OAMC (オーエーエムシー) デザイナー、Luke Meier (ルーク・メイヤー) インタビュー
Luke Meier
Photographer: UTSUMI
Writer: Yasuyuki Asano
ストリートとラグジュアリーのギャップを埋める新たなメンズウェアを提案してきた OAMC。元 Supreme (シュプリーム)のヘッドデザイナーとしても知られ、今では妻の Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) と共に Jil Sander (ジル・サンダー) のクリエイティブ・ディレクターも務める Luke Meier (ルーク・メイヤー) にインタビュー 。その注目せざるを得ない肩書を超え、自分自身の分身である OAMC (オーエーエムシー) というレーベルを通して彼が伝えたい事とは。真摯で穏やかな受け答えから垣間見えたのは、ストリートで育ってきたものにしか許されない皮膚感覚と、彼自身のストイックな姿勢。
OAMC (オーエーエムシー) デザイナー、Luke Meier (ルーク・メイヤー) インタビュー
Portraits
2014年の立ち上げ以降、「ラグジュアリー・ストリート」と形容されてきた数多のブランドとは全く異なるアプローチで、ストリートとラグジュアリーのギャップを埋める新たなメンズウェアを提案してきた OAMC (オーエーエムシー)。そのデザイナーが、カナダ出身の Luke Meier (ルーク・メイヤー)。 元 Supreme (シュプリーム)のヘッドデザイナーとしても知られ、今では妻の Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) と共に Jil Sander (ジル・サンダー) のクリエイティブ・ディレクターも務めている。その注目せざるを得ない肩書を超え、自分自身の分身である OAMC というレーベルを通して彼が伝えたい事とは。真摯で穏やかな受け答えから垣間見えたのは、ストリートで育ってきたものにしか許されない皮膚感覚と、彼自身のストイックな姿勢。このインタビューを経て、その直後に発売されたリワークミリタリージャケットのパッチに記された “PEOPLE FOR PEACE” という文字が、よりリアルに映ったのは言うまでもない。
—日本に来るのは、初めてではないですよね?
何度も来たことがあるよ。初めて来たのは、2001年頃かな。当時は Supreme にいて、仕事だけではなく、友達と北海道でスノーボードをしたり。前回来た時は、京都にも行ったよ。
—前回来たときに比べ、何か変化は感じましたか?
2年半ぶりに日本に来たのだけれど、昨日着いたばかりだからまだよくわからないね。でも初めて来た時に、 アルファベットの表記がなくて地下鉄ひとつ乗るにしても、すごく苦労したことを覚えてる。
—確かに当時は今よりずっと、東京を旅行するのは大変だったと思います。
うん、でもそれがクールだと思ったんだ。日本に来たのだから、人々に英語を話して欲しいとも思わなかったし、旅行のそういうチャレンジングな部分、問題を解いていくようなアドベンチャーな感覚が大好きなんだ 。もし日本に友人がいて、全てアテンドしてくれれば すごく簡単だけど、そうしたら何も自分で学べないからね。例えば街を歩くにしても、標識からその国のカルチャーを感じたり。
—ルークは今、どこを拠点としているのですか?
基本的にはミラノにいるよ。仕事の拠点だからね。でもパリにアパートも持っているんだ。
—以前パリに住んでいたとか?
僕自身は以前ニューヨークにいて、妻のルーシーがパリに住んでいたんだ。だから今後の拠点としてパリでアパートを契約したんだけど、その一週間後に Jil Sander のオファーが届いて。
—それはすごいタイミングで。
だから今は全然パリに行く機会がなくて。でも2年越しでやっとみつけたパーフェクトなアパートだったから、しばらくは取っておく予定。
—そのニューヨークに住んでいた当時のこと、特に Supreme 時代の事をよく聞かれたりすると思うのですが、僕としてはその前のことにより興味があります。テーラリングを学んでいたと聞いたのですが?
