Alexander McQueen 2022年秋冬ウィメンズプレコレクションでは、力強くもしなやかな女性像を感じるエレガントかつセンシュアルなスタイルはそのままに、ビビッドな色合いや大胆なテキスタイル使いが印象的。細部まで計算し尽くされたテーラードから彫刻のように美しい立体的なシルエット、上質な素材をたっぷり使ったドレープが贅沢なドレスが揃った。
国籍や年齢も異なる12名のアーティストは、それぞれコレクションからルックを選び、自身が望む方法でブランドとのクリエイティブな対話に挑戦。結果、制作された作品と選ばれたルックの豊かな交流が生まれることに成功した。
Sarah Burton は今回の取り組みについて以下のように語っている。
「今シーズンのコレクションでは、新たなクリエイティブな対話を試みました。スタジオで制作した我々のルックをアーティストがどのように解釈するかを知りたかったのです。さまざまな視点から新たな作品が生まれ、多様で美しい結果が生まれたことは、とても興味深いことになりました。私たちは、アーティストが自由な発想でルックとの化学反応を起こし、大胆かつ刺激的な作品から会話を生み出してほしいと思いました。これらの創造的なプロセスを目にすることで、私たちと同じように皆さんもインスピレーションを得ていただければと思います。」
12名のアーティストによる作品を、選んだルックとコメントと共にご紹介する。
ノルウェーのクリスチャンサンに拠点を置くアーティスト/彫刻家の Ann Cathrin November Høibo
選んだのはLOOK 27のクラッシュアプリコットポリファイユ製オフショルダーコルセットドレス
織物を中心に、テキスタイルのための什器など彫刻作品も幅広く手がける彼女は今回、ドレスからインスピレーションを得て、タペストリーを制作。
「スタジオの環境を心温まる、とても女性らしいものにし、その感情を作品として仕上げるよう試してみました。(中略)男性的なプレッシャーに溢れたこの世界では、心をやわらかに保つことが大切です。Alexander McQueenのルックには、そうしたインスピレーションをもらいました」
Ann Cathrin November Høibo「Melted Heart」(2022)
ニューヨークを拠点に活動する Beverly Semmes は、メディアやカルチャーの中で表現される、女性の身体にまつわるパラドックスに光を当てているアーティスト。
選んだのはLOOK 01のポップイエローのクラッシュアプリコットポリファイユ製オフショルダーコルセットドレス
大規模な女性服のインスタレーションで注目を集めている彼女は今回、内側にゴールデンイエローのドレスを合わせたベルベットのローブを壁高く掛け、オーガンザを波のようにひろげた。Beverly Semmes「Marigold」(2022)
中国の北京を拠点に活動するアーティスト、キュレーター、学者、建築設計家、文化批評家、活動家の Bingyi
選んだのはLOOK 10のブラックサテン製コルセットドレス
「私が携わる峨眉山の滝プロジェクトを連想させる素材やプロセスで、女性の身体を流れる滝のようなウェディングドレスをデザインしました。モデルや花嫁がバージンロードを歩くと、ドレスがピースごとに流れ落ちるようになっています。祭壇に到着するその直前には、ドレスはなくなり、”アンダーウェア”ドレスのみを着た状態になります」
Bingyi「The Wedding Dress that Takes OFF Itself」(2022)
ブラジルのバイーアを拠点に活動するドキュメンタリー写真家、アーティストの Cristina de Middel
選んだのはLOOK 07のシルバーのクラッシュポリファイユを使用したストラップレスコルセットドレス
「私は、家という空間と女性らしさという考えを組み合わせ再定義した作品を作りました。これには、慣習の終わりと新しい家庭のあり方の始まりに伴う変容が反映されています。」
Cristina de Middel「Housewife of the New Domestic」(2022)
米国に拠点を置くモデル、写真家の Guinevere van Seenus
選んだのはLOOK 07のシルバーのクラッシュポリファイユを使用したストラップレスコルセットドレス
刺繍入りポラロイド&プリントシリーズ。Guinevere van Seenus「Untitled」(2022)
Guinevere van Seenus「Untitled」(2022)
ニューヨーク、ビーコンに拠点を置くアメリカ人画家の Hope Gangloff
選んだのはLOOK 16のブラックデニム製ピースワーク&パッチワークドレス
「McQueenのスタジオから、この連絡が会ったとき、私は友人であり仲間でもあるアーティストの Caitlin MacQueenを描こうと思いました。(中略)私たちはデザインの中から力強いルックの服とアクセサリーを一緒に選びました」
「肖像画のコンポジションを考えるとき、いとも簡単に一枚の絵になることがあります。その一方で、数ヶ月から数年をかけ、何枚も描くこともあります。現段階では、ケージの中にいる猫と一緒にCaitlinの庭で彼女を描くという当初の計画は、窓際で描いた『Spring Still Life with a Pearl Head Cage」となり、膝に猫をのせた「Sletch of Caitlin」になっています」
