John Boyega
John Boyega

俳優・John Boyega (ジョン・ボイエガ) インタビュー

John Boyega

Photographer: Hiroki Watanabe
Writer: Hiroaki Nagahata

Portraits/

Guillermo Del Toro (ギレルモ・デル・トロ) が2013年に自身の “怪獣愛” を炸裂させて作った『パシフィック・リム』の続編『パシフィック・リム:アップライジング』。本作で主演に抜擢された John Boyega (ジョン・ボイエガ) にインタビュー。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015) のフィン役で知られる彼の俳優になったきっかけ、演技のアプローチ、そして「黒人の俳優であるということ」について。

俳優・John Boyega (ジョン・ボイエガ) インタビュー

『シェイプ・オブ・ウォーター』で今年のアカデミー賞を席巻した Guillermo Del Toro (ギレルモ・デル・トロ) が2013年に自身の “怪獣愛” を炸裂させて作った『パシフィック・リム』の続編『パシフィック・リム:アップライジング』が、4月13日に日本で封切られた。制作着手までに時間がかかり、なかなかの難産だったという本作品では、プロデュースへまわった Del Toro にかわり、Netflixドラマ『デアデビル』などの制作総指揮で知られる Steven S. DeKnight (スティーブン・S・デナイト) が監督をつとめている。そこで主演に抜擢されたのが、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』(2015) のフィン役で知られる John Boyega (ジョン・ボイエガ) だ。

怪獣が襲来してから10年が過ぎた世界で、盗んだロボットの部品を売りながら生計を立てていた主人公のジェイク・ペントコスト (そう、前作に登場した環太平洋防衛軍司令官のスタッカー・ペントコストの息子である) は、ある “悪ガキ” との出会いをきっかけにイェーガーに乗り込むことになる。本作品の中で、なかなか自分の果たすべき役割と対峙できないでいるジェイクの葛藤を、John はまるで自分のことのように自然に演じていた。

以下は、来日時の忙しい合間を縫って実現した John 本人へのインタビュー。その内容は、俳優になったきっかけ、演技のアプローチ、そして「黒人の俳優であるということ」について。ぜひお楽しみください。

 

『パシフィック・リム:アップライジング』

 

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

—私はあなたのことを映画『インペリアル・ドリーム』(2014) を観てはじめて知りました。文学版『8 Mile』(2002) とでもいうべきこの映画の中でのあなたの演技が、ちょっとドキュメンタリーっぽい温度で、強く印象に残っていて。あなたは子どもの頃から演劇学校に通っていたんですよね?

そうだね。

—なぜ、演劇を始めようと思ったのでしょうか?

学校で演劇をやったのが楽しくて、まずは趣味として自宅近くの演劇学校に通ってみることにしたんだ。アイデンティティ・ドラマ・スクールという、僕のエージェントの Femi Oguns (フェミ・オーガンス) が創設した学校で、黒人向けの演劇学校というのは当時のイギリスでここだけだった。

—そうすると、役者も黒人だけ?

そう、黒人だけ。当時のイギリスでは、黒人は学校で同じような活動 (演劇) をすることができなかったから。『ブラックパンサー』(2018) に出演していた Letitia Wright (レティーシャ・ライト) という女優もそこの生徒だったんだよ。授業を一緒に受けたのを覚えている。他にも、最近の大作に出ているようなスターがたくさん通っていた。それが、僕のキャリアの始まりだった。演劇学校は純粋に楽しかった。そこへ通ううちに、自分にはある程度の素質があるとわかって、プロを目指すことにしたんだ。

—子どもの頃は、どんな映画やドラマが好きでしたか?

うーん、映画はそんなに好きじゃなかったね。むしろ、舞台演劇の方にハマってた。そもそも映画館に入るお金もなかったし、宗教的な家庭で育ったから、「教育に不適切」と判断された映画は観ることすら禁じられていた。だから、アニメとかテレビ番組を見ていたよ。

—そうすると、テレビドラマや映画の俳優に憧れていたわけではなかったんですね。

そうだね。どんな俳優がいるかとか、興味がないから全然知らなかった。セレブリティの良さも分からなかったし、それに憧れる人たちの気持ちも分からなかった。それに、僕が子供のころはほとんどの時間を外で過ごしていたよ。僕にとって一番興味のあることは、テレビに誰が映っているかじゃなくて、外で誰が遊んでいるかだった (笑)。だから、特定のロールモデルがいたわけではなくて、演劇学校時代に周りにいた人たちから刺激を受けつづけていた。

©Legendary Pictures/Universal Pictures.

