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守りながら100を120にする。山根敏史がデザインするセーブ・ザ・ダックのプロテックコレクション
save the duck
with satoshi yamane
model: hisaki hayashi
photographer: dai yamamoto
styling: ryosuke ito
hair & makeup: taichi yoneo (TUNE)
interview & text: kyoko oya
edit: shiyori kawamura
F/CE. (エフシーイー) のデザイナーとして活動し、2022年には SHISEIDO ビューティーコンサルタントのグローバルユニフォームデザインを手掛けた山根敏史。国内はもちろん、ヨーロッパを中心に海外からも高い評価を受ける彼は、イタリアのアウターウェアブランド、SAVE THE DUCK (セーブ・ザ・ダック) のゲストデザイナーの顔を持つ。2023年10月、SAVE THE DUCK の山根氏による4度目のコレクションとなるアイテムがローンチ。「PRO-TECH (プロテック)」と名付けられたカプセルコレクションはいかにして生まれ、そのデザインにはどのような想いが込められているのか、同氏に聞いた。
守りながら100を120にする。山根敏史がデザインするセーブ・ザ・ダックのプロテックコレクション
—SAVE THE DUCK と山根さんのコラボレートによるカプセルコレクション「PRO-TECH」。2023FWは4度目のコレクションになりますが、お互いが手を携えるきっかけは何だったのでしょうか?
最初のコレクションは 2020FW でしたね。ありがたいことに、SAVE THE DUCK の代表である Nicolas Bargi (ニコラス・バルジ) からブランドのトップラインを作りたいと声を掛けていただいて。僕はアウターを得意とするデザイナーなので、そこに注目してくれたのかもしれません。しかも、僕との取り組みを皮切りに、年に一度、さまざまなデザイナーを招いたコレクションを展開していきたい、と。その第一号に選ばれたことが光栄でしたし、取り組みそのものが興味深い。なぜなら SAVE THE DUCK は、本国のイタリアではマス層に好まれるブランドですよね。大衆的とも取れるブランドの、チャレンジングな試みだな、と。
—すると、コレクションのオファーがあった当時、山根さんご自身が SAVE THE DUCK に抱いていた印象とは?
正直なところ、大衆的な、シニアに好まれるようなイメージを抱いていたんです。ミラノの街を歩いていると、 SAVE THE DUCK のアウターを着た人を見掛けることも少なくありません。そうしたイメージの一方、 SAVE THE DUCK は革新的なブランドでもあります。「ダックを守る」という名前のとおり、彼らの命題はサステナビリティーです。
—SAVE THE DUCK の理念は動物愛護と環境保護ですね。中綿には非動物性の独自開発素材「PLUMTECH ® (プラムテック®)」を使用。山根さんが手掛けたアイテムには、100%リサイクル素材から作られた「RECYCLED PLUMTECH® (リサイクルプラムテック®)」が用いられています。
彼らがサステナブルなブランドだとは知りつつも、一緒にものづくりをするなら、僕自身もより学ばなくてはいけない。デザイナーである以上、何も気にしていなかったわけではありません。ただ、 SAVE THE DUCK との取り組みをきっかけに、より深くアパレル産業の負の面を認識したのも確かです。
—つまりは、アパレル産業がもたらす環境負荷のことでしょうか?
はい。アパレル産業は“世界第2位の汚染産業”ともいわれますよね。そうした負の面を知れば知るほど、自分ゴトとして考えざるを得ない。今、僕の子どもは小学1年生と4年生なんです。彼らの将来を考えると、改めて他人ゴトではありません。 SAVE THE DUCK との取り組みをきっかけに環境について深く学んだことは、僕のブランドであるF/CE. にも変化を与えています。今現在、F/CE. では生地の6割以上が環境に配慮された素材ですが、使用し始めたのは SAVE THE DUCK の影響です。
—山根さんご自身のクリエイティブにも影響をもたらした、SAVE THE DUCK とのコレクション。2020FW、2021SS の協業コレクションには「SKYSCRAPER」の名前が冠されています。
「SKYSCRAPER」というネーミングは、 Nicolas のアイデアなんです。日本語にすると「摩天楼」。いい名前ですよね、個人的にも気に入っています。SAVE THE DUCK には、アウトドアユースにもタウンユースにも対応できるアウターが多く揃っていますが、「SKYSCRAPER」という語感も「摩天楼」という意味合いも、山から都会をホップするようなイメージが湧いてきます。
—山から都会をホップする感じ。すると、今回の「PRO-TECH」に込められたテーマも同様に?
そうですね。アウトドアにも対応できる機能性を持ちながら、都会的なモダンさを忘れない。この2023FWに限らず、そうしたハイブリッドモダンなイメージは、コレクションの初期から一貫して意識しているところです。同時に、この取り組みはあくまでも SAVE THE DUCK との協業コレクション。自分のブランドとは切り離し、明確な差別化を図ることも意識しています。
—その差別化とは?
