Sam Falls & Peter Sutherland for The North Face
Sam Falls & Peter Sutherland for The North Face

サム・フォールズとザ・ノース・フェイスが描く、自然と共創するアートとファッション

Sam Falls & Peter Sutherland for The North Face

photography: riku ikeya
text: miu nakamura

Journal/

ニューヨークとロサンゼルスを拠点に、⾃然そのものを素材に⽤いた作品で広く知られる現代美術家の Sam Falls (サム・フォールズ)。絵画やインスタレーション、写真などさまざまなメディアを通じて、⾬、⾵、太陽といった⾃然界の⼒を直接取り⼊れることで、⾃然の変化やその瞬間の美しさを作品に反映させてきた。Sam の作品には「偶然性」と「変化」がテーマとして深く根ざしており、⾃然界の予測できない出来事を受け⼊れ、それらを制作過程に取り⼊れることで、作品は時間とともに進化し、⾒るたびに異なる印象を与える。それはまるで、自然と一体になって作品が生きているようだ。

今回 Sam は、THE NORTH FACE (ザ・ノース・フェイス) と初めてのコラボレーションとなる「Brewed Protein Collection」を発表した。本コレクションのテーマは「SYMBIOTIC (共⽣)」。⾃然とテクノロジー、アートが交差するこのプロジェクトは、植物由来の新素材「Brewed Protein™Fiber」を採用し、環境に配慮しつつも、機能性と美しさを兼ね備えたデザインが特徴だ。TFP では、このプロジェクトの背景にある Sam Falls の哲学や、彼と共に制作を進めた写真家の Peter Sutherland (ピーター・サザーランド) とのクリエイティブなプロセスについて話を聞いた。

サム・フォールズとザ・ノース・フェイスが描く、自然と共創するアートとファッション

—自己紹介をお願いします。

Sam Falls (以下、S): Sam Fallsです。今40歳で、2人の子供がいます。現在は、ロサンゼルスとニューヨークを拠点に活動をしています。

Peter Sutherland (以下、P): 私は写真家の Peter Sutherland です。Sam とは2007年頃にニューヨークで出会いました。そして、今回のコレクションのためにニューヨークにある Sam のスタジオで写真を撮らせていただいています。

では2人の関係性を教えてください。

P: 先ほど言っていたように、Sam とは2007年頃にニューヨークで出会い、その頃はお互いに写真を制作していました。その後、Sam はペインティングや他のメディアにも拡張していったのですが、自分は今でも写真を撮っています。2人の共通の興味として、アウトドア、屋外でのアクティビティ、そして制作をするときにある意味コントロールできないような制作の仕方を用いるところも共通していると思います。

—なぜ今回の撮影を Peter にお願いしたいと思ったのでしょうか?

S: 元々 Peter の写真を尊敬していて、今回の THE NORTH FACE とのプロジェクトに関しては自然にフォーカスを置きたかったということもあり、彼が適任ではないかと思いました。さらに自分の制作の中で自然はとても大きな要素であり、実験的な制作ということにもフォーカスを置いている。そういった点で、Peter はフィルムで写真を撮っているということで、デジタルと違い、フィルムの場合は制作の中で未知の部分が多い。チャンスや可能性に重きを置いているというところにおいて、インスピレーションやアートにおける非常にエモーショナルな部分を Peter の作品は生み出してくれると思っています。

—Sam はほとんどコラボレーションをしないと聞いていますが、まずこの話を受けた時にどういう風に感じましたか?

S: おっしゃるように、基本的にはコラボレーションというものには少し気を付けるようにしています。ただ、THE NORTH FACE は元々親近感を持っていたブランドでもありますし、ブランドのミッションが自分のアーティストとしての実践のあり方にも近いという風に思っていました。さらに、Spiber (スパイバー) 社とのコンビネーションということで、環境のことや新しいテクノロジーということに興味があります。先ほど Spiber 社の方が先日おじいさまが亡くなられたというお話をされていましたが、そういったアプローチは自分のフィロソフィーとも共鳴する部分があると感じました。というのは、色々な美的な要素はありますが、本当に基本的なところで言うと、「生と死」についてのことだと思っています。どんどん進んでいくだけの時間ではない在り方ということについても共感できる部分が多いかなと思います。

—改めて、Sam の作品における制作プロセスや大切にしている考え方についてお聞かせいただけますか?

