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Donald Judd
vol.14

【連載コラム】 ドナルド・ジャッドの空間

『Spaces』

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【連載コラム】 ドナルド・ジャッドの空間

Donald Judd
vol.14

text: yusuke nakajima
edit: mikiko ichitani

アートブックショップ「POST」代表を務める傍ら、展覧会の企画、書籍の出版、DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) をはじめとするブックシェルフコーディネートなどを手がける中島佑介。彼の目線からファッション、アート、カルチャーの起源を紐解く連載コラム。第14回目のテーマは「Donald Judd (ドナルド・ジャッド) の空間」。

近代彫刻に新しい潮流を生んだアーティストの Donald Judd 。今年の3月20日から、ニューヨーク近代美術館で大規模な個展も開催されています。※現在はオンライン展示のみ

Donald Judd は「スペシフィック・オブジェクト (明確な物体)」という概念を打ち立てていますが、自身でもその概念に則った作品群を制作していました。具体的には、鉄や木の板を使った直方体のような立体物です。この作品群は、Judd の活躍し始めた1950年代に主流となっていた、物語性のある作品群への批判的な考えを追求しています。作家の情動、世の中の出来事や物語などに結び付けられることなく、それ自体が純粋な芸術作品として成立するような表現を追求した結果、産業に使われるような素材を用い、非有機的な線や面と単純な色で構成される立体作品が生まれました。ミニマリズムの作家として評されることも多い Judd ですが、彼は新しい芸術の様式を生み出そうとしたのではなく、芸術の本来あるべき姿という大きな問題に取り組んでいたのでしょう。

『JUDD』

『JUDD』

芸術家として高く評価される Judd のもう一面に、空間の仕事があります。Judd の作品を見たことがない方でも、もしかしたら空間の仕事や家具などのデザインを見たことがあったり、「マーファ」という街の名前を聞いたことのある方がいるかもしれません。彼が残したデザインは、モダニズムや合理主義的なデザインとは一味違った魅力があります。ニューヨークから始まり、テキサスのマーファを中心に30年間以上にわたって様々な空間を作ってきましたが、「私の作品を取り巻く空間が作品にとって重要であり、作品そのものと同様に、インスタレーションにも多くの配慮がなされている。」と Judd が語っているのが示す通り、彼にとって空間は最大の関心事だったようです。

彼の手がけた空間を見てみると、作品と共通して直線的で、素材をそのままに使った特徴が見て取れます。使われている家具類は Alvar Aalto (アルヴァ・アアルト) や Mies van der Rohe (ミース・ファン・デル・ローエ) がデザインしたものと並んで、直線のみで構成された家具が配置されています。これらの家具は、Judd 自身がデザインしたものでした。

『Spaces』

『Spaces』

合理主義的な要素もある一方で、完全に整ったソリッドな空間ではなく、全体の雰囲気からは人の気配をどこかしらに感じる温もりもあります。また、生活で使われている道具類、室内に施された装飾などを見ても、彼が生活の面でもミニマリストではなかったようです。

彼がマーファに居を構えた時に、生活で使う家具を買いに行ったところ欲しい家具を見つけることができず、自身で制作したことをきっかけに、空間に合わせて家具や什器を自分で制作するようになりました。これらの家具は一見すると Judd の作品と類似性が高いので、作品と同じ文脈で捉えられることも多いようですが、彼は作品と家具や空間は明らかに違ったものとして考えていました。

 

「芸術の形や規模は、家具や建築のそれに置き換えたり当てはめる事はできない。芸術の趣旨と、実用性が必須の家具や建築の目的とは異なるからだ。仮に椅子や建物が実用できず芸術としてしか存在できないのなら、それはとんでもない事だ。椅子の真価とは、芸術に類似する必要はなく合理性や利便性そして椅子として使用できるかのその尺度にある。」

「私の家具は使い心地がよくないので、機能的でないとたびたび言われる。この質問の裏には、ブルジョアがかったヴィクトリア調家具が提示するものと私の家具が相反する事からきている。私が製作した一連の家具は、私にとっては使い心地がいいものばかりだ。」※「優れたランプを見つけ出すのは難しい」(1993) より引用

『Spaces』

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この発言は、家具についての言及ですが、「家具」や「椅子」を「空間」にしてみると、Judd が空間について考えていたことが読み取れます。視覚的な美しさや合理主義的な価値観、考え抜かれたコンセプトを元に家具や空間を作っていたのではなく、自身にとって本当に心地よい空間を最優先に作り、実際にその場で生活・制作する時間が蓄積されていった結果、人の気配を感じる魅力的な空間が生まれたのでしょう。

Judd にとって家は単に住むための場所ではなく、スタジオは単に作品制作のための場ではありませんでした。住むこと、制作することの両方が密接だったからこそ生まれた彼の空間は、思想を超えて多くの人を今も魅了し続けています。

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