そう、でもその前に金融の勉強をしていたんだ。
—なるほど。では改めて、一からルークの歴史を教えてください。
まず、子供の頃から常にデザインに興味があったんだ。カナダの西海岸で育ったんだけれど、そこにはすごく良いスケートボートやパンクロック、ヒップホップのカルチャーがあって。ニューヨークやロサンゼルスのシーンと繋がっていて、すごくクールなDJやグラフィティライターがいたり。そういうものに囲まれて育ったから、昔から何がクールなのか、どうしてクールなのか、自然とわかっていたんだ。例えば、PLAN B や H-STREET といったチームがクールで、他がそうじゃないとか。10歳のキッズでさえその違いがわかるんだよね。
—なるほど、分かる人には分かる、感覚ですね。
そう。説明するとかじゃなくて、ただ知るしかないんだ。そんな環境の中、ビジネスを学ぶことにしたのは、実践的な学問だと思ったから。デザインやアートを学ぶことは、抽象的すぎる感じがしたんだ。
—僕の両親も同じことを言っていました。ファッションの学校って何を学ぶところなのって。
僕も正にそう思っていて。だから、ただ実践的そうだという理由でビジネスを勉強して、皆と同じようにニューヨークのウォールストリートで仕事を探していたんだ 。
—実際に採用試験を受けたりしたんですか?
面接とかにも行ったんだけど、全然面白くなくて。だから就職活動を止めて、ダウンタウンで色々な人とスケートボードをしていたね。そうしているうちに、James Jebbia (ジェームス・ジェッビア:Supreme の創設者) と知り合って彼のもとで働くようになったんだ 。
—Supreme で働いていながら、テーラリングなどファッションの勉強をし始めたのは何故ですか?
ビザが問題になったんだ。ビジネスを専攻した僕のビザでは、デザイナーとしてアメリカでは働けなかったから、FIT (Fashion Institute of Technology、ニューヨーク州立ファッション工科大学) でデザインの勉強をすることにしたんだ。そのカリキュラムの一環で、1年イタリアにテーラリングを学びに行って。
—Supreme でデザインをしながら、学校ではテーラングを勉強するってすごく面白い生活ですよね。
うん、すごく自分の為になったね。Supreme でブランドのイメージやアイディアを学ぶ一方で、デザインやテーラリングを勉強すればするほど、そのイメージを実際のプロダクトにする為に非常に大事なことだと気がついたんだ。特に素材にはどんどんのめり込んでいったね。新しい扉を開いた感覚だったよ。
—その後 Supreme を離れ、自らのブランドである OAMC をスタートした理由は何だったのでしょうか?
デザイナーとして働けば働くほど、プロダクト自体への興味が強くなって。更に上のクオリティのものづくりをするには、ヨーロッパ、もしくは日本でやるしかないと感じたんだ。それに、ヨーロッパのハイブランドは、クオリティの高いものはつくれても、Supreme で僕達がやっていたような視点は持っていないように感じて 。僕ならそのどちらも実現できるはずだと思ったんだ。
—その視点、っていうのは、生まれた時から慣れ親しんだカルチャーや、先程の「何がクールなのか」という絶対的な感覚のことですね。
その通り。ラグジュアリーのレベルでものづくりをしながら、そこに僕自身の好きなカルチャーやイメージを挿入する。そうすれば、他のブランドとは違うものになるはずだと思ったんだ。
—それから数年を経て、今では所謂ストリートをバックグランドに持つデザイナーも世界的にどんどん台頭してきていますよね。
そうだね。東京のメンズウェアシーンはどんな感じ?
—今は世界的にどこも同じになってきているように僕は思います。東京のスタイルも、パリのスタイルも、LAのスタイルも、全て似てきているというか。
「インターネット・スタイル」ってやつかな。僕も各都市の違いは少なくなっているように感じるよ。何処で何が起こっているのか、今はいとも簡単に情報を手に入れることができるからね。
—正にその通り。特に今人々は、 バズがあるかどうかで買い物する傾向が強いと思います。SNSで話題になっているとか、セレブが着用したとか。だからこそ、昨日 OAMC のインスタグラムを見ていて、僕はすごく好きだなと思ったんです。そういう投稿が全然なくて、確固たる世界観が表現されているので。
そうだね、そういうことをしないからプレスチームには怒られるけどね。
—その代わりに、例えばアーティストの作品を投稿したりしていますよね。ピカソとかアイ・ウェイウェイとか。なんとなく、ルーク自身はインスタグラムに必死なタイプの人間ではないように思いますが、どのように考えていますか?
インスタグラムは、「ツール」だと思ってる。SNSのことを、表面的で知的じゃない、という風に捉える人もいるけれど、僕はその使い方次第でとても美しいものになると思っているんだ。
—具体的には、その「ツール」をどのように使用していますか?