S: 実は色々な方法で制作をしており、キャンバスの作品以外にも彫刻や写真を用いた制作もしているのですが、今回のコラボレーションで作った作品について言うと、まずロサンゼルスにあるアトリエの屋外でキャンバスを配置します。そこに周辺にある植物と水に反応して色が染まる染色顔料を置き、それから夜の雨や雪といった水分によって染料がキャンバスに染み込んでいくような形になる。朝になって乾いて植物を剥がすと、その植物の形に白い痕跡が残っていくというプロセスで、それを何度か繰り返すことによってイメージが完成します。

サム・フォールズの制作風景 photography: Peter Sutherland ©︎THE NORTH FACE

—風が絵を描いてくれたり、水が染料を混ぜてくれたり、作品を指差して「この線は虫が上を歩いた後なんだよね」という話を Sam は教えてくれましたね。想像力を掻き立たせてくれるような作風だなと改めて感じます。Peter に聞きたいのですが、今回のプロジェクトで Sam の制作風景を撮影していかがでしたか。気にかけたことや思いがあれば教えてください。

P: 自分が写真を撮り始めた時は、今みたいに色々なところへ旅して写真を撮ったり、他のアーティストのスペースに入っていくということは念頭に置いていなかったのですが、写真を撮るということ自体に関しては、被写体の人とのエネルギーの交換という風に考えています。今回 Sam のアトリエに伺った時も、おそらく彼が見ることができないような新しい視点で撮ることができたのではと思います。

—では次は Sam にお聞きしたいのですが、今回のプロジェクトのアートワークに採用された「Spring Snow」(2023)の説明やセレクトした理由を教えてください。

S: 三島由紀夫さんの小説に『春の雪』という作品があるのですが、実はそこからタイトルをもってきました。制作時は初春で雪が沢山降っていたということもあり、制作を終えた後にこのタイトルが1番適切ではないかと。作品全般において、タイトルには私的な内容を入れたいという思いもあります。また今回のコラボレーションは大きい作品でもあるので、パーツ1つ1つを切り取っても多様なアイテムに使用できると思います。また色に関しては全体的に淡いですが、その中でもよく見ると異なる色が使用されているので、さまざまなニュアンスを伝えることができるとも思いました。作品の中で植物のかたちを形作るのが色になっていますが、それだけではなく、時間の経過や死んでしまった植物が色の形で浮き出ることで、先ほども言っていたような「生と死」のことにも繋がってもいます。

—2024年2月に小山富美夫ギャラリーで行われた展覧会の時も説明していたと思いますが、Sam の作品はサイト・スペシフィックで、その場所にある食生を使うなど、そこの大気や空気、水と共創しているので、どちらかといえばモチーフがはっきり出ている場所いうより、湿気などが少ない場所で制作されたものが多いですね。今回コラボレーションに採用した「Spring Snow」は、より雨や雪の多い時期に制作されたものなので、植物の形が明快に出るわけではなく、薄くグラデーションして季節がレイアウトされているような作品になっています。今回の発表されるプロダクトについて、コンセプトやデザインにこだわった点を教えていただけますか?

S: デザインに関しては、今自分が着ているジャケットはコラボレーション的な要素が最も強かったかと思います。ただ、他のアイテムに関しても、例えば作品の写真をクロップして貼るということではなく、作品自体の存在感やミッションも反映したものにしたかった。アーティストステートメントをプリントしているシャツがありますが、それもある意味直感的な方法だったのではないかと思います。

今回、人工タンパク質素材「Brewed Protein (ブリュード・プロテイン)」の素材を採用したコラボレーションを発表しましたが、ただブランドとコラボレーションするだけではなく、その素材を採用したコラボレーションが制作にどのような影響を与えたのか教えてください。

S: もうすでに存在するリサイクルやリユーズというコンセプトだけではなく、より発展したリサーチやリパーパス (再目的化すること) ということが進めばと思っています。それも含めて、今の消費社会的な世の中ですが、何かクオリティの高いものを使って、作って、それを長い間無くなるまでずっと使い続けるということも大切だと思います。