ディテールだったりギミックだったり、テクニカルな部分の見せ方です。基本的に、僕はオタクなんですよ(笑)。アパレルの工場に足を運ぶのが好きだし、新たな技術を知るのが楽しい。でも、自分のブランドに関しては、その技術をあからさまには見せない。アウターを例にしても、いかにも防水とわかる生地は使わず、ウールをさりげなく防水仕様にするような。一方の SAVE THE DUCK に関しては、よりダイレクトな見せ方を意識していますね。アパレルのテクニックをダイレクトに取り入れつつ、それをモダンに昇華させる。これは2023FWも同様です。
—例えば、どのような部分でしょう?
ポケットに施した3Dプリントのラインや変形したファスナーガレージ、それにポリ・フレックスの圧着技術もそうですね。細かな技術を仕込んでいます。 SAVE THE DUCK の工場の方からすると、これらは非常に新しい技術です。僕自身が工場に出向いて、僕自身が工場の方にレクチャーして。簡単なことではありませんが、だからこそ、この「PRO-TECH」が SAVE THE DUCK のコアなカテゴリとして機能すればいいな、と。
—そうした技術を盛り込みながら、都会的なモダンさを忘れない。「PRO-TECH」のデザインは、どのように考えられているのでしょう?
デザインのテーマとしても、やはりハイブリッドモダンですね。個人的に建築が好きなんです。人と環境に寄り添うような機能美を持つ、北欧のデザイン。これが好きな一方、機能主義的でありながら革新的なバウハウスのデザインにも強く惹かれます。アウトドアユースとタウンユースを兼ね備えた SAVE THE DUCK こそのハイブリッド性はもちろん、デザインに関しても、人や環境への寄り添いと革新性のハイブリッドを意識しています。
—ハイブリッドのダブルミーニング。デザインの発想にもギミックを感じます。
僕の場合、言葉がないとデザインできないんです。本からの引用だったり、映画のセリフだったり、気になったフレーズを書き留めておき、その言葉を起点にイメージを膨らませていく。「PRO-TECH」に関してはハイブリッドモダン然り、建築にまつわる「パッシブデザイン」という思想や、ドイツの建築家が遺した「less is more (レスイズモア)」という哲学もヒントになっています。既存の力を守りながら、足し算と引き算を繰り返すような。
—「パッシブデザイン」は自然と共生するデザインのことですね。また、山根さんのおっしゃる「人や環境への寄り添い」は、 SAVE THE DUCK の理念にも通じます。
SAVE THE DUCK は、本国の人たちに親しまれたブランドです。ゲストデザイナーとして招かれた以上、僕はそこに、いつもとは違ったエッセンスを加えなければなりません。しかし、違いすぎてもならない。いつもは SAVE THE DUCK を手に取らない人の目に留まり、同時にかねてから SAVE THE DUCK を愛用している人にも手に取ってもらえるアウター。すると、 SAVE THE DUCK が守ってきた要素をきちんと受け継ぐ必要があります。
—これまでの SAVE THE DUCK にはないテクニックを多用する一方、 SAVE THE DUCK から受け継いだ要素とは?
まず、これは Nicolas からのオーダーもあり、ブランドのシグネチャーであるフードの仕様は受け継いでいます。 SAVE THE DUCK のフードは、ジップを開かないとかぶれない。しっかりと格納された仕様です。でも、だからこそ、ジップを閉じた状態のシルエットが保たれ、首回りの保温性が高まります。この仕様はテクニックとしてもおもしろい。それに、アウターの左腕についているロゴを残したり、あえて「PRO-TECH」マークをポイントで入れたり。これもこだわりの一つです。
—SAVE THE DUCK のアイコンですね。ダックが口笛を吹いているような。
そう、かわいい感じですよね。自分のブランドであれば、ここまで大胆にロゴを配することはしません。実は SAVE THE DUCK の本国スタッフからも「入れないほうがいいんじゃない?」と言われたんです。でも、これは絶対に入れたほうがいい、入れなくちゃダメなんだ、と。その理由が、まさに寄り添いです。いつも愛用している人たちに親しまれたロゴだからこそ、きちんと入れる。そして、ブランドのアイデンティティーをしっかり表現しています。
—かねてからの愛用者にも寄り添いながら、 SAVE THE DUCK に革新をもたらす。そうしたアイテムが日本でも発売になりましたね。どのような反応を期待されていますか?
何より、皆さんが SAVE THE DUCK を知るきっかけになれれば、と思います。 SAVE THE DUCK とのコラボレーションは、彼らが積み上げてきた仕事を守りながら、100を120に仕上げること。それは0から100を作り出すのと同等の難しさがあります。プレッシャーはありますが、僕なりの新しさを加えた SAVE THE DUCK が、新たなエンドユーザーの目に留まる。そうした目的をデザインとして届けるのが僕の仕事であり、デザイナーの腕の見せどころだと思っています。