唯一無二のシンガーソングライター、Chara (チャラ) インタビュー
Chara
photography: hiroki watanabe
interview & text: tomoko ogawa
19歳で失恋をきっかけに歌い始めてから30年歌い続けてきた Chara が、昨年から続くデビュー25周年の締めくくりとして、2年4ヶ月ぶりのオリジナルアルバム『Sympathy』をリリース。豪華なゲストを迎えジャンルレスながらどこか懐かしさも感じさせるアルバムには、息子・HIMI も作詞で参加している。新しいものを常に取り入れながら、圧倒的にオリジナルなミュージシャンであり、かわいい人であり続ける、49歳の Chara のリアリティとは?
唯一無二のシンガーソングライター、Chara (チャラ) インタビュー
Portraits
19歳で失恋をきっかけに歌い始めてから30年歌い続けてきた Chara が、昨年から続くデビュー25周年の締めくくりとして、2年4ヶ月ぶりのオリジナルアルバム『Sympathy』をリリース。豪華なゲストを迎えジャンルレスながらどこか懐かしさも感じさせるアルバムには、息子・HIMI も作詞で参加している。新しいものを常に取り入れながら、圧倒的にオリジナルなミュージシャンであり、かわいい人であり続ける、49歳の Chara のリアリティとは?
—アートディレクター吉田ユニさんとフラワークリエイター篠崎恵美さんが手がけている、デイジーのお花がベールとして編まれた新譜『Sympathy』のジャケット、かわいいです、ものすごく。
うれしいです。デイジーは私がずっと気になってて、吉田ユニちゃんと打ち合わせしたときに、アルバムのコンセプトを伝えてどういうものにしたいのかをキーワードから拾ってもらうディスカッションをするなかで、最近デイジーが好きで歌詞にも出てくるし、無邪気さって意味もあるからみたいな話をして。そうしたら、Sympathyにぴったりだから使いたいと彼女が言ってくれたんです。
—今回は最初からこの二人にお願いしようと考えていたんですか?
かわいいのがいいなと思っていて、わりとずっと一緒にやってる平野文ちゃんというデザイナー、彼女はもちろん素晴らしいんだけど、新しい人とやりたいという気持ちもあって。初めてやる人とは不安があるけど、何かで関わった人なら確信できるじゃないですか。吉田ユニちゃんは、「恋文」のジャケットとPVも、すっごくかわいいのを作ってもらって最高だし、(篠崎) めぐは親友だしね。
—アルバムも聴かせていただいて、新しいミュージシャンとの共作などの新しさもありつつ、初期の頃の作品を彷彿とさせるものを感じました。
なんだろう? 打ち込みがちょっとあったからかな?
—なんだろう。歌詞と合わせて通して聴いたときにそういう印象を受けたんですよね。まずは、『Sympathy』というタイトルになった経緯をお伺いできたらと。
アルバムを作りはじめた最初は、親密さという意味がある「Intimacy」をコンセプトにしていて。心って通じ合うものだよなぁと当時すごく考えていたから、そういうテーマで作り出したんですけど、単語として伝わりにくいかなと。完成間近になって、息子に相談したら「Sympathy」がいいんじゃない?と言ってくれて。「それいいね!」と (笑)。共感とか共鳴という意味があるSympathy が、英語がわからなくてもだいたいの人が知ってると思うし、神秘的だけどポピュラーだから、アルバムタイトルにしました。それと、今までの Chara を聴いてもらっている方が、「今回のアルバムの歌詞は、Charaだけどなんか違う」と感じたとしたら、それは私が意識した部分ですね。
—もう少し伝わりやすいものにしようという意識ですか?
もし自分が映画の監督だったとしたら、最初の脚本みたいなものを書いたときに、すごく好きな台詞なんだけど、主演の Chara さんがそれを歌うとなると少し変わってくるじゃないですか。メロディ重視になって、そこに入り込むような似た言葉に変えていくから、たくさんは言えないの。そこの言えない部分は楽器が力を貸してくれるというところで、あとは受け取ってくれる人の想像力に任せるじゃないけど、お花の種は渡すけど咲かせ方はあなた次第みたいなところになっちゃっていたんですけど。
—そこから一歩踏み込んだのは、何かきっかけがあったとか?
