madoka kariya
by akari eda

波間にて。江田明里が捉えた刈谷円香の内なる満ち引き

2024年6月、オランダ・ハーグ。映像作家の江田明里は、コンテンポラリーダンスの最前線を牽引する NDT (ネザーランド・ダンス・シアター) の公演に心を揺さぶられていた。江田は日本公演をはじめ、コロナ禍でのオンライン配信も欠かさずに観てきたが、本拠地の舞台で目を奪われたのがダンサー・刈谷円香である。

公演後に、ふたりはダイレクトメッセージを送りあい、ハーグのカフェで初めて言葉を交わした。そして、気軽な会話のなかでお互いを知りながら、それぞれが、人生の分岐点にいることを再認識していた。今、このときにしかできない身体表現と、その記録があるのではないか。そうしてプロジェクトは進み始め、生まれたのが、映像作品『波間にて』である。

madoka kariya
by akari eda

model: madoka kariya
direction & edit: akari eda
direction of photography: andrzej rudz
styling: saeko sugai
hair & make up: yuka toyama
color: toshiki kamei
music: jesus weekend
sound design: kaito sakuma
field recording: ai hirata
credit design: eko hayashi
online edit: anji ushio
coorporation: mizuki ohno, rui arichika, hinako watanabe
text: yoshikatsu yamato

トップス、パンツ/ともに ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ)

逗子や葉山で撮影されたこの作品で、刈谷は、ときに苦しげに、ときにのびやかに揺れ動いている。水、風、揺れる草、地面を這う根、濡れた砂の感触、衣服のゆらぎといった外部の力に呼応し、即興で動きを紡いでいく。『NOWNESS ASIA』での公開に際して、NDT から独立した刈谷円香に、撮影時の心身の揺れ動きと、これからの歩みについて聞いた。

ドレス/ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ)

―まず、映像作家・江田明里さんとの出会いについて聞かせてください。

以前から、明里さんの映像から感じられるムーブメントが気になっていて、いつか繋がりたいと思っていました。本人から連絡が来て、ハーグのカフェで会ったんです。初対面だったけれど通じ合うところが多く、意気投合しました。直感的にワクワクセンサーが動いて、なにかプロジェクトを始めようという話になり、NDTの日本公演で来日した去年の夏に、『波間にて』を撮影しました。

―カフェでの対話を通じて、おふたりの間にはどんな共通項が見つかったのでしょうか?

ともに30代に差し掛かって、私生活も仕事も変化を迎えていました。そして、お互いに、分岐点にいることを楽しんでいた。これまでの道のりが見える一方で、これからのこともなんとなく見えてくるような地点にいる。互いに話しながら、そのことを再認識する時間でしたね。そんな場所にいるからこそ、今の自分たちにしか生み出せない表現がある気がして、プロジェクトにつながっていきました。

ボディスーツ/スタイリスト私物

―映像は、逗子や葉山で撮影され、即興的に作っていったそうですね。自然のなか、コリオグラファーの存在なしに刈谷さんがダンスを展開していくなかで、印象的だったことや、刈谷さんの内側で起きていたことについて聞きたいです。

今回は、踊りのために用意された「舞台」ではなく、海や林など、自然のなかで踊りました。水辺であったり、森林では、足場が悪かったりして動きに制限がかかることもあったけれど、かえって雑念を抱くことなく踊れていたんです。けれど、広々としたロケーションに出た途端に、かえってリミットを感じてしまった。カメラの向きや自分の映り方を意識したり、色々考えてしまったのです。物理的な制限があると、そのなかで出来ることを見つけようとするのに、外部に制限がないと自分の頭でリミットをかけてしまう、ということがありました。

―物理的なエレメントによる干渉があることで、むしろピュアに踊ることができたと。

そうです。広い場所に出て、一人でいたときは、寄るべのなさというか、心細さもあったかもしれません。それで、頭で考えようとしてしまった。その後に草を抱きしめるシーンがあるのですが、その瞬間は、心から安心しました。コラボする相手が見つけられたというか。 あとは、身につけていたイッセイミヤケの服も、エレメントとして肌身に感じながら踊っていました。服に動かされたり、服を動かしたり。イッセイミヤケのウェアは、着る人の身体の動きにのびやかに反応して、さまざまなムーブメントが生まれる服だと思います。服自体に表現力が備わっていて、それ自体がアートだし、着る人とコラボレーションしていくのだと感じました。

ボディスーツ/スタイリスト私物

―今回の作品では、撮影に先立って作られていた音楽はなかったそうです。足などの身体に対して接触してくるエレメントの他に、環境音など、聴覚で受け取るものが、どう刈谷さんの動きに影響するのかも気になりました。

自分の近くから聞こえる音、遠くから聞こえる音、いろいろな層にある音に耳を傾けていました。自分のテンポだけで踊ってしまうと単調になるので、環境音に対応しながら、サプライズ的に自分のテンポを変えたり、緩急をつけたりして。

―オランダのダンスカンパニーNDTのメンバーとして活躍してきた刈谷さんですが、舞台上でのダンスと、映像との違いについてはどう感じましたか?

劇場では、生身の人間同士がそこにいて、見て、見られている。もうなんていうか、フルで生きていなければいけないし、前後左右、頭上の空間のすべてに参加し、空気を動かすような意識が必要になります。一方、映像で面白いのは、カメラとの遊びや駆け引きといったチームワークですね。撮影する人との関係性によって、近さや広さの感じ方も変わりますし、ダイナミズムの生み出し方も違ってくると感じました。

コート、トップス/ともに ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ)

―最後に、これからの刈谷さんの活動はどのように展開されていくのでしょうか。

ダンサーとしての仕事は続けながらも、これからの私の活動に、ひとつの名前がつく必要はないと思っています。映像や写真、建築、ファッションなど、多様なジャンルに関わり、ときにはダンサー以外の人々ともムーブメントの表現を探求してみたい。 教えることは、ダンスから受け取ったものを次の世代に還元して、文化というエコシステムに参加することです。だから、教育やマネジメントに関わりたいと視野に入れています。 そのときどきでワクワクする気持ちに素直になって、進む方向を決めていくつもりです。今のところ、自分がやりたい仕事の多くはヨーロッパにあるので拠点はオランダですが、縛りはかけず、世界各地へ出向きたいです。

本編はこちらよりチェック。