Isabelle Huppert
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フランスの至宝、Isabelle Huppert (イザベル・ユペール) インタビュー

Isabelle Huppert

Portraits/

観る者の予想を裏切る展開、今までにない女性像を描いた作品として話題となっている『エル ELLE』。作品の中でフラッシュバックされるレイプシーン。強烈な性暴力の描写に賛否の声が上がっているが、その奇抜なストーリー、エキセントリックな印象を与えるキャラクターをあくまでもファンタジーやフィクションとして捉えてほしい、そんな作品に対する思いも含め、貴重な話をフランス映画祭で来日した Isabelle Huppert に聞かせてもらった。

フランスの至宝、Isabelle Huppert (イザベル・ユペール) インタビュー

観る者の予想を裏切る展開、今までにない女性像を描いた作品として話題となっている『エル ELLE』。今作の監督である Paul Verhoeven (ポール・ヴァーホーヴェン) はエロティック・サスペンスの金字塔となった『氷の微笑』(1992) を手がけたことで有名だ。原作者はエキセントリックな究極の愛を描いた『ベティ・ブルー / 愛と激情の日々』(2012) の Philippe Djian (フィリップ・ディジャン)。

ゲーム会社の美しい女社長である Isabelle Huppert (イザベル・ユペール) 演じるミシェルはある日突然、自宅で覆面の男性にレイプされる。その犯人をミシェル自ら突き止めようとする過程の中で、彼女の危険な本性が、過去に彼女を巻き込んだ事件と共に露わになっていく。気品を残しながら、その大胆なミシェルの役を体当たりで演じた Isabelle Huppert は今作で初めてアカデミー主演女優賞にノミネートされた。惜しくも受賞を逃したが、彼女の類稀な才能をより広い層に認知される機会となった。

『エル ELLE』は今年度のフランス映画祭の目玉作として日本でも初上映され、来日を果たした Isabelle Huppert。目の前に座って、作品について真剣に語る彼女はスクリーンの中の彼女よりも華奢で、女性ならではの柔らかさを感じる。作品の中でフラッシュバックされるレイプシーン。強烈な性暴力の描写に賛否の声が上がっているが、その奇抜なストーリー、エキセントリックな印象を与えるキャラクターをあくまでもファンタジーやフィクションとして捉えてほしい、そんな作品に対する思いも含め、貴重な話をフランス映画祭で来日した Isabelle Huppert に聞かせてもらった。

 

『エル ELLE』

 

—ミシェルは本当に大胆な女性ですよね。モラルに捉われないというか。日本の人々は国民性なのか、他人からの見られ方や、モラルを気にしがちなんです。特に女性はこうあるべきという世間の目で制約されていて、縛られていることにさえ自覚していないこともあるんです。個性を大切にして、自分らしく生きるために私たちがミシェルの生き方から学ぶことがあれば教えてください。

人の目が気になるというのはどの人種でも世代でも共通していると私は思っていて。フランスの女性は皆さんが思っているよりも自由ではないはずです。映画の中のミッシェルは確かに勇気があって大胆ですよね。それだけでなく、とても知的だし、自らアクションを起こす行動力のある女性です。ただ私はミシェルみたいな女性は実際に存在はしないと思います。あくまでも原作の Philippe Djian の小説の中に存在するフィクションの登場人物なんです。

—フランスの女性はそれほど自由ではないと仰いましたが、ユペールさん自身はどんな時に不自由さを感じますか?

フランス人だけでなく、どんな人だってそれほど自由は与えられていないと思うんです。自由を制約されているか、そうでないかは感じ取る側の問題だと私は思っています。

—ユペールさん自身はミシェルのような大胆な性格だと思いますか?

ミシェルとの共通点はたくさんあります。彼女の性格を分析してみると、すごく実存主義なところがあると感じました。自分自身がレイプされるという事件に対しても、すごく知的な見方や考え方をしています。もう一つの特徴をあげるとすれば、全く感傷癖がないところでしょうか。事件に巻き込まれた被害者であるにもかかわらず、起こった事件と距離を置いて、第三者のように冷静に見ているんです。レイプされたら人であれば、精神的に壊れてしまうのが普通です。でもミシェルの場合はそこから自分自身を分析しています。自分と男性との関係、父親との関係をその事件を通して改めて認識しているのが面白いと思いました。

—ミシェルはゲーム会社のトップとして仕事で成功し、素晴らしい家を持って、生活をしています。ユペールさんは女優として評価され、成功しています。もしこれからキャリアを積んでいく人にアドバイスをするとしたらどんなアドバイスをしますか?