©Legendary Pictures/Universal Pictures.

—あなたの幼少期はイギリスでもまだ黒人差別が残っていたと思いますが、ご自身に演技を通して「黒人を代表する」というような気持ちはありますか?

それはない。残念ながら、業界に入ってみて初めて、僕がいつも「黒人」としてカテゴライズされていることが分かった。白人の俳優が「白人」ってカテゴライズされることはほとんどないのにね。アメリカにいる日本人や中国人の俳優も同じ経験をしている。僕らは他の人と同じく単にパフォーマーでいたいだけなんだけど。『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』への出演が決まった時にもちょっとした騒ぎがあって、そのときに僕の道は白人の俳優の道とは異なるんだっていうことを悟った。自分がどんな人間なのか、より積極的に語っていくことが求められるんだって。白人の俳優だったら、自分の肌の色について話す必要なんてなくて、ただ演技をしてればいい。だから、自分から何かを代表しようと思ったわけじゃない。業界に入って初めて、何かを代表するっていうのは問題だと理解したんだ。そんな風に考えてる。

—『スター・ウォーズ』にあなたが出演することが決まった時に、SNSで差別的な発言をポストした一部のファンに対して、「頼むから慣れてくれ」っていう返事をしていましたよね。すごく気の利いた一言だと思ったのですが、その意図を教えてもらえますか?

その先に何が起こるか分かっていたんだ。近々『ブラックパンサー』や『ゲット・アウト』の公開が発表されて、そういう人たちも、黒人やアジア人の俳優が表舞台に出てくるのを見ざるを得ない状況になることがね。だから、先に警告しておいてあげようと思って (笑)。(『スター・ウォーズ』について騒いだ人たちにとっては) そういう多様性を強制されているように感じるかもしれないけれど、僕からしたら、それってまるで「白人の俳優以外に才能のある人はいない」って言ってるみたいでさ。それは真実じゃない。例えば、『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』に出演した Kelly Marie Tran (ケリー・マリー・トラン) についても、アジア系であるということで、ちょっとした摩擦や騒ぎが起きている。まったく、騒いでいる人たちは病んでるとしか言いようがないよ (笑)。

©Legendary Pictures/Universal Pictures.

©Legendary Pictures/Universal Pictures.

—ただ、今の子どもたちは新しい世界に生きるわけだから、彼女ら、彼らにとってあなたはマイノリティーではないですよね。

そうだね。自分たちで自然に理解すると思う。世界には白人しかいないわけじゃないんだ (笑)。誰にだって神様に与えられた才能がある。神様はレイシストじゃないから、人種は関係ない。人間は時として愚かだから、どうでもいいことにこだわったりする。でも『ブラックパンサー』を見てみなよ、って。西洋でも、アジアでも、アメリカでも成功した。子どもに「君の好きなヒーローは誰?」って聞いたら、「あのアジア系の……」とか「あの黒人の……」なんて言わないよね。単に「この人が僕のヒーローなんだ」、それで終わり。そういう世界がやってくるって、僕には分かっていた。

—あなたはもともと舞台演劇に影響を受けていましたが、現在はご自身があまり興味のなかったムービースターという立場にいますよね。あなたはご自身をどんな俳優だと位置付けていますか?

