【History】 カルティエ「トリニティ」はなぜ小指に似合うのか
History
【History】 カルティエ「トリニティ」はなぜ小指に似合うのか
Cartier
TRINITY
text: miwa goroku
CARTIER(カルティエ)を代表するアイコンジュエリー「TRINITY(トリニティ)」。今からちょうど100年前、CARTIER 創業者の孫である3代目の Louis Cartier(ルイ・カルティエ)が生み出し、芸術家 Jean Cocteau(ジャン・コクトー)が好んで身に付けていたリングとしてあまりに有名である。
装飾性の強いファッションが主流で、ジュエリーも高価な宝石をふんだんに使うことが至上とされていた当時の時代背景を思えば、「トリニティ」がいかに革新的なデザインとして生み落とされたか、想像に難くないだろう。しかもそのリングは、これ以上考えられないほどシンプルに研ぎ澄まされていた。
リングをもらったり、贈ったりすることは、人生の中でそう何度もやってこない。「自分へのご褒美」名目で買うリングも含めて、リングは往々にして特別な記憶や感情と結びつき、お守りめいた親密さで身につける人に寄り添い続ける。
コクトーの左手の小指
コクトーはいつも左手の小指に「トリニティ」を嵌めていた。晩年は2本、つまり6つの環を重ね付けしていたようだ。なぜ、左手の小指だったのだろうか。追って推測してみるが、「トリニティ」のスリーゴールドはそもそも「愛情、友情、忠誠」を意味し、やがてあらゆる愛の象徴として、その意味は身に付ける人の解釈に委ねられてきた。コクトーと「トリニティ」にまつわるエピソードとして、恋人で俳優の Jean Marais(ジャン・マレー)に贈ったといわれるこんな言葉がある。「1つ目のリングは君、2つ目は僕、そして3つ目はふたりの愛を意味する」。
いずれにしても、「トリニティ」の原型といえるリングは、ルイ・カルティエの手によって創り出され、コクトーの左手の小指に収まり、彼の装いを象徴するひとつのアイコンとなった。Bernard Buffet(ベルナール・ビュッフェ)によるコクトーの肖像画(1955)では、左手の小指に描かれた「トリニティ」のリングを確認できるし、ポートレート写真にも「トリニティ」を嵌めた姿が多く残されている。
ピンキーリングを愛する人々
詩人、小説家、脚本家、アーティスト、デザイナー、映画監督と、多岐にわたる分野で才能を発揮したコクトー。そして、ハリウッド黄金時代を代表する俳優 Gary Cooper(ゲイリー・クーパー)、フランス映画界のレジェンド Alain Delon(アラン・ドロン)なども、小指に嵌める「トリニティ」を愛したスターたちだ。ピンキーリングを嵌めている男性に、今でもカルチャーの匂いを嗅ぎ取ってしまうことがあるのは、彼らのイメージが影響しているかもしれない。
ちなみに、幼少時から本物を身につける習慣のある欧米では、ファーストジュエリーとして、母親のピンキーリングを子供が受け継ぐという伝統もある。薬指に迎え、成長したら小指に移し、子供が生まれたらまたその子の薬指へ。ファッションジャーナリストの故・大内順子氏も「トリニティ」を長く愛用したひとりで、やはり小指に嵌めていた。そして後にご息女のファーストリングとして譲られたと聞いたことがある。
100周年を祝う新モデル
「トリニティ」の話に戻ろう。実際につけてみると、どの色を上に持ってくるかは自由でありながら、選んだ色を完全に上位にすることはできない。上もなく下もなく回転する「トリニティ」は、まさに三位一体の不可分で普遍的な佇まいだ。永遠に解けない知恵の輪と戯れるような遊び心もくすぐられる「トリニティ」の唯一無二の魅力は今、ジェネレーションもジェンダーも超えて世界中で愛されていることが証明している。
100周年を迎える今年、「トリニティ」は、ますます多様な愛を祝うシンボルとして、再び新しいデザインを生み出している。スリーゴールドと、無駄を削ぎ落したラインや可動性はそのままに、角の取れたスクエア型のクッションシェイプが初登場した。また、3本の環のボリュームを拡大したXLモデルのブレスレットを復刻し、それに合わせてXLモデルのリングも発表。ボリューミーでモダンなそのルックスは、人差し指や中指あたりにつけても、新しいバランスが発見できそうだ。嵌める指を決めてからデザインを選ぶか、デザイン先行で似合う指を決めるか。「トリニティ」リングの選択肢は今、ますます自由で大胆に。