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【番外編】サカナクション・山口一郎が紐解く、中島佑介

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【番外編】サカナクション・山口一郎が紐解く、中島佑介

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edit: mikiko ichitani

アートブックショップ「POST」の中島佑介が、ファッション、アート、カルチャーの起源を自身の目線で解説する不定期連載コラム「THINK ABOUT」。第15回となる今回は番外編として、サカナクション・山口一郎のInstagram Live企画「山口一郎の深夜対談」に昨年、中島氏がゲストとして登場した時の音声を特別にアーカイブ。

「POST」運営のかたわら、展覧会の企画、書籍の出版、DOVER STREET MARKET GINZA (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) をはじめとするブックシェルフコーディネートなどを手がける中島佑介。山口一郎とは5年に及ぶ付き合いがあり、2人の対話は、中島本人の生い立ちや活動の裏側深くにまで及んだ。

デザインは問題解決の方法で、アートは問題の提起

山口一郎 (以下、山口): 中島さんが運営されている POST (ポスト)はどんな本屋なんですか。

中島佑介 (以下、中島): 洋書の美術書を中心に扱っていて、特徴としては、定期的に出版社単位で本を紹介するようにしています。

山口: 出版社単位とは?

中島: 普段、本を買う時ってあまり出版社を気にしないと思うんですけど、出版社というのはそれぞれにアーティストとの関係性だったり、よく出しているテーマがあったりと特徴があるんですよね。たとえば、ある出版社から出ている一冊の本に興味を持ってもらった時に、「この出版社ってどんな本をつくっているのだろう」と、他の本にも手を伸ばしてもらうきっかけになって欲しいなと思ってます。多分、音楽でいうところのレーベルみたいな感じですかね。

山口: なるほど、なるほど。キューンだったらこういうカラーとか、ビクターだったらこういうカラーみたいな。

中島: そうですね。「ECMのあの感じが好き」とかそういう感じで。出版社に興味を持ってもらうことで、普段知らないものに触れられることもあると思うんです。

山口: 装丁家と呼ばれる本のデザインをする人がいますよね。出版社によって、そのデザイナーも決まっていたりとかもするんですか?

中島: 最近は、デザイナー自身が出版社をやっているということも結構ありますね。特に、僕の印象だとオランダに多い気がします。

山口: たとえばですけど、山口一郎がアート作品を作ったとするじゃないですか。それを書籍化しようという話になり、あるデザイナーに本を作ってもらいたいと思った場合、そのデザイナーが出版社を持っていたら、そこからその人のデザインで本を出すということですよね?

中島: そうですね。

山口: ということは、本自体がある種アーティストの作品として見られるケースもあるわけですよね。

中島: そうですね、特にこの10年くらいで本自体が作品的な表現になっているものが増えています。歴史でいうと、おそらく60年代くらいから本自体を表現とするアーティストブックというものはあったのですが、最近は特に表現としての本、みたいなものが顕著に増えていますね。

山口: 僕もびっくりしたんですけど、サカナクションのジャケットを作ってくれたグラフィックデザイナーの田中義久さんって、Nerhol (ネルホル) というアーティスト活動をされているじゃないですか。“練る人と掘る人” ということで、彫刻家の飯田竜太さんと一緒に。そのかたわらで、ホンマタカシさんの本の装丁をされたりもしていますよね。つまり、アーティストでありながら、本の装丁で他のアーティストの本を作ったりもしている。

中島: 田中さんは結構特殊な例かもしれません。デザイナーとして、表現者のやりたいことを汲み取って、それをちゃんとデザインにするということもできるし、コンセプトを立てて作品を作るアプローチもできる。そのようにデザインとアートを両立している人ってあんまり聞いたことないですね。

山口: 本という観点からお伺いしたいんですけど、デザインとアートの違いって本の世界ではどうなっているんですか。

中島: デザインというのは問題解決の方法で、アートは問題の提起というのが僕なりの解釈です。

山口: なるほど。そうなると田中さんは双方を持っているということですか。

中島: そうですね。逆に田中さんは自分で Nerhol の本は作れないといっていました。

山口: え、Nerhol の本は誰が装丁をされているんですか?

