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stella mccartney "a to z"
by cindy sherman

【限定公開】ステラ マッカートニーのマニフェスト「A to Z」:シンディ・シャーマン

© Cindy Sherman, 2020

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【限定公開】ステラ マッカートニーのマニフェスト「A to Z」:シンディ・シャーマン

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stella mccartney "a to z"
by cindy sherman

by Manaha Hosoda

ブランド創設時から先駆的なビジョンを掲げ、それを貫くだけでなく、常に発展させてきた Stella McCartney (ステラ マッカートニー)。いまやサステナブルファッションのオーソリティとしての地位を確立したが、その道中は決して平坦なものではなかった。

世界中が未曾有の困難に直面している今、Stella McCartney は2021年に20周年という大きな節目を控え、今一度ブランドの原点に立ち返り、新たな未来を創造するマニフェスト「A to Z」を打ち出した。

このプロジェクトに招致されたのは、世界各国で活躍するアーティストたち。アルファベットに込められたブランドのヴィジョンをアーティストそれぞれが自由に表現している。TFPでは、彼らが Stella McCartney のために特別に制作したアートワークにこめた思いをエクスクルーシヴにお届け。第一弾は、エフォートレスを指す「E」を手がけた Cindy Sherman (シンディ・シャーマン)。

E is for Effortless
by Cindy Sherman

Cindy Sherman は、社会における女性の役割に関して問題提起するセルフポートレート作品で知られるアメリカのアーティスト。コスチュームにウィッグ、メイクアップをまとい、20年代のポップカルチャーにおける女性のお決まりのポーズを演じた69枚の写真シリーズ「Untitled Film Stills」(1977-80)からはじまり、これまでに歴史的な絵画やファッション、ポルノから引用した女性に扮し、固定概念を打ち破ってきた。

Cindy Sherman の作品を長きにわたって愛し続けてきた Stella McCartney は、ジェンダーの観念を覆すため、ブランドのメンズコレクションからアイテムをピックアップした作品制作をアーティストにオファー。結果として、2020年ウィメンズ、メンズウィンターコレクションを含んだアーカイブピースを纏った Cindy の作品群が、ニューヨークのギャラリー Metro Pictures (メトロ・ピクチャーズ) にて展示された。

©Cindy Sherman

“At least for me, seem to fluctuate between effort and effortlessness.” – Cindy Sherman

「A to Z」マニフェストのため Cindy Sherman は、「E」の形をした木に扮したセルフポートレートをロックダウン中にニューヨークの彼女のアトリエにて制作。彼女のインパクト抜群な従来の作品と比べると、脱力感のある一見”ユルい”アートワークには一体どんな思いが込められているのか。

「エフォートレス……そうですね、この作品が的確にエフォートレスを体現できているかは正直わかりません。このイメージは私の初期の作品にアプリで手を加えているので、完全にエフォートレスということにはならないでしょう。ただ、この写真自体はエフォートレスですね。

私たちは今、こんなにも特殊な時間を過ごしているにもかかわらず、少なくとも私にとっては、エフォート(努力)とエフォートレスの間を行ったり来たりしているように思えます。誰も見てくれる人がいないのに、どうして自分がどう見えるか努力する必要があるのでしょう?そんなこと考えても見なかった人にとっては、ただ衣装ダンスやクローゼットを開けて、何か引っ張り出すだけでなんです、理想としては、それでも見た目に自信を持てればいい。それがゴールだと思っています。

Mert Alas & Marcus Piggott (マート・アラス&マーカス・ピゴット) が撮影した「A to Z」キャンペーンビジュアル〈Effortless〉

私のイメージは、ただ私の身体を使って、Eという文字を作ってみました。風景と溶け込むように、その姿がエルフや森の妖精といった類の生き物に見えるようにしました。どうしてかはわかりません。エフォートレスなエルフのことを考えていたのかもしれません。

わたしは(ロックダウン中)ずっと何を作って、食べて、見るかということばかり考えていました。ニュースを読んだり、聞いたり、見たりしていない時は……。

この時間を過ごして、ステラがどんなことに取り組んでいるかを理解することができた気がしますね。例えば、今回のプロジェクトのために過去のシーズンの生地を再利用したりする彼女のアイディアが好きです。ステラのメンズとウィメンズのウェアを使った写真シリーズの製作を終えたばかりなので、うまくいけば秋には見せられたらいいなと思っています。残念ながら、アメリカではカルチャーやアートは必需品ではないと見下されがちです。しかし、このような試練の時には、孤独や絶望といった感情から人々を解放することができたりします。たとえ、それが思慮のないテレビや、Instagram上の些細なことだったとしても。小説を読むことで旅行した気分になったり。そして、人々が自分のことを見直したり、よく知ったりする助けにアートがなればいいと願っています。」

“There’s no ties. There’s no obligations. I don’t require anything of it.” – Stella McCartney

Stella McCartney 本人からもまた、Cindy Sherman との出会いや彼女と一緒に取り組んだ「A to Z」について語ったコメントが届いている。

「もう数年も前のことになりますが、彼女に『あなたを崇拝しているから、興味を持ってもらえるのなら是非一緒に何かしたい』と連絡しました。彼女が引き受けてくれたので、私は自分のメンズウェアを見ながら、『私のメンズウェアコレクションでなんでもあなたの好きなことをしてほしい』と言ったんです。何も制約は設けませんでしたし、何の義務もありませんでした。何もリクエストしていません。ただ、男性としての彼女を見たいと思ったんです。彼女から今まで一度も作品の中で男性になったことがないと聞いて驚きました。もしかしたら初期の作品であったかもしれないけど、仕事として男性になったことはないと言っていました。私はその時、彼女がやってくれるだろう、もしくはどうすればいいかわかっていたことに自分で驚きました。

それから嬉しかったのは、シンディが私の洋服を好きで、着てくれるということでした。私たちは非常に似た信念を持っていると思います。それから私はシンディと連絡をとり続けて、彼女のニューヨークのスタジオまで言って、一緒に出かけました。彼女を取り巻く些細なことまですべてを見てきたんです。私は彼女に作品のためにどうやって手に入れるのか、とかスタイリストがいるのか、と質問攻めにしました。そうすると彼女は『ただ見つけただけよ、リサイクルショップに行ったりして』というので驚きました。私はあなたならリサイクルショップに行く必要なんかないと伝えたんです。

そして、私は彼女にメンズウェアを彼女に推めました。彼女とメンズウェアの組み合わせは、本当に面白いと思ったから。それから、彼女はアイコンシューズの「Elyse」をはじめとするアイテムを身にまとい、写真を送り始めました。私はある意味信仰心をもって取り組んだような気持ちです。『あなたがいつ何をやってくれるのか、もしくは、もしやらなくとも気にしない』と、彼女に何も求めませんでした。誰かと働くにあたってこれほど楽しい方法はないと思います。尊敬する人とコラボレーションできるだけで十分ラッキーだから。私は彼らにファッションブランド特有のプレッシャーを感じさせたくなかったんです。ファッションブランドと働くことが時にリスクがあることを私は十分にわかっているので、私はたやすく友達に頼んだりしないのです。

それから、彼女は私に男装した写真を3枚送ってきました。これは物議をかもすかもしれないと思いました。しかし、私はただするだけでなく、話しかける人になりたいんです。だから、私はシンディにすごくパワフルで素晴らしい、と伝えました。男性でも女性でもなく、ジェンダーレスでもないと。それは非常に興味深い会話でした。彼女は作品を送り続けてくれて、どんどんと進化を重ねていきました。本当に素晴らしい作品が出来上がったので、是非多くの人に見てもらいたいです。」