2人の Instagram を拝見していると、子どもたちと一緒に自然の中で遊んでいるのが印象的です。彼らに残したい未来や理想とする未来像があれば教えてください。

S: 自分は制作の中で時間に対する意識があり、写真を取り組んでいたのはそれが理由でもあります。ただ、その時間に対する意識は子供ができてから少し変わりました。具体的に言うと、これまで死を怖いと思ったことが無かったのですが、子供ができてから子供との時間を過ごせなくなるということに関して、死が怖いと初めて思うようになりました。コロナ禍から、自分の作品を作るためにアトリエで庭を作り始めたということもあり、自分で花を育てていると、例えば公園の中で1番咲いている状態の時の植物を見ている時とはまた違う感覚で、種から植えた花が咲いて、それが枯れていくというサイクルが、自分の子供を育てている時の感覚とすごく似ているという風に思いました。環境という大きなものに関しては、植物が既に咲いている状態の公園を歩いたり、見たりするのではなく、自分で花を植えて、それが咲いて、死んでいく姿まで見るような自然との関係の作り方や、直線的な時間の捉え方よりももっとサイクル的な自然の捉え方というものが、より将来を見据えることに役立ってくるのではないかと思います。

—Peter はいかがでしょうか?

P: 私の場合は子供1人と犬が1匹いて、パートナーも私と同じくアーティストです。生活の中で心掛けていることは、普通に日常生活を送ったり、音楽を聞いたり、お互いと過ごすという全てのことが何かしらのアートになるようにという風には思っています。もしかしたら自分の子供はアートに全然関係ない大企業の弁護士になるかもしれない (笑)。そうでなくても毎日を過ごしていく中で、1つ1つのことを注意して過ごしていってほしいということを考えています。

最近新しく取り組んでいる作風や作品、もしくは最近ハマっている趣味があれば教えてください。

S: 生け花です。今、私がいる草月プラザの上にある和室で華道家の勅使河原蒼風さんの作品を拝見したこともあり、作品でありながら、自然と美学が共存しているようなものとしての生け花に非常に興味があります。もう1つ、バードウォッチングをすることにもハマっています。作品を作っていく中で植物の名前は色々と覚えたのですが、最近では屋外で鳥の鳴く声を楽しんでいます。そういうことにハマるのは、もう少し年を取ってからかなと思ったのですが、今すでに趣味になり始めています (笑)。

P: 今年は自分らしくないなと思うようなことを1つしました。それは息子がサッカーをやっているのですが、そのコーチをやってくれと頼まれてコーチをやったこと。これまでは自分の時間は自分で使いたいという風に思っていたからかもしれないですが、そういうことはしたことがなかった。なので、これからは自分がこれまでやってこなかったことに挑戦したいと思っています。

—今回はファッションのコレクションなので、2人のファッションのこだわりをお聞きしたいです。

S: ファッションに関しては、あまりフィロソフィーがありません。今着ているシャツは14歳の時から着続けているもの。こだわりを挙げるとすれば、ダメになるまで着続けることかもしれません。

P: 自分のファッションに関しては、スケーターとヒッピーを組み合わせた感じかと思っています (笑)。他の人のファッションに見ていても、ブランドが何かということより、何と何を組み合わせてコンビネーションにしているのかというところが、ある意味デザインそのものとも共通しているなと思います。

S: 何か既製のものにパーソナライゼーションをしてカスタムしているのが好きなのかな?

—最後に今ロサンゼルスは山火事ですごく大変なことになっている状況ですが、自然と直接的な方法で共同して制作をするという、その信念がどこから来てるのかを伺えればと思います。

S: 自分にとってアートの重要なところは世界と繋がれること。大学の時は物理学を学んでおり、そういった方向から世界に興味を持っていたのですが、数学的なことも多く、世界から少し離れてしまっているような気もしていました。そういうところから写真への興味が始まったのですが、写真は毎日自分が見ているものの中に新しいものを見出し、他の人とシェアすることができる。今作っている作品は、「自然を扱うこと」がテーマとしてだけではなく、ある意味民主的なモチーフでもあって、誰もが自然とのつながりを持っている。写真や他のメディアのように技術の理解が難しいようなものは、自分の作品にはほとんど無いです。見ている人がその作品と繋がりを持って、例えば自分でもアートを作りたいと思ったり、屋外に行って自然と触れ合いたいと思ったりしてくれることが今の作品を制作していく中での希望でもあります。作品1つ1つが、ある特定の場所に所有されることも、そういった体験に繋がっているのではと思います。なので、アートというものが何かを癒してくれて、ヒーリングしてくれるものであると同時に、自然はそれよりもさらに我々を癒してくれるものだと思っています。