濱本愛弓の試着歩き #2 IHNN
Ayumi Hamamoto × IHNN
photography: kyohei hattori
interview & styling: ayumi hamamoto
text: miwa goroku
edit: miwa goroku, mikiko ichitani
スタイリストの濱本愛弓が気になるブランドのアトリエやプレスルームを訪ね、最新アイテムをチェック&試着してまわる本連載。スタイリスト×デザイナー=ファッションの最前線を走る者同士の、ファッション愛に満ちた会話とともにお届けする。2回目に訪れたのは、韓国出身の印致聖 (イン・チソン) が東京で立ち上げたウィメンズブランド IHNN (イン)。昨年末にオフィスを移転、建築デザインを手がけるHYBE design team (ハイブデザインチーム) と現在シェアオフィスするスタイルで制作活動を続けている。
濱本愛弓の試着歩き #2 IHNN
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袖を通したことがなくても、IHNNという、一見シンプルながら引っかかりのあるブランド名に、見覚えのある人は少なくないだろう。ブランド設立は2015年。百貨店での展開を中心に、雑誌掲載や業界人の口コミで人気を集めてきた。今回取材し、ちょうど今頃店頭でも立ち上がっている2021年春夏は、Rakuten Fashion Week TOKYO で発表したコレクション。ちなみに2021年秋冬は、London Fashion Weekに参加、先月19日にTOKYO FASHION AWARD 枠でデジタルショーを開催したところだ。表現の幅をどんどん広げているこの1年、そしてこれからの展開について、スタイリスト目線のインタビュー。
濱本愛弓 (以下、H) : 面白い場所にアトリエを構えましたね。撮影できるスタジオ併設で、キッチンもあって、自然光も入るし、とてもすてきな空間。
印致聖 (以下、I) : ご縁があって、建築系の事務所とシェアしています。彼らが全部リフォームしたところに、僕も一緒に入れてもらいました。
H: IHNNはもともと気になっていて、某雑誌でアジアブランド特集を担当したときに、あ、ここで紹介したいと思ってピックアップしたのが最初でした。インさんとは、知り合い経由でつながっていて、実際にお会いしたのは飲みの場でしたよね。
I: そうですね、覚えてます、楽しかったです。
H:IHNNはサイズ感がうまいなぁと、実際に着て改めて思います。大きめのサイジングで表現する、女性らしさのバランス。今回テーマとかあったんですか。
I: 特にテーマは設けてなくて、ショーにつけたテーマもUNTITLE (無題) でした。モダンでありたいといつも思っています。一見普通の開襟シャツでも、素材の選び方、襟元の深さなど、ちょっとしたパターンの違いで差が出ます。長く着ることができる定番感がありながら、IHNN のデザインを入れたい。ワンピース1枚でもきれいに見せたいという気持ちです。
H: 素材は感触も気持ちいいです。このセットアップは、透け感も絶妙。
I: リネンにキュプラを混ぜて、光沢を出しています。ハリ感も持たせているから、長く着ることができる。家具の世界でいうところの北欧のインテリアのように、いつ見てもモダンであり、味も出てくる服を目指しています。
H: ユニセックスで着れそうです。
I: ブランドとして、IHNN はウィメンズです。バイヤーさんからはメンズをつくって欲しいというオファーもあって、今年は DICKIES (ディッキーズ) とのコラボ2型を出すんですが、うち H BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS 限定で出すブラックは、メンズサイズがあります (3月3日より発売中)。
H: インさんは、文化 (服装学院) に入る前まではずっと韓国にいらっしゃったんですよね。日本と韓国の違いについて、改めて感じることはありますか。
I: すごく違います。韓国はひたすらトレンドに敏感で、その雰囲気だけキャッチして落とし込んだスウェットとかパーカとか、アイテム単位でスタートする若いブランドが多いです。で、売れたら違うものをつくって次に行く、そういうスタイルです。
H:私が感じている韓国は、ザ・わかりやすいものが好きなんだなというイメージがあります。インさんは、そことは違うところで服づくりをしたかったから、日本に来たのですか。
I: 日本は、生地、縫製、パターンそれぞれがしっかりしていて、ものとしてのクオリティが高いところに惹かれていました。韓国だと、東大門に行けば、生地から何から全部手に入るんです。そこでみんなつくっています。日本だと、ウールは尾州、ジャガードは桐生といったように、地域ごとに特徴と歴史があり、昔のアーカイブを見て新しいものを生み出すことができる、可能性の広がりに魅力を感じています。
H:日本のファッション業界の方が、しっくりきてる?
I: 日本も韓国も、それぞれに良し悪しがあると思います。IHNN は今5年目に入ったところで、新しい場所に引っ越してきて、今の環境をすごく気に入っているし、仲間たちに感謝しています。ファンでいてくれる方に、もっと好きになってもらえるような服づくりをしていきたいです。
H: 今日私が着させていただいているコレクションは、東コレでショー発表なさったものですよね、これからチャレンジしていきたいことはありますか?
I: 2021年秋冬は、2月19日にロンドン・ファッション・ウィークにデジタルで公式参加します。今考えている計画としては、2シーズンほどオンライン発表を続けて、来年はロンドンでリアルショーにチャレンジしたい。
H: ロンドンなんですね。
I: 文化の卒業コレクションをつくったとき、ひとりだけロンドンで発表できるチャンスがあったんです。僕はラッキーなことにそのひとりに選んでもらって、ロンドンに行きました。それもあって、僕にとっては思い出深い場所です。
H: 海外セールスも視野に入れている?
I: 去年、パリにコレクションを持っていって展示会をしました。思ったより反応が良かったので、状況が落ち着いてIHNNのブランドイメージをもう少し確立できたら、また多くの人に見てもらうチャンスを増やしていきたい。
H: これからの生き方について、理想像や目標はありますか。
I: 年を重ねて思うのは、余裕がある人になりたいです。お金ではなく、人として余裕を持てるようになりたい。知らないことは、人にもいえないから、もっと勉強していきます。それが洋服にも出てきたらいいな。
H: インさんは優しい人だなと、お話しするたびに感じています。次のシーズンも楽しみにしています。