僕達が面白いと思うものを投稿することで 、僕達のバイブスや考えていることを間接的に伝えようとしているんだ。直接的に商品やセレブリティの写真を投稿するのはつまらないから、僕達のエナジーを表現する場として使っているよ。
—そこから更に発展させて、SNSやEコマースサイトを通じたオンライン・ショッピングという点において、ルークの服に込めた拘りやテクニックをどうすれば伝えることができると思いますか?
今は OAMC のEコマースサイトはないけれど、実店舗とオンラインショップは、あくまで並行して存在するものだと思う。ハイプやセレブリティ主導のやり方もひとつだけど、僕達は少し違う。OAMC の服をオンラインで買う前に、実店舗で商品を手にとったりしながら、もう少しブランドのことを理解してもらって、その先にはじめてオンラインでの購入が存在するのだと考えているんだ 。そのようなオンラインとオフラインの相互作用があるやり方のほうが面白いと思うし、本当の意味で強力な、長期的なカスタマーベースを作ることができると思う。
—あともう一つ、インスタグラムに付随して、どんなに調べてもわからなかったことがありまして。 ズバリ、OAMC という4つのアルファベットの組み合わせは、何を意味しているのでしょうか?
常に変わるよ。
—やっぱりそうなんですね!昨日インスタグラムのAW17コレクションに関する投稿で、#OnAMidnightClouded というハッシュタグを見つけて。あぁ、これが答えかと思っていたら、次にSS18コレクションに関する投稿で、#OneAlwaysMoreConscious っていうのを見つけて。更にAW18では #OnceAMothersChild になっていて。意味は毎回変わるにしても、元々はどうして OAMC という組み合わせにしたのでしょうか?
見た目の形だね 。視覚的に、この4つのアルファベットの組み合わせが好きだなって。ナイスな見た目で、毎回意味が変わって進化していく、っていうアイディアが気に入ったんだ。
—ということは、ブランド名を決める時、色々なアルファベットの組み合わせを試したのでしょうか?
その通り。
—まるで、外国人が日本語のタトゥーを、意味も知らずに見た目だけで入れちゃうみたいですね。
確かに。僕自身は変な漢字のタトゥーは入れてないけどね。
—それはよかったです。それではSS18シーズンの話を。#OneAlwaysMoreConscious (常に、より意識的な人)というワードには、どういった想いが込められているのでしょうか?何に対して、意識的であるべきなのでしょうか?
ここ数年、世の中に酷いことが溢れかえっているにも関わらず、人々は無知なままだと感じたんだ。ファッションって、人々の気持ちを映し出すものだから、もっと社会や政治と関連しているはずなのに。その疑問から派生して、抗議活動について考え始めて。つい先日も、アメリカで銃社会に反対する高校生たちの抗議活動があったと思うけれど、それこそクールな行動だと思う。遂に人々が声を上げ始めたというか。そのように、今回のコレクションは、アメリカ学生運動、ベトナム戦争反対や公民権運動など、活発に抗議活動が行われていた60年代がベースになっていて、今こそ人々は社会に対して無知のままでいるのではなく、学んで行動すべきだということを伝えたかったんだ。皆のマインドを呼び起こすために。
—それは日本にも当てはまることだと思います。 例えば、アメリカやイギリスの友人と話していると、トランプやブレクジットもあり、自然とそういう話題が出ますし、日本よりもっと身近に政治や社会問題を感じているように思います。
僕は日本の状況はわからないけれど、まだまだ世界的に関心が足りないと思う。インターネット上に情報が溢れている一方で、その本質を見れるほど、人々はまだクレバーではないと思う。アルゴリズムで、どうでもいいようなニュースを次々と与えられるからね。
—つい、何も考えずに、オートマチックにやってくる情報を流し見してしまいますね。
そして時に人々は、その視点や見解でさえもコントロールされてしまうんだ。誰でもニュースが発信できる今、例えば腕のいいグラフィックデザイナーがいれば、簡単にニューヨーク・タイムズのような権威あるメディアのように見せることだってできてしまうし、表面的なニュースやプロパガンダ的なもので溢れている。本当は情報からもっと知識を得ることができるはずなのに、今はそれが逆に難しくなっている 。本当に有益な知識を得るには、沢山の情報の中に潜って自分で取捨選択しないといけない。だからこそ、 好きなものだけじゃなくて、意識的に好きじゃない物事にも目を向けるようにすべきだと思う。そうすることで、物事の全体像が見えるからね。
