響き合う感性が生み出す、インティメイトな音空間。
kali malone & FUJI|||||||||||TA
photography: masahiro sambe
interview & text: ayana takeuchi
translation: lisa kishi osborne
edit: manaha hosoda
11月初旬にオープンした、LEMAIRE EBISU (ルメール エビス)。1960年代に建てられた邸宅をショップにした親密な空間で、Kali Malone (カリ・マローン) と FUJI|||||||||||TA (フジタ) のパフォーマンスが行われた。パイプオルガンを用いた実験的なアプローチで世界的に注目されている両者だが、その表現方法は多岐にわたる。
昨年 Kali Malone がリリースした『All Life Long (オール ライフ ロング)』では、オルガン曲はもちろん、声楽、金管楽器を取り入れ、新たな音世界を拡張することに成功した。一方 FUJI|||||||||||TA も声や水(水槽)、今年からはパイプオルガンとエアブラシを掛け合わせたアバンギャルドな演奏方法に挑戦し、北米、ヨーロッパでのツアーを積極的に行っている。
LEMAIRE のアーティスティックディレクターである Christophe Lemaire (クリストフ・ルメール) と Sarah-Linh Tran (サラ=リン・トラン) は「私たちが大切にしている型破りなアプローチを体現したアーティスト」と評し、ショップオープンを祝した特別なイベントにオファーした。昨年、新宿の淀橋教会で行われた「MODE (モード)」でも共演を果たした二組。その響き合う感性を、それぞれのインタビューを通して掘り下げる。
響き合う感性が生み出す、インティメイトな音空間。
Journal
talk with
Kali Malone
―今回 FUJI|||||||||||TA (フジタ) とのダブルビル公演となりましたね。まずは、2人の出会いからおしえてください。
2019年にロンドンで行われた実験音楽のイベントシリーズ「MODE」で知り合いました。そのときにもらった『iki』のデモ音源が素晴らしかったので NTS のショーで紹介したんです。そこから彼のグローバルなキャリアがスタートしたんですよね。以来ツアーで顔を合わせる機会も多いし、良い関係性が築けているのは嬉しいことです。
―2人の共通点はパイプオルガンですね。どのようにしてその楽器を演奏するようになったのでしょうか?
ストックホルム音楽大学で作曲を学んでいました。そこで、歴史的なチューニングシステムの研究をするようになり、パイプオルガンに興味が湧いたんです。調律師にインタビューを重ねるなかで、チューニングによって音が変わるフィジカルな楽器の魅力に引き込まれていきました。長年、調律師とともに、調律システムの研究を進めながら、繰り返しのミニマルなパターンと持続的なハーモニーに焦点を当てた独自の作曲活動を行ってきました。今日は、日本拠点のパイプオルガンビルダーの Matthieu Garnier (マチュー・ガルニエ) による20年前のミーントーン・テンペラメント(中全音律)で調律された小型のポータブルオルガンを用いて演奏しました。彼は日本国内で他にも多くの美しいオルガンを手がけており、いつかそれらのオルガンで演奏することを楽しみにしています。
―パフォーマンスで意識したことは?
観客がこの空間での演奏に集中できる曲を選びました。『The Sacrificial Code (サクリフィシャル コード)』や『All Life Long』からの曲もあれば、現在森美術館で企画展が開催されている Louise Bourgeois (ルイーズ・ブルジョワ) の作品「Maman (ママン)」から影響を受けた曲も。もともとオーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州立美術館で行われた Louise Bourgeois の展示のために制作したものです。そのときは実物のアートを見ることができなかったのですが、到着した日に森美術館で鑑賞できて感動しました。
—パートナーであり、Sunn O))) (サン O)))) としての活動でも知られる Stephen O’Malley (スティーブン・オマリー) のコラボレーションも印象的でした。
私のオルガン作品の多くが4手を必要とするため、いつもツアーに同行してくれます。私たちが演奏するパイプオルガンは、コンサートホールや教会に設置されることが多く、演奏場所と観客席では音響が大きく異なるため、会場の音響を確認するために2人体制になる必要があります。サウンドチェックのときに遠くから私の演奏を聴いて、レジストレーションのフィードバックをくれたり、音楽についての知識も深いし、欠かせない存在です。
―あなたのポジティブオーラの源は?
音楽ですね。数ヶ月にわたるツアーでプレイできていることに幸せを感じています。成功したとか、いいパフォーマンスができたということよりも、音楽をプレイできる機会があるだけで嬉しいことだから。ライブの瞬間が一番楽しいです。
―LEMAIRE とは、どのように関係を築いていったのでしょうか?
