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12月の TFP 的おすすめ本

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12月の TFP 的おすすめ本

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「本は時代を映す鏡」とも言われている。さまざまなメディアから情報を得やすくなった昨今、紙をめくりながら文化に触れる味わいを体感してほしい。そんな思いから、代官山 蔦屋書店、Hi Bridge Books、flotsam books が “今” 読んでほしい本を独自の視点でピックアップ。今月は、写真集やファッション、アート系のビジュアルブックを中心に、エッジの効いたセレクト手がける flotsam books から3冊ご紹介。

Mise en Abyme

ウクライナ生まれ、現在はニューヨークを拠点とするビジュアルアーティスト イェレナ・ヤムチュックの作品集。写真家、映像作家、そして画家として活躍する彼女は、夢のようでノスタルジックでありながら、メランコリックではないような方法で過去と現在を繋ぐ独特のスタイルで知られており「The New York Times」「Vogue」「AnOther Magazine」「i-D」など数多くの雑誌に掲載されています。本書『Mise en Abyme』は、2022年に出版された『УYY』の続編で、『УYY』が現在から若き日への逆行する旅を白昼夢のように描いたとすれば、『Mise en Abyme』は校正刷りの残像、絵画、写真といった断片的なイメージを繰り返しながら、想像力の深淵へと視線を投げ入れた幻影的な反映として続きます。

FRUITING BODIES

 

オーストラリア出身のアーティスト イン・アン による作品集です。彼女の作品は長編ストーリーテリングに根ざしており、シンガポール、シドニー、ニューヨークを拠点とするキャリアを基盤としています。本書は、キノコという生き物を使って「生殖」や「女性の身体」についての固定的な考え方を見直そうとする試みとして作られています。本書ではキノコはただの自然の存在ではなく、自分で広がり、増え、動く力をもった象徴として描かれています。アンの写真は、孤立して立ってるもの、寄り添ってるもの、朽ちて胞子を放つものなど、さまざまな段階にあるキノコを描いています。キノコは腐敗と再生の循環の中で生きる存在として描かれ、従来の「女性=生産の器」としての象徴を覆す役割を与えられているのではないでしょうか。それは森の地中に広がる菌糸が見えないところで生態系を支え続けるように、生殖を終えた女性たちもまた、社会を深く形づくっていることを表現しているかのようです。

Flowers Drink the River

アメリカ、メイン州出身の作家 ピア=ポーリナ・ギルモスの作品集。この作品は、出身地であるメイン州の田舎町で、彼女が性別移行の初めの2年間にわたって撮影されました。保守的な土地柄の中で、ピアはトランス女性として生きることの美しさと恐怖を、コミュニティの人々と共に記録していきます。写真家は大判カメラと緻密なアナログ技法を用い、自身の暮らす森や野原、川の日常の中に、魅惑的で神秘的な存在を見出します。蛾や蜘蛛の糸、泥まみれの身体、燃える家、恋人たち、夜の動物、恍惚とした儀式、そんな光景がフラッシュに照らされた風景とともに登場します。ピアは、ほんの少しだけ手の届かないユートピアを自ら創りながら、美しさと帰属の感覚を見出していきます。