2MC で HIP&HOP を生演奏でやってる韻シストの BASI 君をゲストに迎えた「Intimacy」という曲があって。ラップでも攻撃的なものは私には合わないけど、彼は愛の男で、表現もロマンティックだからすごく好きで。ラップをやろうという意識だからじゃなく、やるからには彼に寄り添うわけじゃないですか。普段伝えたい言葉がこれだけあるのにだいたい削がれちゃうという部分をけっこう言えたのがすごく楽しくて、そこからスタートして。自由に扉が開かれたから、他の曲の歌詞もその影響はありますね。
—強い言葉がたくさん入っているなと思いました。
そうですね。「Intimacy」に書いた「自分のことを自分くらいは信じてあげてよ」というのは、マイケル・ジャクソンが言っていて好きだったんだけど、アーティストって、みんなができない新しいことを、変わってるねって言われることをゼロから作るものだから。やれると信じる力が大切だと思うから、それも伝えたかったし。
—私とあなたは違うけど開いてるからこっちに来たら、みたいな雰囲気を感じましたけど。
そうかもね。わからないから歌うというのもあるし、人に伝えたいけど私のこの言葉で伝わるだろうかって不明確な部分もあるから。言葉って出したら引っ込められないからすごく責任があるなと思っていて。でも、引っ込められないからと躊躇しすぎるのもね。伝えることも大切だし。だから、歌詞のなかでは素直になりたいし、みんなが普段素直になれない部分やロマンチックでいたい部分も担えたらと思うし、そうやって生きている私のリアリティというか、49歳の Chara さんだけど、昔から変わらない何か。音楽をやっていると無邪気でいられるなと思いますね。
—やっぱり、ピュアだからまっすぐで強いんだけど、同時に傷つきやすいんだということを歌っているんだと思います。
そういうのは、人に言われて気づくことだからね。「私ピュアよ」って言って、「お前ピュアじゃないじゃないか」って言われちゃうことあるでしょ。「私めちゃくちゃ尽くす女なの」とか。そういうのを言うのは嫌いだから。でも今回、参加してくれたゲストの中でも特に Chara 愛の強いコンポーザーの野村陽一郎君からは、レコーディングしているときに「ピュアですね」っていうようなことを言われましたね。「傷つきやすい」ってことも言ってました (笑)。
—でも、みんなそういう部分を持っているから、Chara さんの曲を聴くんだとも思いますけど。
そうだよね、あるよね。気づいてない人もいるけどね。ピュアだと傷つくこともあるんです。
—そこを大人になっても隠さないところがずっと変わらないところ、なんじゃないかと。
それが最初に言ってた昔の感じってことかもしれないね。若い頃の、まだ世界はどこまでも広いと信じてるワクワク感から始まって、子育てを通じて無償の愛を知って、行ったことのない海に対して、「海ってこうなのかな? こうだった!」みたいなことを実際に味わったから、普通は保守的になって落ち着いてきそうなものなんだけどね。たとえば息子も娘も成長して、愛するがゆえに彼らの歌も書きたいと思うし、「お母さんになってすごく感じるものを」ってことを彼らの力を借りて楽曲にできるようになった。それが面白いんだよね。息子には、とってもSympathyを感じるし、発言も格好いいなと思う。ここ最近は、彼に一番影響を受けてると思ってて。実は、アルバムタイトルの言葉も彼がひらめいたんです。
—息子さんのアイディアだったんですね。
「Intimacyにしたいんだけど日本ではなじみがない言葉だから、似たようなフィーリングでみんながわかるもの。Chara のアルバムらしい言葉、何かないかな?」って聞いたら、「Sympathyは?」って。ちょうどそのときに、タイトルは決めてなかったんだけど、「Sympathy」という曲を作っていたから、ぴったりと思って。息子すげえなと。「Funk」という曲は歌詞も書いてもらった。さっき初期のデビューの頃を思い出すって言ってたのは、フレッシュな自分というか、何歳になっても新しいバランスを見つけられる、音楽にはまだ未知なるものが残っている可能性を秘めているということなのかもしれない。確信ではないけど、今そう思った。
—そうだと思います。Chara さんは、かわいさも変わらなくて。わがままというんじゃないけど、無邪気というか、ずっーとかわいい存在というか。