Stephen がよく仕事をしていた、フランスのフォトグラファー、Estelle Hanania (エステル・ハナニア) が紹介してくれました。2020年秋冬のシーズンは、メキシコの美術家 Martin Ramirez (マルティン・ラミレス) とコラボレーションしたもので、そのコレクションを彼女が撮り下ろすプロジェクトがありました。そこで、モデルとしてオファーをもらったのが始まりです。それまでファッションに明るい人間ではなかったし、周りにもそのシーンで仕事をしている人がいなかったので不安はありました。けど、結果的に依頼を受けてみて良かったと思っています。それから何年も関係が続いていることに感謝していますね。
―普段から LEMAIRE の服を着てパフォーマンスしていますね。どんな点が気に入っていますか?ファッションブランドとコラボレーションすることについて、あなたの考えをおしえてください。
ステージに立つときに自信をくれる服。ファッションブランドはシーズンでのアンバサダー起用が通例ですが、長期的なサポートは特別ですよね。女性ミュージシャンでファッションに興味があることが露呈すると、反論するミソジニーがいるのは事実です。そこで、どうやってシリアスなミュージシャンとして認めてもらえるかということをしばらく悩んでいたのですが、乗り越えることができました。これまでは、LEMAIRE のマスキュリンな服を着ていましたが、最近はフェミニンなテイストに挑戦しています。新しいスタイルを取り入れることができているのは LEMAIRE のおかげです。
talk with
FUJI|||||||||||TA
―Kali との出会いは2019年だったそうですね。
2019年の「MODE」が僕にとって初めての海外公演になるのですが、自作のパイプオルガンで収録したデモ音源を持って行って、Kali に渡したら気に入ってくれて。翌日の NTS のショーで流してくれたんです。その後、スイスの「Hallow Ground (ハロウ・グラウンド)」へ Kali が薦めてくれたらしく、間もなく Hallow Ground から連絡をもらって『iki』を翌年にリリースできるチャンスを掴みました。以来、海外でパフォーマンスする機会も増え、Kali のおかげで人生の転機を迎えることができたんです。
―2人の共通点としてパイプオルガンがあると思いますが、どんな点で魅了されますか? また、音楽との向き合い方において、どんな点で Kali と重なると思いますか?
僕の場合、少し変わった経緯でパイプオルガンに取り組むことになったので、最初からオルガンに興味があったわけではないんですよね。元々はギターで弾き語りをしていたのですが、2009年にオルガンを自作してから、エクスペリメンタルな表現に移行していきました。オリジナルの楽器なので奏法を試行錯誤していくなかで、空気で演奏していることに気が付いて。今日の水槽のパフォーマンスもそうですが、コンセプトを強く作ったわけではなくやっていくうちに自然と「空気の演奏者」になっていった感じです。なので自分が興味を持っているのはオルガンというよりも、空気の運動そのものなんだと思います。Kali とは、じっくり向き合おうとする姿勢が共通点と言えるかもしれません。
―さまざまな演奏スタイルがあるなかで、今回水槽のパフォーマンスを選んだのはどうしてだったのでしょうか? 終盤の炭を水中に沈めるシーンも衝撃的でした。この発想はどこから生まれたものなのでしょう。
この空間には、直感的に水が合いそうと思っただけですね。2015年から20年くらいまでは、徹底的に水のパフォーマンスに集中していたのですが、数年振りに水をやりました。過去には水槽のなかに、金魚や海老を入れてみたり、ありとあらゆることを試していたんですよ(笑)。基本、僕は空気量を調整しているだけなのですが、それがそのまま演奏方法になっていきました。音楽的な要素はその後立ち上がってくるような、観察の連続から生まれたスタイルです。
―では、LEMAIRE との出会いは?
山梨のスタジオで撮影した、The Fashion Post の企画が初めてですね。その後、Christophe と Sarah-Linh がパリのライブに来てくれて、また別の公演で衣装提供をしてもらいました。今回は、ショップ周辺でのルック撮影も抱き合わせで行いました。僕はモデルではないので、とりあえず街の中でフィールドレコーディングに専念することにして、そのシーンを撮るのはどうかと提案しました。そこから、ムービーを作ることにもなり、どんどん話が膨らんでいって……取り込んだ電柱の音から音楽をつくりました。
―今日も LEMAIRE を着てのパフォーマンスでしたが、ブランドの好きなところは?
生地が柔らかく、しなやかですね。服そのものというよりかは、さきほどのルックやムービーの話もそうですが、ファッションブランドとしての視点だけでなく、自然とボーダレスな感性があるところ。カテゴライズして物を見るのではなく、自由な発想でクリエイションをしている点が魅力的です。僕自身もそうありたいと思うので、共感できます。関わる人の文脈をリスペクトして、関係性を育てているところも素敵です。