Hope Gangloff「Spring Still Life with McQueen Pearl Headpiece and Rose of Sharon Bushes」(2022)
Hope Gangloff「Sketch of Caitlin MacQueen for McQueen」(2022)
ロンドンとアイルランドに拠点を置く米国生まれの英国人アーティスト Jackie Nickerson
選んだのは LOOK 24のポリファイユ製オフショルダーペンシルドレス
「この作品のインスピレーションは2つです。それは、Alexander McQueenの自然に対する愛と、Sarah Burtonがデザインするシルエットと”女性のためのやわらかな鎧”というデザインの表現です」
Jackie Nickerson「Aqua」(2022)
Jackie Nickerson「Aqua」(2022)
Jackie Nickerson「Aqua」(2022)
Jackie Nickerson「Aqua」(2022)
ニューヨーク州に拠点を置く Jennie Jieun Lee は、抽象的なペイントを施した豊かな抽象的なペイントを施した豊かな質感の陶器や様々なオブジェで評価されているアーティスト
選んだのはLOOK 21 のウェルシュレッドのバーニッシュドレザー製スリップドレス
「まずは、焼成前の器をいくるかろくろに投げつけ、それらを組み合わせて背の高い器を作る方法をとりました。その後、素焼きし、焼成に掛け、釉薬を施しました」
「その表面は視線を集めるレッドレザーのドレスを纏った、ルックブックに登場するモデルのWangを表現するかのようでした」
「レッドから深いバーファンディに染まったレザードレスの魅惑的な特徴と、リングのメタリックな表情を陶芸作品のボディに組み合わせることで、私が選んだこの服を着ることになった女性が、人生の瞬間に感じる感動を呼び起こすことができればと思います。」
Jennie Jieun Lee「Vessel of Wang」(2022)
着用可能な構造の作品を通して、アートとファッションを一体化させることを目指すロンドン拠点のアーティスト Judas Companion
選んだのはLOOK 18のオーバーサイズダブルブレスとテーラードジャケットとグランドプードル製のワイドレッグパンツ
「人間心理は、私の作品にとって欠かせない重要なものです。マスク制作を通して、私はハングリーゴーストというキャラクターを生み出しています。抑圧された感情を反映しているその悲鳴は、私自身の発言を視覚的に表現しています」
Judas Companion「Rumours」(2022)
チリに拠点を置くアーティスト兼彫刻家の Marcela Correa
選んだのはLOOK 01のポップイエローのクラッシュアプリコットポリファイユ製オフショルダーコルセットドレス
「グルーペーパーや雑誌の切り抜き、エポキシレジンや繊維ガラスを使用して、立体的なコラージュに仕上げています。制作はパンデミックの最中にスタートしたため、人と対面することの欠如や壊れてしまった思いなどを表現するものになっています」
Marcela Correa「Dressing Yellow」(2022)
ニュージャージー州プリンストンとナイジェリアのアブジャとカドゥナに拠点を置くミクストメディアアーティスト、彫刻家の Marcia Kure
選んだのはLOOK 30のブラックのシャンティリーレースをベースにグラフィティ刺繍が施されたドレス
シャンティリーレースにあしらわれたスパンコールやビーズの刺繍
Marcia Kure「The Amina Project」(2022)
「ラインは、アフリカ、ヨーロッパ、アメリカの間にあった100年前の貿易システムと現代のそれと融合させ、時間と空間を崩壊させて、歴史や、権力と生産のシステムを結びつけました。その結果、抽象化された身体、すなわちハウサ国ザザウの戦士支配者アミナ女王(1533-1610年)の肖像となったと考えられます」
「Amina Projectでは、大型の描画『Amina』1点をはじめ、死や殺戮、戦利品を髪飾りという形で表現した、遺物、破片、人工物の彫刻18点、Amina女王の想像上の臣下を描いた小型の描画4点を制作しました。」
自身の家族の記憶を作品として再構築することで、家族アルバムという枠組みの中での黒人というテーマに挑戦する英国人アーティストの Marcia Michael
選んだのはLOOK 33のブラックのチュールにスパンコールの刺繍をあしらったコルセットドレス
「ドレスに施された刺繍は、こうした人生の痕跡が目に見える形になっただけでなく、誇りを持って身につけることで決定的な瞬間の一部となり、見にまとう人にはドレスを着る動作を通じて際立って伝わる言語のようなものであることを示しています。ドレスのボディスが形作る表現を彫刻の髪と上半身に映すことで、構造的な力の対話が再び行われて装飾品へと伝わり、私にとっての鎧が姿を現すのです」
Marcia Michael「Earth Bound」(2022)