中島: 最初の本は田中さんご自身でされていたんですけど、すっごく大変だったみたいで、もう自分ではやりたくないといっていましたね。笑

山口: やっぱり自己完結と自己発信の両方はやりにくいということなんですね。

中島: やはり客観的な視点というのが本をデザインする時には必要なので、作り手でありながらデザイナーでもあるという両立は難しいのかもしれないです。

自分が説明することで、モノに対する価値の評価が変化するのが面白いと思った

山口: 今日はいろいろと中島さんの経歴を掘り下げたいです。まず、お生まれはどちらですか?

中島: 長野県です。

山口: いつまで長野にいたんですか?

中島: 高校を卒業するまで長野にいました。

山口: じゃあ大学で東京に出てこられたんですか?

中島: そうです。東京に出てくるきっかけは多分、小学生の頃フリーマーケットに参加したこと。お店をやりたいってずっと決めていたんです。

山口: 小学校の頃から?

中島: そう、小学校6年生の頃からですね。

山口: へー、何屋さんになりたいとかまで決めていたんですか?

中島: その時はまだ。漠然と何かモノを売ることをやりたいとだけ決めていました。6歳上に姉がいるんですけど、彼女は僕が小学生の頃にもう東京に来ていて、東京でフリーマーケットをやるから一緒に参加しないかと誘ってくれたんです。それで、もう要らないなってモノを集めて東京に持ってきて、フリーマーケットで売ったんですけど、その時に自分が何かを説明することで、相手がモノに対して持つ価値の評価が変化して、なおかつ買ってくれるというのがすごい面白かったんです。

山口: それって、考え方としては現代アートとかと一緒ですよね。

中島: そうですね。当時は、純粋にその行為自体が面白かったんですけど、後になって考えると、相手の価値観を変えられる部分にすごい興味を持ったんだと思います。モノを売るってすごく面白い仕事だなって思って。それで、大きくなったら店をやるってその時に決心しました。

山口: そういう志を持って小学校、中学校、高校って過ごしたわけですね。

中島: そうです。特に何を売ろうかというのはその時全然決めてなかったんですけど、中学校の頃くらいから徐々にファッションに興味を持つようになっていきました。中学、高校時代は洋服が本当にずっと好きでしたね。

山口: ファッションに興味を持つきっかけはなんだったんですか。

中島: 中学校で COMME des GARÇONS (コムデギャルソン) を知ったことがきっかけですね。今でも覚えているのが、クラスに平林くんという3歳くらい年上のお兄さんがいる同級生がいて、その子に「〇〇っていうブランド知ってる?」といわれて、その時は聞き取れなかったんですけど、「コム」って単語がついている、というのはかろうじてわかった。で、家に帰って「コムってつくブランドがあるんだけど知ってる?」と家族に聞いたら「COMME des GARÇONS じゃない?」といわれたんです。当時はファッション通信というコレクションを紹介するテレビ番組がやっていて、それで「COMME des GARÇONS ってこんなにすごいブランドなんだ」と知って。すごい衝撃を受けたんです。

山口: ちなみに、その時って何年のコレクションですか?

中島: 中二とかだったので1993年か1994年ですかね。

山口: あー、なるほど、なるほど。

中島: 実はこの話には後日談があって、平林くんに「COMME des GARÇONS みたよ」といったらキョトンとしていて。よくよく聞いたら平林くんが言っていたのは COMME des GARÇONS じゃなくて COMME ÇA DU MODE (コムサデモード) だったっていう。

山口: そっちだったんですね。笑

中島:  そうなんですよ。もし、その時に COMME ÇA DU MODE というすごいコンサバなブランドを見ていたら全然違うものに惹かれていたかもしれないですね。

山口: COMME des GARÇONS って「少年のように」という意味でしたよね。

中島: そうですね。

山口: COMME ÇA DU MODE ってなんでしたっけ?

中島: 言い方悪いですけど、なんちゃってモードみたいな。笑

山口: いい聞き間違えをしましたね。笑

中島: いや本当に。聞き間違えてよかったです。

 

大学では ANREALAGE の森永さんと同じサークルでした

山口: そんな平林くんのおかげで COMME des GARÇONS を知り、ファッションに興味を持った中高時代を過ごした後に、大学で東京に出てきたと。

中島: そうです。その時はやっぱり洋服が一番興味の対象だったので、洋服屋さんをやろうと思っていて。単純に商売をするから商学を学んだ方がいいと思って商学部に入りました。

山口: 大学はどちらだったんですか。

中島: 早稲田です。

山口: 早稲田の商学部?