アーティストってさ、率先してさらけ出さないといけないと思ってて。だって Chara のアルバムだし、曲なんだもん。バンドならみんなと融合しなきゃいけないとか役割があったりする。でも私が最初に言い出しっぺにならなきゃいけない。それで私を信じるのも私だから、説得していかなきゃいけない。わがままにいなきゃいけないと思うんですよね。
—自分が監督であり、主演でもありますもんね。
そう。たとえばレコード会社に所属する、というその言葉に既に決められたルールがあるじゃないですか。そのなかで自分の信じているものがあって、担当してくれる人が Chara の曲のこんなところが素晴らしいとわかってくれていたとしても、それが合体したものが Chara ってわけじゃないからさ。わからないことも多いなかでお互いにやっていく関係だから。前作のアルバムは制作の担当がいなかったから、すごくフェミニンなアルバムになったんだけど。
—『Secret Garden』ですよね。
そう。自由にやっていいんだけど、自由ってなんてつまらないのっていう気持ちもあるわけ。いろいろやりたいけど、制作費も考えたくないけど、まあ考えるよみたいな感じで、結果家のスタジオでできるものということになって。年齢でいえば、ホルモンも下り坂だったし、まぁそういう時期だったのかな。私、音楽をやる以外に、3人子どもがほしいという漠然とした夢があったんですよ。それは叶わなかったんだけどね。それで、子宮のなかに固まってる銅像みたいなイメージで、『Secret Garden』にしたの。私の子宮 (笑)。そのあとに、今回ベテランの男性のディレクターが担当についたわけ。いきなり「Charaさんを愛してください」という状況でがんばってくれて、彼ともSympathyを高めていった。何よりも、そこのSympathyがほしいという気持ちもあったな。
—Chara さんは年齢を重ねることに対して、焦ったことはありますか?
身体の変化は感じているから、そこには少しはあるかな。今、更年期だと思うんですよ、たぶん。でも、調子悪いなぁって思うくらい。だけど、先輩から話を聞くと安心するよ。ちょっと年上の友達が、「大変だったけど、終わるから」と。そう言われると、これは終わるものなんだと知って楽になるんだよね。そうは言っても、こういう自分の身体や心と常に向き合って、繊細なことに気づくような仕事だから、センシティブになってしまうよね。いつも音楽ばっかりになっちゃうので、日常とのリセットの仕方については考えるよ。子育てはだいぶ終わってるし。
—22歳と17歳ですもんね。モデルや役者として活躍する娘・SUMIREさんや、息子・HIMIさんの活躍を見て思うことはありますか?
私は親がミュージシャンでも俳優でもないから、彼らみたいな扱いは受けてこなかったけど、親がそうだとできるのが当たり前と言われたりするだろうし、逆に2世って大変だよねと勝手に思ってる人もいるから。でも、人にもよると思うんですけど、何かは持ってるんですよね、みんな。それをどう開花させるかはお前たち次第だよという。持っているものは、ちゃんとあると思うので。
—Chara さんはどんなことで、「駄目だ~」って、落ち込むんですか?
音楽で煮詰まることはないんだけど、普通の生活において人間関係というかいろいろ悩むことはあるよ。人が変われば、コミュニケーションの仕方も変わるし。1曲だけ、13曲目「小さなお家」だけ日本語のタイトルになってますけど、これは実はシークレットトラックにしようと思っていたもので。レコーディングの最終日の前日に作って、やっぱりこれは入れるべきだと。実のところ一番私らしさが出てる曲かな。ほかの曲は、言葉を持って伝えることの大切さを歌ってるけど、この曲だけは言葉が意味を持たないこともある、というもので。言葉が意味を持たない人っていうのがいるんだよね。
—コミュニケーションの問題ですね。
そう。精神的に言葉が受け入れられない人もいるんだと考えさせられた経験があって。自分じゃなくて、親しい人がそういう精神状態になってしまったときに、今までなかったことだったから「駄目だ~」じゃないけど、どうやって伝えればいいのかを勉強したいと思いましたね。心理学は昔から嫌いじゃないから。勉強すればどうにかなるってことでもないような気もするけど、自分がカウンセリングとかそういうことをできるようになったらって思うくらい、興味が湧く感じだったな。
—「駄目だ~」と自分がすり減ったときに、エネルギーを与えてくれるものは?
