メイクアップアーティスト・Peter Philips (ピーター・フィリップス) インタビュー
Peter Philips
Peter Philips (ピーター・フィリップス) は、ファッションを愛し、ファッションに愛されているメイクアップアーティストである。彼の名を知らずとも、Raf Simons (ラフ・シモンズ) のファンであれば、1999年の『V Magazine (ヴイ・マガジン)』のエディトリアルで、モデルの顔にミッキーマウスのグラフィティを描いた写真を見たことがあるはずだ。Alexander McQueen (アレキサンダー・マックイーン) を崇拝するモード至上主義者は、彼の生前最後のランウェイショーである2010年春夏コレクションで、SF映画のような特殊メイクに息を飲んだことであろう。ハイエンドなランウェイメイクから、アーティスティックなモード誌のエディトリアルまで、いかなるプロジェクトにおいても彼にしか創り出せないアイコニックなビューティークリエイションを提案する。それが Peter Philips なのだ。
メイクアップアーティスト・Peter Philips (ピーター・フィリップス) インタビュー
Portraits
Peter Philips (ピーター・フィリップス) は、ファッションを愛し、ファッションに愛されているメイクアップアーティストである。彼の名を知らずとも、Raf Simons (ラフ・シモンズ) のファンであれば、1999年の『V Magazine (ヴイ・マガジン)』のエディトリアルで、モデルの顔にミッキーマウスのグラフィティを描いた写真を見たことがあるはずだ。Alexander McQueen (アレキサンダー・マックイーン) を崇拝するモード至上主義者は、彼の生前最後のランウェイショーである2010年春夏コレクションで、SF映画のような特殊メイクに息を飲んだことであろう。ハイエンドなランウェイメイクから、アーティスティックなモード誌のエディトリアルまで、いかなるプロジェクトにおいても彼にしか創り出せないアイコニックなビューティークリエイションを提案する。それが Peter Philips なのだ。
ベルギー、アントワープ出身の Peter が頭角を現したのは90年代初頭のこと。メイクアップアーティストを志す以前、ブリュッセル王立美術アカデミーではグラフィックとファッションを専攻していたという。その後同郷出身のスタイリスト Olivier Rizzo (オリヴィエ・リッゾ) やフォトグラファーの Willy Vanderperre (ウィリー・ヴァンダピエール) と出会い、モードの世界へと足を踏み入れた彼は、瞬く間に世界の名だたる有名ファッション誌をはじめ、Fendi (フェンディ) や Dries Van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン) のランウェイの常連となった。
モードシーンを牽引するビジョナリーの現在の肩書きは、ディオール メイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクター。2014年に就任して以来、ランウェイから広告キャンペーン、そして製品の監修まで全てのクリエイションを担当する Peter が、話題の GINZA SIX (ギンザ シックス) 内に構える「ディオール ビューティ 銀座」のオープンに合わせて待望の来日を果たした。
— お目にかかれて光栄です!今回の滞在でお花見は出来ましたか?
こちらこそ会えて嬉しいよ!お花見は残念ながら出来なかったね…「ディオール ビューティ 銀座」のオープニングと、オートクチュールショーで忙しくて…
— ショー、とても素敵でしたね。パリで発表された時と同じく、星の形のスパンコールを使ったアイメイクが銀座の街並みに映えて、とても幻想的でした。現在ディオールのメイクアップ クリエイティブ&イメージ・ディレクターとしてランウェイのメイクアップに加え、ビューティープロダクトの監修も手がけられていますが、何かアプローチの面で異なる点はありますか?
もちろんだよ!製品は、言わずもがな世界中の女性たちに向けてのもの。ランウェイのメイクは、ファッション業界の人に向けたクリエイションだからね。アプローチという点について言えば、ランウェイではファッションデザイナーの思い描くビジョンに寄り添って一つのイメージを作るということが大きな違いだね。
— なるほど。でもその一方で、Peter さんが2014年にメイクアップ クリエイティブ&イメージ ディレクターに就任してから、一般向けのプロダクトもかなりファッション的に寄せている印象があります。ほら、このネイビーのリップとか、超モードじゃないですか!
そう言ってもらえて嬉しいな!実はこの「ルージュ ディオール」の「602 ビジョナリー マット」は限定色でもう手に入らないんだけど、すごく好評だったんだ。今まであまり発表していなかったような大胆な色だけど、僕は普段エディトリアルでよくブルーリップを提案しているから、そのムードをデイリーで楽しんでもらいたくて作ったんだ。
— ブルーのリップスティックに限らず、Peter さんが手がけたプロダクトはかなりエッジの効いたものが多くて、モードファンにとっては堪らないはずです。中にはハードルの高そうなアイテムもありますが、お客さんのリアクションを見てどんな印象をお持ちでしょう?