中島: そうです。自分って結構極端だなって思うんですけど、大学も早稲田しか行きたくなかったんですよ。

山口: それはまたなんでですか?

中島: 高校の先生で面白い人がいたんですけど、その人が早稲田だったりとか、塾の先生が早稲田出身でその人がすごく尊敬できる人だったりとか。あと、寺山修司も。なんか早稲田に行ったらこういう変な人がたくさんいるんじゃないかなと。ただ、大学時代はアルバイトばっかりしてました。

山口: なんのアルバイトしてたんですか?

中島: 本屋です。でも、大学1年の頃はアルバイトはまだしていなくって、商学部に行きながら、文化服装学院に夜間で通ってました。洋服を売るとなったら、洋服の構造を知っていた方がいいんじゃないかと思って、

山口: え、本当ですか。中島さんっておいくつでしたっけ?

中島: 一郎さんと同じで39歳です。

山口: ということは森永 (邦彦・ANREALAGE (アンリアレイジ) デザイナー) さんと一緒?

中島: 森永さんは大学のサークルが一緒です。

山口: 全然知らなかったです。サークルということは……

中島: 繊維研究会っていう……

山口: 超マニアックなサークルですね。森永さんはバンタンに通っていたんですよね。

中島: そうそう。

山口: 文化に行ってみてどうだったんですか?

中島: 文化ではパターンの勉強をしたんですけど、自分が中高の頃に見ていたファッションの華やかな世界とは対極の、作るための地道な職人的な作業というのが必要なんだということをその場で初めて理解して、僕はもともとファッションのすごい華やかな部分に憧れてたんだなと気付きました。

山口: そうですよね。ファッション通信の中のランウェイを歩く感じだったり洗練された部分に憧れていたわけですもんね。

中島: はい。そういう地道な部分を知り、ファッションの世界で一生仕事をしていくというのは無理だなって思いました。じゃあ何を売ろうかなと。いろいろと多感な時期だったので、音楽も興味あるし、映画も興味あるしでひとつに絞れない。それで思いついたのが、本でした。なんでも本になるじゃないですか。だから、本を扱えばずっと自分の興味が満たされると思ったんです。

山口: じゃあ、アルバイトも本屋になろうと思って本屋を選んだんですか?

中島: そうです。本屋でアルバイトを始めたのが大学1年の秋くらい。

山口: その本屋は今でもあるお店なんですか?

中島: 最初はいわゆるどこにでもあるような街の本屋でアルバイトをしていました。大学2年になった頃に、外苑前にある Shelf (シェルフ) という本屋さんでアルバイトをしていたサークルの先輩がいて、「将来的に本屋やりたいんです」みたいな話をしたら「じゃあ Shelf とかでバイトしたら?」と言ってくれて。それで、まずそのお店に行ってみようと思って行ってみたんです。その時に人生で初めて外苑前のあたりに行ってみて、それでお店に入ったんですけど、なかなかいきなりアルバイトさせてくださいとかって言える雰囲気じゃなくって。

山口: 普通そうですよね。笑

中島: その時は何もいわずに帰りました。Shelf の隣にワタリウム美術館という私設の美術館があって、その下にオン・サンデーズというミュージアムショップがあるんですけど、そこも元々存在を知らなくて、こんなところがあるんだって初めて入ってみて、ふと掲示板みたいなところに貼ってあった紙をみたら「アルバイト募集中」って書いてあったんです。それですぐに履歴書送って、それでアルバイトさせてもらったのが大学2年の頃ですね。

山口: 実際に本屋さんの知識みたいなことはそこで学んだのですか?

中島: そうですね、アートブックの面白さなどもオン・サンデーズでアルバイトをしていた時に気付きました

山口: 僕ももともと本が好きなんですけど、アートブックがあれば、文庫本や単行本の物語、小説、現代史とか、本当にいろいろあるじゃないですか。アートブックと、世の中の人が思っているところの本って、いったい何が違うんですか?