—今は、情報は沢山あって簡単にアクセスもできるのに、物事の本質や問題が見えづらいと。
そう。そして、僕達がその問題に向けて何をすべきか、ということも。そういう考えが、今回のコレクションのベースになっているんだ。だから、ビート・ジェネレーションとかマルコム・Xのように、60年代の人々がいかに社会を良くしようと知的に行動していたかを取り上げているんだ 。
—なるほど。このコレクションは何か特定の問題に関するものではなくて、今の現状全体への問題提起なのですね。
そうです、現状に対する意識こそがメインテーマです。皆の目をオープンさせることができるように。
—それでは続いて、AW18コレクションについて教えてください。
Joseph Beuys (ヨーゼフ・ボイス) と Ellsworth Kelly (エルズワース・ケリー) という、二人のアーティストが大きなインスピレーションなんだ。僕は素材にすごく興味があるから、フェルトや脂肪といった異素材をアートに持ち込んだ Joseph Beuys の作品が大好きで。彼は第二次世界大戦のときドイツ空軍のパイロットをしていて、追撃されたことがあるんだ。その後治療を受けた際に、体に脂肪を塗られフェルトにくるまれたことで助かったとう逸話があって 。それが彼のアート作品にそのまま反映されているんだ。そこから、彼と同じく第二次世界大戦に参加した Ellsworth Kelly に繋がって。彼は、敵を欺き混乱させる役割の「ゴースト・アーミー」という特殊部隊にいて、他のアーティストやミュージシャンと共に、ニセモノの戦車などを作り出して欺瞞作戦を行っていたんだ。ある意味、すごくクリエイティブだよね。この二人はアーティストとしても素晴らしいけれど、ミリタリーのバックグラウンドに目と向けると一層興味深いんだ。
—だからフェルトといった特殊な素材もコレクションで使われていたのですね。
そう、彼らの素材使いに大きくインスパイアされたんだ。特にフェルトは、カットしたりするのが容易ではなく、一般的な生地とは全く違う。だからこそ、チャレンジするのが面白かったね。
—個人的にはAW18シーズンが今までで一番好きなコレクションでした。パリで3回のショーを経て、ブランド立ち上げ当初から一貫しているプロダクトにフォーカスしたコレクションに、よりファッション的な遊びやルックとしての完成度が加わったのではないかと思います。ここ数シーズンで、何か特別な変化はあったのでしょうか?
非常にいい質問だね。というのも、ブランド設立当初は自分たちが作りたいものをちゃんと形にできるように 、まずプロダクトにフォーカスしていたんだ。でもここ2年ほどで、つくりたい商品を何でも実現できるキャパシティができてきて、徐々にコンセプトに時間を割けるようになったんだ。だからそれをコレクションから見て取ってもらえて嬉しいよ。
—パリでショーをすることにした理由は何でしょうか?ルックブックだけでもブランドとしては十分成功していたと思いますし、ショーが不可欠という訳ではなかったと思います。それに Supreme にいたときのように、オフ・カレンダー的なアプローチもできたと思うのですが。
単純に楽しいから、かな。ショーを始めた当時は6人しかいない小さなチームだったのに、Valentino (ヴァレンティノ) や Lanvin (ランバン) のようなビッグメゾンの間に OAMC の名前があることが面白くて。僕達にだってパリでショーができるっていうチャレンジだね。そして、ラグジュアリーブランドと同じことをしても面白くないから、ショーというフォーマットで、如何に自分たちにあったやり方ができるのか。ショーをすべきかどうかっていう議論はずっとあると思うけれど、僕はショーには特異な経験を作り出すパワーがあると思っている。
—僕もショーが好きです。これからもパリでのショーを続けたいと思いますか?
今のところは、ショーがベストなフォーマットだと思う。でも何か他の方法が良いと思うようになるかもしれない。何かをすることが義務になっては面白くないからね。常にクールだと思うことにチャレンジできる状態でいたいんだ。
<プロフィール>
Luke Meier (ルーク・メイヤー)
カナダ出身のデザイナー。多様なインスピレーションをもとに、現代の空気感を反映させたメンズウエアを提案する OAMC のクリエイティブディレクター。元 Supreme のヘッドデザイナーとしても知られ、2017年4月からは妻の Lucie Meier (ルーシー・メイヤー) と共に Jil Sander (ジル・サンダー) のクリエイティブ・ディレクターも務めている。
HP: oamc.com