JACQUEMUS はランウェイじゃなくてルックブックの画像を手配してしまいまして、こちらで失礼します ↓
H: OKです (笑)。このオールホワイトのルックが最高。白Tの上に白シャツをオープンで着て、さらに白ダウンを羽織る感覚。これをショーに組み込む勇気。すごい。
G: アイテムひとつひとつを見ていくと、ベーシックなものが案外多いんですよね。
H: ショー自体も、ルックの流れがすごくいいですね。淡々とつなげていく中に、微妙なギミックがある。あと、基本的に作りが細身ではないので、僕でも着れる。
個の時代に着たいもの
G: ちなみに服部さん、今日は LOEWE のこのルック をお召しでめちゃくちゃかっこいいです。
H: UA (ユナイテッドアローズ原宿) 本店で見かけた瞬間、速攻でお店の人に「タグ切って」っていっちゃいました。
G: 買い方がやばいですね。
H: 今後もう見つけられないだろうと思うモノは、買うことにしてます。今は個の時代に入ってきているから、ブランドよりも、まずモノじゃない? と思います。ブランド力じゃなくて、もうちょっと一個一個のモノを見はじめているムード、ありますよね。
G: ちなみに服部さんの普段の基本ユニフォームはどんな感じなんですか?
H: 春夏は白シャツか黒シャツ。あるいはストライプのシャツかな。ブランドは、Maison Margiela, DRIES VAN NOTEN, MARNI あたり。
G: 行き着いている感ありますね。
H: 職業柄、衣装としての服も買うし、ものすごい量があるんですが、家のクローゼットに残っていくのは本物だけだなと、最近改めて思います。1シーズンしかいらないものは、いらない。今、家にある服がどんどん減っていってるんですよ、アーカイブとして残したい服は、事務所に運んでます。これはもう最終的なプランですけど、働けなくなったらそれを売る店を作ります。
G: 服部コレクション、いつか見てみたいです。ところで日本で気になっているブランドはありますか?
H: BED j.w. FORD (ベッドフォード)、SULVAM (サルヴァム)、 KOZABURO (コウザブロウ) かな。KOZABURO は海外拠点ですが、僕と同世代の赤坂さんというデザイナーがやっていて、良いです。3ブランドともテーラリングが面白いんですよ、それぞれ全く解釈が違う。
G: 具体的には?
H: BED j.w. FORD のテーラリングは柔らかい。女性性を併せ持ったようなエレガンスやセクシーさがあります。SULVAM は自由なパターンが魅力。デザイナー藤田の研ぎ澄まされた感覚が乗り移っていますね。KOZABURO は、エッジが効いてる。甲殻類のような、武装服って感じです。
G: なるほど。今シーズンのルックを見ていても、その個性は伝わってきます。テーラリングでいうと、さっき名前が挙がった Casablanca も面白いですよね。デザイナーは、PAIN O’CHOCOLAT (パン オ ショコラ ※ PIGALLE の Stephane Ashpool が主催するクリエイティブ集団) のクルーでしたよね。本人ヴィジュアルが服部さんと若干似てる……
H: Charaf Tajer (シャラフ・タジェル) ね、似てるっていわれたことあります (笑)。Casablanca の魅力は、適度なストリート感やギャング感の中に、エレガントが存在するところ。素材や柄の使い方が本当にうまい。
G: 素材といえば、Acne Studios (アクネ ストゥディオズ) のスーツもバリエーションが広がってましたね。
H: レザーとかコーデュロイを使いながら、シルエットやカッティングで上品に現代を表現していますよね。ワントーンの精度が高い。
G: あと注目は、Y / Project ですね。
H: ですね。今季はスケスケのシャツが気になりました。ここのブランドは、どこがどうなっているのか、ビジュアルでは正直わからない時があって。でもモノを見たときに、あーこうなってんだとか、ハッとさせられることが多い。ユニセックスなのに、メンズ、レディースがわかれている、ってところも面白いです。
G: 確かに。ユニセックスを掲げるブランドは、ミニマルとかストイックに偏りがちだったりもしますけど、Y / Project はもっと自由な感じがあります。
H: ノールールですよね。発想やエッセンスがメンズ、レディースで混在している。
G: Ann Demeulemeester (アン ドゥムルメステール) は、ウィメンズとバレエのテーマで通底していましたね。シースルーのボディスーツとか、レースのガウンコートとか。色っぽい……
H: メンズ、レディースの概念を超えたメンズ。とにかく癖のある圧巻の美しさです。
ファッションはどこでも成立する
G: 服部さんは、海外の仕事も多いですが、面白いファッションメディアはありますか?
H: 雑誌はレギュラーで参加しているのが2誌ありますが…… 今どこが面白いんでしょうね。僕としては、ファッションはどこでも成立するという考え方です。ファッション媒体じゃなくても、ブランドを使っても使わなくても、予算さえあればできる。ムーブメントが作りやすい時代だと思う。
G: 映画やドラマの仕事が多いのも、そんなスタンスがあってこそ ?
H: 海外は、ファッションと映像がすごく密接だなと思うんです。最近だと『ジョーカー』がいい例で。僕は飛行機の中で字幕なしで観たんですけど、英語があんまりわからなくてもストーリーがわかる。そんな世界観の中で、ラストのジョーカースーツに行くまでの衣装のプロセスが完璧。こういう仕事がしたい。
G: 日本だと、ファッションはファッションの中で完結してしまうことが多い現状は否めません。
H: でもこれからは、ファッションじゃないところも、もっと絡んでくると思いますよ。むしろ、そうじゃないとファッションはやっていけないんじゃないですか。最近、僕の思考がムービーに向いているのは、そういった理由もあります。つまり、表現が自由である。
G: リアルも、アンリアルも。
H: そうそう。時代モノをやるにしても、その時代のスタイルを丸ごとコピーしたところで、何にも面白くない。その時代のエッセンスをどう入れるのか。そこを考えるのがクリエイティブの役目だと思うんです。
G: 今は海外で起きていることも、オンタイムで見えやすくなっていますからね。先日Instagram 上で、GUCCI の Alessandro Michele (アレッサンドロ・ミケーレ) が、本来なら9月に開催される2021年春夏コレクションを延期すると宣言しましたよね、と同時に今後のコレクション発表は年2回まで絞り込むと。ファッションのカレンダー自体が大きく変わろうとしている今、新たな枠組みの中でクリエイションするのは自由の領域が広くなるぶん、より実力が試されるようになるなと思う。厳しさもありますが、コミットの仕方によっては面白い時代になってきているのを感じます。