息子と娘とモジョ君 (愛犬)。家族ですね。親友ももちろん。それと、おいしいものを食べるっていうのも大事だと思うんですよね。旬のおいしいものを誰かとシェアして食べる。そういう普通のこと。
—ミュージシャンっていうと生活感をあまり見せない印象があるけれど、Chara さんはちゃんと生活している感じがします。
ちゃんとね。私、体質的にお酒が飲めないから、そこはちょっと残念。若いときは無理して飲んでたけど、今はそうしようとは思ってなくて、全体的に無理して何かをしようとは全然思わないな。音楽体力があるだけに、身体の体力は落ちていくのよ。だから気づくと、「あれ、疲れてる」みたいな。そういうお年頃だとも感じる。そういう意味での「駄目だ~」はあるね。レコーディングも若いときは延々とやることもあったけど、もう時間の使い方もわかってるし、朝までやっても最初のテイクに戻ることもあるわけ。
—時間をうまく使うことが、経験上できるようになりますよね。
そうなの。だから、自分を信じる力がある=仕事がショートカットできることなんだよね。要するに、頭のいい仕事をする、そういう人が好き、友達もそう。そうすると、残った時間を有効に使えるじゃん。私にとって頭のいい人は、そういうことができる人だな。時間の使い方って本当に大切。やっぱり、寝たいじゃん (笑)。
—新しい人とどんどん関わっていっている印象があるんですが、そういう情報はどこから拾っているんでしょうか。今気になってるカルチャーシーンのクリエイターとかはいますか?
今度、対談でラブリーサマーちゃんと会うのを楽しみにしてる。私も機材大好き女子だったので。今って気になったらすぐ、TwitterでもInstagramでも、ネットサーフィンして調べられるじゃない。もちろん、実際にお店に行ったりするのも好きだけど。あとは、息子や娘からの情報ですね。会うと「最近何を聴いてるの?」って絶対に聞く。お互いに情報交換したりね。
—すごくいい関係ですね。Chara さんの根底にある、影響を受けたカルチャーって思いあたるものはありますか?
私がデビュー前までウエイトレスのアルバイトをしてた、六本木の「フラミンゴバー」。そこには、当時 NY からダンサーが来ていて、お店が終わるときにかかる曲が David Lynch (デヴィッド・リンチ) の映画『ブルー・ベルベット』(1986) の「Blue Velvet / Blue Star」で。こないだ<Naked & Sweet Soul Session>っていう小編成のツアーをやったときに、個人的な思い出からその曲をオープニングSEにして、それから1曲目が始まるっていう演出にしました。そういうのは、ちょいちょいあるけどね。
—今、気に入っているファッションのスタイルは?
髪がピンクだし、ヒッピーっぽいテイストは好きなので、そっち系に落とす感じですね。髪色で今まで似合ってたものが全然合わなくなった経験があるから、今は新しい洋服を買うのを躊躇してる。今回歌詞にも書いたけど、私、外見って内側の外側だと思っていて、そう考えるとすごく大切だなって。たとえば、ライブに行ったときに、いい感じのミュージシャンのTシャツを着ている人がいたら、話し掛けやすいし、同じ趣味の雰囲気のものを着てたら、「どこで買ったの?」って話もできる。内面を表すものだから、見た目で判断するというのも、悪くはないと思うんだよ。
—最後に、恋と愛について歌い続けている Charaさんですが、今、恋はしてますか?
してない。いい人いないんだよね、なんかちょうどいい人。気が合うとか、一緒にいて楽な人が。若い頃の恋みたいなのは、疲れちゃうから嫌だな。大人の恋がいいよね。ただ、私今こんなピンクの頭とかしてるからね。門もわかりづらいよね、入っていいのかなって。でも、私、けっこういいヤツよ (笑)。
<プロフィール>
Chara (チャラ)
1991年シングル『Heaven』でデビュー。一貫して「愛」をテーマに曲を創り、歌い続ける日本で唯一無二のシンガーソングライター。オリジナリティ溢れる楽曲と、ライフスタイルをも含めた”新しい女性象”を体現する独特な存在感により、女性を中心に絶大な人気を得る。1992年に日本レコード大賞ポップ・ロック部門のアルバム・ニューアーティスト賞を受賞。1996年に公開された岩井俊二監督の映画『スワロウテイル』に、劇中バンドYEN TOWN BAND のボーカルとして出演し、女優としても大きな注目を浴びる。翌年リリースのアルバム「Junior Sweet」は大ヒットを記録した。Chara=「音楽そのもの」としてその才能を余す所なく創作し続け、昨年デビュー25周年を迎える。アニバーサリーイヤーの今年、7月19日にオリジナルニューアルバム『Sympathy』の発売、続く9月1日からは全国ツアーの開催を控え、益々精力的に活動中。
HP: charaweb.net