中島: 本は、手にとって読みますよね。その体験が伴うことが “本を読む” ことだと思っていて。最近のアートブックは特にそうなんですけど、読書という体験を伴うことで、その本に記録されている情報以上のことを感じられるメディアだなという風に思うんですよ。再び音楽にたとえるなら、音楽配信とライブくらい、そこには違いがあるんじゃないかなと思います。たとえば人は1冊の本が置いてあるのを目にする時、大体の重さを無意識に想像しながら、手にとっていると思うんです。そして実際に手に取って、その本がすごく軽かったり、逆に重かったりするだけで、伝わる情報の質が結構変わるなと。

山口: 違和感があるということが人間にとって引っ掛かりになりますもんね。

中島: 重さとか、紙の質感とかめくり具合とか。すごく細かいことなんですけど、そういう本の構造を複合的に重ねていってひとつの表現となっているものがアートブックなのかなと思います。

本を読む時のようにリラックスした環境で、本を選んでもらいたい

山口: 大学を卒業されてから次の経歴はどういった感じだったんですか。

中島: 大学卒業してすぐに本屋を始めました。

山口: 今の POST ですか?

中島: POST の前に limArt (リムアート)という古書を中心とした本屋をやっていました。今は会社の名前になっているんですけど、その limArt を大学卒業と同時に始めたっていう感じですね。

山口: 始めた当初の規模はどのくらいだったんですか。

中島: 最初は、オンラインストアからスタートしました。そもそもどうやって本屋を始めたらいいのかもわからなくて、多少はお金を貯めたりしていたのですが、いきなり実店舗を持ってスタートできる体力はまだなくて。それでまず自分が集めてきた本たちを人に見てもらう機会を作ろうと思って、オンラインストアからスタートしたんですが、まあもちろん全然売れなくって。存在も知られていないですし。だから、大学卒業したあと半年くらいは、ヤマト運輸のコールセンターでアルバイトしてたりしましたね。

山口: オンラインだと本の説明が直接じゃなくなるし、レビューみたいな感じになっちゃいますよね。そもそも中島さんは、人に説明することでモノの価値が変わるのが面白いという気づきから本屋につながっているのに。

中島: そうなんです。オンラインストア自体、当時はなかなか作るのが大変だったりもして。

山口: 何年ごろですか?

中島: 2002年ですね。

山口: 当時はオンラインって全然まだ使われていないというか、メジャーではないですよね。

中島: そうですね。インターネット経由でモノを買うということ自体がまだ一般的じゃなかった時ですね。

山口: 全然売れなかったですか?

中島: 1ヵ月に1〜2冊とか…。笑

山口: 本屋というのは、どういうふうに回っているんですか?仕入れ値があって、それに価格をつけて、販売するということですよね。で、アートブックとかになると、仕入れ先は海外とかになるんですよね。

中島: そうですね。大学卒業してすぐ、本の買い付けをするために海外に初めていきました。本屋を始めようと思った頃から、僕自身はインターネットでいろいろ欲しい本とか興味ある本を買ったりしていたので、どんな人たちがどういう本を持っていて、どういったところにいるのかというのがなんとなくわかっていて。実際に海外に探しに行ったら知らないものもあるかもしれないと思い、卒業してすぐ1ヵ月半くらい海外のいろいろなところを回って、買い付けをしました。

山口: その時に買い付けた本をオンラインで販売?

中島: はい。

山口: でもまったく売れなかったと。それからどうされたんですか?

中島: 当時、澄さんという恩人がいたんです。僕がオン・サンデーズでアルバイトをしている時、夜によく足を運んでいたお店というかサロンみたいな場所があって。澄さんはものすごくセンスがいい。ある時、澄さんに「本屋をやりたいと思っていて〜」みたいな話をしたら、ちょうど澄さんが内装をしたギャラリーのオーナーの方がオンラインストアを見てくれて。「こんな本を扱っている人なら面白いから、ぜひ一度ポップアップで本屋をやりませんか」と誘ってくれました。それで初めてリアルに本を売るということをできるきっかけができたんです。

山口: ポップアップということは期間限定で?