私自身、人に助言をするのがあまり得意ではないのですが、私の経験上言えるのは、常に好奇心を持つのことがキャリアを積んでいくのに大切だと思います。いろんな人に出会って会話をするとか、その時にすぐに結果が生まれなくても将来的に何かの役に立つことはあると思うんです。何かから刺激を受けたりとか、経験こそが重要だと思います。

—彼女を意味する『エル ELLE』というタイトルがシンプルでありながら、一人の女性の人生に沢山の出来事があるように、色んな意味を含んでいて、強く印象に残っています。ユペールさん自身も今までの人生の中で沢山の経験を積んできたと思います。今の自分の仕事や生活、自分自身の印象は幼い頃に想像していたものになりましたか?

 小さな頃に女優として様々な作品に出演し、有名になるなんて全く想像もしていなかった。でも、女優になったからといって、自分の中身は幼い頃と比較してもそれほど変わっていないと感じています。第三者や外から私のことを見ている人たちは私が変わったと思うかもしれないですが、それでも自分の本質というか、考え方や性格などは子供の時からずっと同じなはずなんです。勿論、人の中には成長の過程で、性格などが少しずつ変化する人もいると思うんですけど、私自身に関して言うと、基本的なところは驚くほど何も変わっていないと思います。

—ミシェルは猫と暮らしていて、作品の中でも猫とのシーンがとても印象に残っています。ユペールさんの猫の扱いがとても自然だったので猫派なのかと勝手に想像してしまいましたが、イザベルさん自身は犬派ですか、猫派ですか?

断然猫派ですね。私自身も猫を飼っているんです。でも私が飼ってかわいがっている私の猫は私のことをそんなに好きじゃないみたいで (笑)。あの子は女性よりも男性が好きみたい。私が主演した『未来よこんにちは』の作品の中でも猫が出てくるシーンがあって、その猫は監督と私の共通する友人が飼っている猫でした。その子は演技も初めてで、トレーニングの経験もなかったので、扱いが難しくて。『エル ELLE』に出てくる猫は、「飛びかかれ」と命令を受けたら飛びかかる演技ができるちゃんと調教された「役者」の猫だったので、扱いも楽だったし、その演技力に驚かされました。

© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP

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作品の中で描かれる女性像に関して語る真剣な表情が少し和らぎ、少女のような可愛らしさも垣間見せてくれたイザベル・ユペール。多くのハリウッド女優たちが出演を断った問題作である『エル ELLE』にも自分自身から監督にアプローチし、エキセントリックな演技に挑んだ彼女の行動力がミシェルの大胆な性格と重なる。ダークでアブノーマルさが全面に出たこの作品をどう見るか、それは観る者の想像力に委ねられている。レイプという性的暴行をきっかけに主人公のミシェルが家族との関係、会社での立場や女の友情にフォーカスし、自分の本質に立ち向かっていく姿をストーリーと共に追いながら、私たちは「女の人生」について改めて考察する。それは映画の本質的かつ、有意義な楽しみ方に立ち返る素晴らしい機会なのかもしれない。

Photo by UTSUMI

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<プロフィール>
Isabelle Huppert (イザベル・ユペール)
フランスを代表する国際派女優。パリのフランス国立高等演劇学校で演技を学び、1971年の『夏の日のフォスティーヌ』で映画デビューを果たす。『レースを編む女』(1977) で脚光を浴び、 Claude Chabrol (クロード・シャブロル) 監督『ヴァイオレット・ノジエール (原題)』でカンヌ国際映画祭の女優賞を受賞。以降、Jean-Luc Godard (ジャン=リュック・ゴダール) 監督の『勝手に逃げろ 人生』(1979) などに主演し、Michael Cimino (マイケル・チミノ) 監督の問題作『天国の門』(1981) で米国進出する。『主婦マリーがしたこと』(1988) と『沈黙の女 ロウフィールド館の惨劇』(1995) でベネチア国際映画祭の最優秀女優賞を受賞。Michael Haneke (ミヒャエル・ハネケ) 監督『ピアニスト』(2001) で2度目のカンヌ国際映画祭女優賞に輝いた。フランスの名監督の作品だけでなく、ポーランドの Andrzej Wajda (アンジェイ・ワイダ) や韓国の Hong Sang-Soo (ホン・サンス) らの作品でも活躍する。

作品情報
タイトル エル ELLE
原題 ELLE
監督 Paul Verhoeven (ポール・ヴァーホーヴェン)
原作者 Philippe Djian (フィリップ・ディジャン)
製作 Said Ben Said (サイード・ベン・サイード)、Michel Merkt (ミヒェル・メルクト)
出演 Isabelle Huppert (イザベル・ユペール)、Laurent Lafitte (ローラン・ラフィット)、Anne Consigny (アンヌ・コンシニ)、Virginie Efira (ベルジーニ・エフィラ)
配給 ギャガ
製作年 2016
製作国 フランス
上映時間 131分
HP gaga.ne.jp/elle
© 2015 SBS PRODUCTIONS – SBS FILMS– TWENTY TWENTY VISION FILMPRODUKTION – FRANCE 2 CINÉMA – ENTRE CHIEN ET LOUP
8月25日(金) TOHOシネマズ シャンテ他全国ロードショー