僕は「自分が観たいと思うもの」になりたい。そして僕は、色んなものを観たいんだ。一昔前だと、Will Smith (ウィル・スミス) は一流のSF映画、Tom Cruise (トム・クルーズ) は一流のアクション映画、みたいな感じで、何となく一人の俳優から連想される特定のジャンルがあったよね。それが最近では変わってきてる。僕もそうだし、Michael B. Jordan (マイケル・B・ジョーダン)、Letitia Wright (レティーシャ・ライト)、Chadwick Boseman (チャドウィック・ボーズマン)、Lupita Nyong’o (ルピタ・ニョンゴ)、Andrew Garfield (アンドリュー・ガーフィールド)、Tom Hardy (トム・ハーディ)……彼らは、なんでもやる (笑)。自分の感覚に従って、やりたいことをやっている。自分がどういう作品に関わりたいかということが大切だと思うから、クリエイティブな意味で、たくさんの選択肢を自分自身に与えるようにしている。それに、プラットフォームの移行にともなって、“ムービースター” の定義も変わった。Netflix みたいなストリーミングサービスもあるし。物ごとは常に進化している。今は、良い脚本家、監督、プロデューサーの揃ったプロジェクトに関わるということがとても重要。そして、そのプロジェクトの中で主人公を演じられるように精いっぱい努力するんだ。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

—とはいえ、例えば『パシフィック・リム:アップライジング』のジェイクと『インペリアル・ドリームス』のバンビは、彼らの人間的な弱さがそのまま映画の魅力につながっているという点では同じだと思いました。『パシフィック・リム:アップライジング』の場合が特にそうだったんですが、John Boyega さんが出演すると、その映画に人間味みたいなものが足される気がするんですよね。

人間は、みんなが思っているほどの個人差はない。時として自分たちで複雑にしてしまうけど。僕らは、人間としての経験を積んでいるスピリチュアルな存在だ。この世界にやってきたばかりだから、毎日新しいことを学んでいる。間違いも犯すし、人となりも変わっていく。より良い人間になるときもあれば、より悪い人間になることもある。それが人生だから。映画に登場する人間のキャラクターは、様々な状況に対して様々な関わり方をするよね。それを観客が共感できるようにどう演じるかについては、ずっと追求していくべきものだと思う。

—ジェイクにはリアルな John Boyega が投影されているように感じました。なぜでしょう……特にあなたのヒストリーに詳しいわけではないのですが (笑)、今まで以上に完璧なハマリ役だったと思います。

『パシフィック・リム:アップライジング』のジェイクは、自分自身の人生との共通点を見出せた唯一の役だったんだ。というのも、他の役は自分の経験からはほど遠いものだったから、比べようがなくて。その分、リサーチや情報収集にたくさんの時間を費やした。だけど若いころのジェイクは、16歳や17歳の時の自分みたいだった。自分の欲しいものに関しては向こう見ずで、たくさんの危険を犯す。現実的なお金の問題や人生の辛い部分をまだ経験していないからね。ジェイクという役を通して、そういう感じを表現したかったんだ。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

<プロフィール>
John Boyega (ジョン・ボイエガ)
ナイジェリア人の両親のもと、英ロンドンに生まれ、幼少の頃から演劇の舞台に参加する。2011年、Joe Cornish (ジョー・コーニッシュ) 監督のSFアクション『アタック・ザ・ブロック』で主人公となる不良少年たちのリーダー、モーゼス役を演じスクリーンデビューし、高い評価を得る。同作をきっかけに Spike Lee (スパイク・リー) 監督のTVシリーズ『Da Brick(原題)』(2011) で元ヘビー級チャンピオン、マイク・タイソンの青春時代を演じた。期待の新人俳優として注目を浴びるなか、アイデンティティ・ドラマ・スクールに通いながら、『Becoming Human (原題)』『Law & Order: UK (原題)』といったTVドラマにゲスト出演。映画にも3本出演したのち、米大ヒットTVシリーズの続編『24 TWENTY FOUR リブ・アナザー・デイ』(2014) に参加した。J・J・エイブラムス監督の『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』では、物語の新たな中心的キャラクターとなる、ストームトルーパーの脱走兵フィンを演じて世界的に注目を浴びる。

作品情報
タイトル パシフィック・リム:アップライジング
原題 Pacific Rim Uprising
監督 Steven S. DeKnight (スティーブン・S・デナイト)
出演 John Boyega (ジョン・ボイエガ)、Scott Eastwood (スコット・イーストウッド)、菊地凛子、新田真剣佑
配給 東宝東和
制作国 アメリカ
制作年 2018年
上映時間 111分
HP pacificrim.jp
 ©Legendary Pictures/Universal Pictures.
 4月13日(金)、全国ロードショー!