思った以上に反響があるよ。きっとソーシャルメディアの影響じゃないかな。これまでモードなメイクは、ファッション誌の中だけのものだと思われていたけど、ビューティーインフルエンサーたちのおかげでクリエイティブなメイクがより身近なものになったと感じる。例えば YouTube (ユーチューブ) でメイクアップチュートリアルを検索すれば、アート作品のようにユニークなメイクアップが数え切れないほど出てくるだろ?Instagram (インスタグラム) だってそうさ。エッジの効いたメイクはもはやエディトリアルだけのものでは無いということだね。
— 面白い視点ですね!てっきりソーシャルメディア世代は Kylie Jenner (カイリー・ジェンナー) のような “クラシックな女性像” ばかりを好むと思っていました。キャットラインにヌーディーリップ、みたいな。
それも一つのトレンドだけど、やっぱり若い世代を見ていると個性的なメイクを積極的に取り入れている子たちが増えたように感じる。メイクアップは誰もが日常で取り入れられるクリエイティブツールだからね。
Dior (ディオール) のビューティーが始まったのは60年代。当時打ち出された、「Dare We Dior? (ディオールを取り入れる勇気、ある?)」というキャッチフレーズからは、Dior がオートクチュールの歴史の中で常に前衛的かつモダンなクリエイションでトレンドを牽引していたということが感じ取れる。そして当時メイクアップを監修していたのは…
— もちろん Serge Lutens (セルジュ・ルタンス) ですよね。
その通り。昨年創刊した『アート オブ カラー』では、Serge Lutens に始まる Dior ビューティーの歴史を編纂しているんだ。
— 『アート オブ カラー』は日本で発売されていないので何枚かのイメージしか見てないですが、黄色いアイシャドウを取り入れたメイクが好きでした。
あれも Serge Lutens のクリエイションだね。彼が Dior に入った直後、1968年に撮影されたもの。この書籍では、Dior のビューティークリエイションにおいて欠かせない色というエレメントを切り取っている。半世紀もの歳月が経った今、改めてこのビジュアル、そしてメイクアップのモダンさに驚くよ。
— このモダンさは、Dior がオートクチュール メゾンであるということも関係していると思われますか?
もちろんだよ。1947年に発表された Dior にとって最初のクリエイション、「ニュールック」はビューティにおいても大きなインスピレーションとなっている。その解釈は様々だけど、Serge Lutens も、彼の後を継いだ Tyen (ティエン) も、そして僕だって、メイクアップを通して「ニュールック」を提案するというミッションを課せられているんだ。
— Maria Grazia Chiuri (マリア・グラツィア・キウリ) がウィメンズ コレクション アーティスティックディレクターに就任してもうすぐ1年が経ちますが、新しいディオールのビジョンの中で Peter さんはどんな「ニュールック」を提案してくれるのでしょう?
先のソーシャルメディアの流れとも関係してるけど、未来のビューティートレンドは「ひとつのトレンドに縛られないこと」だと思ってる。多様な女性像を受け入れ、メイクアップで個性を表現すること。その需要に応えるために、ディオールという美の実験室で思いつく限りの選択肢を用意したいと思ってる。
<プロフィール>
Peter Philips (ピーター・フィリップス)
ベルギーのアントワープ生まれのメイクアップ・アーティスト。アントワープ王立学校にてファッションデザインを学び、その最終学年時にパリコレクションのバックステージを体験したことをきっかけにメイクアップの道に転向する。Dries Van Noten (ドリス・ヴァン・ノッテン) や Fendi (フェンディ) との仕事で注目を浴び、Peter Lindbergh (ピーター・リンドバーグ) や Inez van Lamsweerde (イネス・ヴァン・ラムズウィード) など人気フォトグラファーとのコラボも果たした。2008年より Chane (シャネル) のコスメティック部門のクリエイティブディレクターとして商品開発やキャンペーンビジュアル、ランウェイのメイクに関わり、ヴェルニのネイルエナメルなど数々のヒット商品を生み出した。2014年、パルファン・クリスチャン・ディオールのクリエイティブ&イメージディレクターに就任。彼の手がけるコスメはランウェイから誕生したアイテムとして注目を集めている。
問い合わせ先/パルファン・クリスチャン・ディオール 03-3239-0618
HP: www.dior.com