open the door to a new world of scents vol.10 water

【香料連載】 第10回 水

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【香料連載】 第10回 水

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photography: So Mitsuya
text: AYANA
edit: Miwa Goroku

フレグランスを構成する<香料>を軸に、古今東西さまざまなフレグランスを採取してきた本連載。ビューティライター AYANAさんが綴るしなやかでインスピレーションに満ちた文章と、見たことのない景色を身近なところから立ち上げる写真家・三ツ谷想さんのコラボレーションの場でもあり、香りの世界を超えてさまざまなフィールドから反響を集めてきた 「香料連載」 がこのたび第10回のカウントをもって最終回を迎えます。選んだテーマは 「水」。命のはじまりであり、美しさの主成分といっても過言ではない 「水」 はどんな香りがするのでしょう。

(上から) Miya Shinma : レモンのしぶきで幕を開け、ノスタルジックなスパイシーウッディへ。心が澄みわたるピュアな水。ORTO PARISI : 長い年月をかけて塩が溶け込んだまろやかな海水。ハーブ、スパイス、樹脂のような濁りのニュアンスが複雑

水がなければ、私たちはみんな死んでしまいます。地球上の生命体の源である水には、味も色も香りもなく、そのトランスペアレントさはとても清らかなものに感じられます。さらに日本人は特に水を愛する種族と言われます。これは国の四方を海で囲まれ、水が潤沢にあることと無関係ではないとされます。肌について使われる、みずみずしい、うるおっている、透き通るような……これらの表現は、水という存在の価値に起因しているといっていいでしょう。水は豊かさの象徴であり、またお清めの象徴です。

「水の香り」がフレグランスとして成立したのは90年代といわれます。1992年にイッセイ ミヤケの「ロードゥ イッセイ」が発売。その透明感と、水しぶきのようなすがすがしさ、奥ゆかしさはフレグランス界に衝撃をもたらしました。水を香りで表現するという斬新な発想もさることながら、ヴィヴィッドな80年代からの揺り戻しもあり、ヒーリングのムードが漂う時代にぴったりとフィットしたのです。この「水の香り」が日本のブランドから発信されたことは、偶然ではないような気さえしてしまいます。

(左から時計回りに) fueguia 1833 : アルゼンチン南端の氷山に1万年以上も閉ざされている水。雄大さのなかに潜む色気。Serge Lutens : まとう人の純潔さを守るエーテル体として生み出された香り。余計なものを浄化して、常に自分自身であること。ISSEY MIYAKE: 自然の中で自在に形を変えていく水の雫を表現。日差しを浴びたライラックを、フローラルムスクが包み込んでいく

繰り返しになりますが、水そのものに香りはありません。ですが、フレグランスは「物語を香りで表現したもの」であり、私たちの人生には、数多の水にまつわる物語が存在します。水はさまざまにその姿を変え、物語に登場します。朝露、滝、波、湧き水、氷、蒸気、雨……そのバリエーションが持つ空気感は実に多彩であり、水というものの変幻自在さに改めて感じ入ってしまいます。

「ロードゥ イッセイ」以降、水をテーマにした香りが相次いで生まれ続けているのは、自然な成り行きといえるでしょう。調香師たちはそこにある水の姿と、存在している景色、対峙したときに動いた感情などを丹念にトレースし、豊かな物語を繊細な香りに落とし込んでいくのです。