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【History】 ファラベラの15年、これからの5年

ファラベラの名前は、Stella McCartney が好きな馬の種類に由来。「ファラベラの物語は、ステラ マッカートニーの物語です」と、ブランドHPではファラベラに対する愛と信念が綴られている | ©︎ Stella McCartney

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【History】 ファラベラの15年、これからの5年

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text: miwa goroku

今、身につけている製品をつくったのは誰だろう? と、少なくとも想像するくらいには、私たちはサステナブルファッションについて意識的になった。さらに踏み込んでアクションを起こしている人なら、その製品を構成している素材の数値、生産の過程で消費された水の量やCO2排出量、生産国の労働環境などの現状を具体的に知り、納得した上で、つかう責任を引き受けている。それが「買う」ということであり、逆にいえば、トレーサブルでないもの、環境負荷や人権課題を抱えるものは「買わない」というアクションが、ひとつのポジティブな選択肢となっている。

サステナブルファッションを実現するための指標となっているSDGsのスタートからまもなく10年。ゴールまで、あと5年。ファッションを愛する私たちは、2030年の来たる未来において、どんなファッションを選び、楽しんでいるだろうか。

ここでは、ラグジュアリーファッションにおけるサステナブルファッションの先駆者、Stella McCartney(ステラ マッカートニー)のアイコンバッグ 「ファラベラ」 のルーツを振り返り、未来につながるファッションについて考える回としたい。

 

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ファッションにおけるサステナビリティに一気に注目が集まったのが、「ファッション産業は世界第2位の汚染産業である」と UNCTAD(国連貿易開発会議)が指摘し、業界内外のメディアがこぞって取り上げた 2019年。その危機感をラグジュアリーブランドの多くがいち早く察知し、昨今さまざまなアクションを通して、ファッション=環境破壊者のレッテルを払拭すべく努力を重ねている。

Stella McCartney はそれよりもずっと以前から、動物愛護のフィロソフィーを軸に、環境保全の急務を訴え、立ち上がっていたブランドだ。動物皮革、羽毛、毛皮を一切使用しない史上初のラグジュアリーメゾンとして2001年にスタートし、そのアティテュードは一貫して変わらない。

「Stella McCartney の動向を注視することで、廃棄物活用、技術革新、原料生産の在り方など、サステナブルファッションの最新トレンドを知ることができる」と話すのは、サステナビリティ業界の動向を15年以上にわたってウォッチし続けている廣田悠子・サスティナビリティ ストラテジスト。「キノコレザーなど、一般に知られていないサステナブル材料の認知を高めた存在でもある」と、Stella McCartney の先駆性と影響力を評価する。

ファラベラの先駆性

デザインコードとなっているダイヤモンドカットのチェーンは、リサイクルブラスとリサイクル可能なアルミニウム製。ブランドロゴを刻んだメダリオンは、ゼロウェイストによるザマック製。裏地には、海洋プラスチックからつくられたライニングが、ヴィーガンの接着剤で貼られている | ©︎ Stella McCartney

Stella McCartney のアイコン、ファラベラのバッグ。アニマルレザーの使用が圧倒的に主流だったラグジュアリーバッグの世界で、ヴィーガン素材のみを使うという革新的なコンセプトを掲げ、2009 年のウィンターコレクションでデビューした。当時、Stella McCartney はよく 「ベジタリアンブランド」 と呼ばれていたが、今思えば、レザーもファーも使わないラグジュアリーファッションはありえないという暗黙のレッテルが、そこにはあったのかもしれない。

それでもファラベラは、ヴィーガンという狭義の枠にとどまることなく、最新のイノベーションとともに進化を重ね、ラグジュアリーにおける新しいスタンダートを創出することに成功した。「ブランドのアイコンバッグに成長し、ブランドの成長を支えたという点で、他にはないアプローチだったといえるでしょう」 と廣田氏。「なめし職人などを改めてトレーニングし、いわゆる動物皮革を用いたラグジュアリーバッグ同様の技術をファラベラにも、というアプローチで取り組んだことも評価できると思います」。

最新イノベーションの手触り

2023 FW READY-TO-WEAR

何かを守ろうとするとき、何かを諦めなければいけなくなる。環境保全の意識を高めるほど、使える色や素材は限られることに気づく。でもそこで思考停止せず、バイオベンチャー企業の成果を取り入れるなど、周囲を巻き込みながらクリエイティブの妥協をしないのが Stella McCartney であり、だからこそユニークな存在であり続けている。実際、歴代のファラベラを振り返れば、色も素材もバリエーション豊か。最新のイノベーション素材を取り入れながら、新しいデザインを次々に生み出してきた。

たとえば、2023-24年秋冬コレクションで登場したMIRUM®は、植物由来でプラスチックフリーの完全循環型素材だが、見た目も手触りもしなやかで高級レザーそのもののよう。他にも、ワイナリーからのブドウ副産物を使用したVEGEA®、農業廃棄物とリサイクル繊維の混合から生まれた YATAY®など、Stella McCartney のバッグのアーカイブは、進化するサステナブル素材の見本市のような一面も持つ。つくるだけではない。再生、リサイクル、循環、低環境負荷のための技術をシーズン毎に見直し、定番品においても再解釈とアップデートを続けている。

 

今、ファラベラが似合う人は誰?

 

日本では6〜7年前、「ファラベラ族」という言葉が生まれるほど、ファラベラがストリートに溢れ返ったことがあった。「カブリ率の高さにビックリ!」「持つだけでシンプル服が盛り上がる」(『JJ』 2018年3月号)とスナップ特集が組まれるほど、モード界隈を越えて幅広い層に人気を広げた時代だ。当時のファラベラ人気は、それが地球にやさしいヴィーガンレザーであることよりも、デザインの良さとトレンド感が先行していた感もあるが、オシャレなラグジュアリーバッグであることを理由に支持を集めたことを思えば、それはラグジュアリーにおける革新だったといえる。Stella McCartney 自身、「不要な害を惑星に与えることなく、高級品をつくることが可能だと証明すること」を目標に掲げているのだから。

今、新しいファラベラを持つ人は、これまで以上に明確に、環境保全と向き合う意思をアピールすることになるだろう。彼女は、破壊ではなく大切なものを守るために、持てるエネルギーをパンクなアティテュードで発動できる持ち主であり、何よりファッションを愛しているからこそ、つかう責任を負っている。そんな人に、今改めてファラベラはよく似合う。