中島: その時は2週間くらいやったと思います。今はもうないんですけど、ガルリエ・ナカムラという江戸川橋にあったギャラリーで、オーナーの方がすごくいろんな方と知り合いで、周りのデザイナーの人にも勧めてくれたり。澄さんもお店に来る人たちに勧めてくれて。それでなんとか、本屋としてもやっていけそうかなという実感がはじめて掴めたというか。ポップアップストアが終わった時に、オーナーさんにまた空いている期間があったらもう一回継続してやらせてもらえないですかと相談をして、同じギャラリーでポップアップショップみたいなことを一年半くらい続けました。結局、年に6回くらいやりましたね。

山口: だんだんとお客さんとかが増えていったんですか。

中島: そうですね。口コミでいろんな方が勧めてくれました。雑誌『ku:nel』などの本のデザインで、すごく面白くて優れた仕事をされているアートディレクターの有山達也さんが一番に来てくれたお客さんです。その有山さんがまとめて買ってくれたのは、今でもすごく印象に残ってます。あとは、写真家の若木信吾さんとか、片山さんを紹介してくださったアートディレクターの渡辺かをるさんとかも来てくださったり。徐々に口コミで人が来てくれるようになったというのが、ポップアップをやっていた頃の印象ですね。

山口: その後はどういう展開になっていったのですか?

中島: しばらくはポップアップショップを続けていました。ポップアップショップがない時は、そのスペースを全部片付けないといけないので、本の在庫を全部一掃して、自宅に持って帰って、またポップアップショップやる時に持っていく、ということの繰り返し。これがだんだん辛くなってくるんですよね。定住できる場所が欲しいなと探し始めて、偶然見つけたのが、今の POST がある恵比寿の場所です。当時は廃屋みたいな場所でした。

山口: へー。

中島: もう取り壊されることが決まっていた物件だったみたいで、貸しますって感じではなかったんですけど。隣にあった酒屋さんに物件のオーナーの方の連絡先を聞いて、直談判して。

山口: じゃあ内装も一からやり直したのですか?

中島: 結構 DIY しましたね。1ヵ月間くらい廃墟状態で、解体と塗装と床を貼るのは僕がやりました。

オープンした頃の POST

オープンした頃の POST

山口: え、ご自身で!

中島: はい。外に接する部分とか、雨とかそういうのが関係する部分はやってもらったんですけど。

山口: 当時の limart の社員は何人くらい?

中島: 最初は2人でスタートしました。もう1人は家具とかに興味があったのでインテリアを担当。僕は本の担当で。

山口: インテリアの担当?

中島: 本屋というのは本をたくさん見せるために、狭いスペースを効率よく使わないといけないじゃないですか。でも実際に普段本を読む時って、自分の好きな椅子に腰掛けたりして、もうちょっとリラックスした環境で読みますよね。本を買う時と本を読む時の差がすごく大きいことに疑問を感じていたんです。普段本を読むのと同じような環境で本を選んでもらうようなお店にしたいなって思って。店内には家具とか椅子とかも置いてあって、もしその椅子と本が欲しいと思ったら買えるみたいな感じでスタートしました。

シエラ・ヒックスとフルクサスと魚図鑑

山口: 僕が中島さんのところに行く時に1番楽しいのが、1冊ずつ本をいろいろと解説してくれるじゃないですか。ついつい「欲しい!」ってなっちゃう。その解説をこの場でも体験してもらえたらなと思って、この間購入した本も含めていろいろ用意しました。どの本から行きましょうか。

中島: 最初は白くて分厚い Sheila Hicks (シエラ・ヒックス) の本にしましょうか。

山口: これですね。

中島: これはテキスタイル アーティストの Sheila Hicks という人の作品集なんですけど、一番特徴になっているのがその小口という本の断面の部分で……

山口: これはモルタルというか壁紙というかなんというかボコボコしていますね。

中島: フェルトみたいな羊毛のような質感になっているんですけど、そこがさっき少し話した読書体験を伴うことで、情報以上のものが伝わる表現だなと。実際に中を見てもらうとテキスタイルを使った作品が淡々と並んでいるんですけど、この本のデザイン自体がなんかもう作家の表現の特徴を表しているというか。

山口: 1ページ、1ページがボコボコですもんね。笑

中島: この本は Sheila Hicks の確か初期の作品集で、デザインはオランダの Irma Boom (イルマ・ボーム) というデザイナーが担当しています。Irma Boom 自身がこのデザインのプランを出したみたいなんですけど、やはりとても特殊な加工なためものすごくお金がかかるというので、クライアントは最初拒否したらしいんです。それでも Irma Boom はこのプランを押し通して出版した結果、世界的に評価されてすぐ完売。今第五版くらい再販されています。

山口: Irma Boom は有名なブックデザイナーですよね?

