「いま懐かしく思うのは触ること」暗室で作家本人がプリントした作品群を展示。長島有里枝の個展『B&W』が開催中
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「いま懐かしく思うのは触ること」暗室で作家本人がプリントした作品群を展示。長島有里枝の個展『B&W』が開催中
yurie nagashima
new exhibition "b&w" at maho kubota gallery
写真家・長島有里枝の個展『B&W』が東京・外苑前の MAHO KUBOTA GALLERY にて開催中だ。会期は、2020年11月21日まで。
2017年の東京都写真美術館での大規模な個展の後、美術館での展覧会を精力的に開催してきた写真家の長島有里枝。2020年には『「僕ら」の「女の子写真」からわたしたちのガーリーフォトへ』を上梓したことが記憶に新しい。
MAHO KUBOTA GALLERY では4年半ぶりとなる展示『B&W』は、長島が祖母から引き継いだ大量の押し花を印画紙の上に並べ制作した8×10のフォトグラム(カメラを使わず、感光紙の上に直接物体を置くなどして感光させ、撮影する写真技法)の作品と木板に写真用感光剤を塗布してプリントした風景の作品群を展示。前者は群馬県立近代美術館で、後者は横浜市民ギャラリーあざみ野でそれぞれ発表されており、いずれも長島本人が暗室の中でプリントしたモノクロの写真作品。本展では、これらを新たな構成のもとインスタレーション形式で発表する。
新型コロナウイルスは、私たちの生活はもちろん、アートの世界にも大きな影響を及ぼしている。誰もがカメラや携帯電話で撮影したイメージをSNSで発信できるようになった現代、膨大な数のアート作品がインターネットなどで大量に消費されていく中、長島は今一度暗室で行うアナログな作業に立ち返ったという。
長島は本展に以下のようなメッセージを寄せている。
「去年おととしとモノクロ写真を自分で手焼きする機会を得て、暗室作業の楽しさを再認識しました。プリント作業は、暗闇の中で自分が切り取ったイメージと再会し、対話する場所のようなものです。
カラープリントは全暗のなかでの作業ですが、モノクロプリントは赤色灯を付けることができます。暗室は、昔、寝るときに暗闇が怖くて豆電球をつけっぱなしにした寝室と、明かりの感じが似ています。眠りに落ちるまでいろいろなことを考えたあの時間に似た時間を、暗室では過ごします。そこは自分だけのなにもかもが曖昧な世界のような感じです。身体的な作業に加え、簡単な計算と勘と運が頼りです。わたしはそこで、単なるイメージだと思われているものを世界に存在する物質に置き換えます。
コロナウイルスの蔓延によって、人間は身体的に互いから遠くなりました。いま懐かしく思うのは触ることで、見ることではないなと思う。ほとんど視覚の効かない暗室で、手で確かめながら作り上げていった物質としてのイメージに強い愛着を感じるし、モノクロプリントを自分でするためにモノクロの写真を撮ろうとまで考えるほどになりました。普段、写真は額に入れず壁に直接貼ることが多いけれど、今回は作品と観客を隔てるレイヤーのようなものを写真の前に置きたいと思いました。」