中島: 多分、いま世界でもトップスリーとかに入る本のデザイナーだと思います。ニューヨーク近代美術館 (MOMA) が Irma Boom のデザインということで本を収蔵していたり、Chanel (シャネル) や Louis Vuitton (ルイ・ヴィトン) といったファッションクライアントとも仕事をしてます。あと建築家の Rem Koolhaas (レム・コールハウス) のプレゼン用の資料をデザインしていたりも。本当にトップクラスのクリエイターから絶大な信頼を得ているデザイナーですね。彼女のデザインという視点で探してみても多くの面白い本に出会えると思います。

山口: 僕は中島さんと出会って、本のデザイナーによって本を選ぶという観点を手に入れましたね。さて、次の本にも行きましょうか。

中島: 次は僕にとってちょっと限界点になっている『ハプニング&フルクサス』という本です。これは僕が学生時代にオンサンデーズでアルバイトしている頃に買ったんですけど、アートというものに漠然と興味を持つきっかけとなった本でした。

山口: どういうコンテンツなんですか?

中島: 60年代にフルクサスというアートムーブメントがあったのですが、アートムーブメントといっても実際に物質としての作品を作るというよりは、パフォーマンスやイベントとかその行為自体を作品としているようなものだったんですね。この本ではその当時のイベント告知や、プログラムなどの制作物がまとめられています。この本に出会ったときは、フルクサスを知って興味を持ったわけではなくて、単純にグラフィックがかっこいいというだけだったんです。あとはそのフルクサスという知らない言葉の響きに惹かれたというか。

山口: リズムもいいですよね。

中島: この本を買って、わからないなりにいろいろ見ていく中で、いろんなアーティストに興味を持ったり、出版社のことを知ったり、そういうきっかけになった本です。

山口: ある種のバイブルというか、きっかけの本。

中島: そうなんです。「アートは敷居が高い」と思われがちですけど、きっかけは視覚的な興味とか、かっこいいというだけの理由でも全然いいんじゃないかなって僕は実体験としてありますね。あと1冊、これも僕の原体験になっている本です。ドイツのアーティストブックの展覧会の時に作られたもので、アーティストブックと呼ばれるものが本当に淡々と並んでいるだけなんですが。

山口: へー、かっこいい。

中島: この本をきっかけに、グラフィックだったり、デザインで興味のあるアーティストを調べていろいろ勉強したりとか、海外から表紙が気になる本を取り寄せてみたりしました。

山口: なかなか危ない本ですね。見てると「これ欲しい、これも欲しい」ってなっちゃいそう。あともう1冊くらい行きます?ちなみにこれ (サカナクションのベストアルバム『魚図鑑』(2018) にて初回生産限定盤の特典として制作された同名の書籍) があるんですけど。

中島: では、その本のリファレンスになっている本を紹介しましょうか。

山口: この本は、実際に本の上に違うものがデザインされているという考え方で作られたんですよね。

中島: そうなんです。『ブックオブフィッシュ』という本を土台に、その上からいろいろとサカナクションの写真だったり、リサーチしたデータなどがコラージュされています。このアイデアは平林さんが一郎さんに提案されたんですよね。

山口: COMME ÇA DU MODE の平林くんじゃなくて、アートディレクターの平林さんですよね?笑

中島: そうです、平林直美さん。僕はベースとなる本を探すことを依頼されたのですが、それもそれで大変な部分があって。まずその本の著作権が切れてないといけないという問題がありました。

山口: これは本をそのまま使うわけですから、著作権が切れていないと権利の問題が発生しますよね。

中島: そうなんです。この著作権が切れてないといけないというハードルが1個あったのと、あとは平林さんのいいと思う本をちゃんと探せるかというすごいプレッシャーがありましたね。

山口: それが一番難易度高いですよね。

中島: カッコ良すぎず、古すぎず、というリクエストだったので、これは難しいなと。あと、イラストだけじゃなくて写真とかモノクロとかカラーとかがいろいろおり混じった本がいいという希望もあって。そもそも写真が印刷で一般的に使われるようになったのって割と最近で、60年代とか70年代くらいだと思うんです。そうなると60年代、70年代の本は確実に著作権が切れていないので、著作権が切れているとしたら30年代くらいということになる。当時の本の中で、イラストもあって写真もあって、カラーもあって、というものを探していくのがかなり難しかったです。

山口: どういう風に進めたんですか?

中島: いくつか仮説を立てて探しはじめました。まず、魚類学者の生まれた年がキーになるのではないかと想定し、1930年代時点で30〜40歳の人、つまり19世紀後半から20世紀初頭生まれの魚類学者の本を探してみました。ついに当てはまる魚類学者は見つかったんですけど、一つ大きな落とし穴があって。なぜだか魚類学者って総じて寿命が長かったんです。19世紀終わりに生まれた人の本だから大丈夫だなって思って、その人の亡くなった年を調べたら1990年に亡くなっているとか。笑 そういった人が数人いて、これはもう魚類学者の生まれた年を参考にしてもだめだと思って。まあちょっと半分冗談ですけど、さかなクンとかは多分90歳になっても「ギョギョギョ」っていってるんじゃないかなって思いましたね。笑

山口: 魚関係の人が寿命が長いってなんなんでしょうね。マイナスイオンを多く浴びてるとか関係あるのかな。笑

中島: どうなんでしょう。魚をよく食べてるのがいいのかとかいろいろ考えたんですけど。笑 それで、魚類学者の生まれた年で探すのはだめだと思って、他の仮説を立ててみました。1930年代に写真が使えてカラー写真もあって印刷もカラーでできる本を作るということは結構壮大なプロジェクトじゃないかと。これがもしできるとしたら、国家プロジェクト規模のものになるのではと思い、1930年代に魚の研究などに莫大な予算を割ける国ってどこかなって思ったら、アメリカが浮かびました。それで、アメリカの自然に関する国家レベルのプロジェクトをやっているところをリサーチしていくと『ナショナルジオグラフィック』が出てきたんです。

山口: ほうほう。

中島: それで『ナショナルジオグラフィック』の図鑑で調べたらこれがでてきたっていう。

山口: すごい探偵みたいですね。ブック探偵ですね。

中島: そういったストーリーがありましたね、これを探している時は。

 

山口一郎の過去の日記や詩が書籍化へ!

山口: 結果的に『魚図鑑』は売り切れで、もう入手できないですからね。

中島: そうですよね、さっき Amazon とかでチェックしたらプレミアついてました。

山口: 中身の編集は伊藤総研さんがやってくれたんですよね。「サカナクション亡きあと、第三者がサカナクションのことを記録して研究した」というコンセプトで内容の構成やデータとってくれたりとか、インタビューとかも。こういった形で中島さんにはいろいろサカナクションに関わってもらったり、僕のインプットとなる本をいろいろと紹介いただいたりしているんですが、実は山口保こと私の父が、僕の中学時代とか高校時代に文章を書く訓練のために残していた日記だったり詩みたいなものを書籍化したいと言い始めていて。で、それを今中島さんに手伝ってもらって実際に発売することになりそうなんですよね。

中島: はい。

山口: こちらはどうなりそうですか?笑

中島: すごくいい本になると思います。実際に物質を伴うことじゃないと伝わらないような本にはなるんじゃないかなと思います。

山口: まだデザイナーさんをご紹介いただいた段階で名前は出せないのですが、実現したらすごいことになりますね。

中島: 本当に。もしかしたらちょっとヒントになっちゃうかもですけど、文字をあそこまでプロダクトとしてデザインに真摯に向き合って使うデザイナーさんって日本ではなかなかいない気がするので。なんか一郎さんの言葉に質量を与えてくれるようなデザインになるんじゃないかなって。

山口: 中島さんうちの父親にお会いしましたっけ?

中島: まだお会いしてないです。

山口: これ会うことになったらやばいですね。

中島: いつかお会いできるのを楽しみにしています。

山口: 確実にお会いすることになると思いますし、いろいろいわれるはずです。父親の老後の楽しみらしいので。しかも、まだ1巻も出ていないのに2巻を出すといっています。これからもずっとこんな感じでいろいろと僕のインプットであったり、本の先生でいてください。

中島: こちらこそよろしくお願いします。

 

※本企画は、山口一郎本人の承諾を得て記事化したものとなります。