Stacy Martin
Stacy Martin

新世代のミューズ Stacy Martin (ステイシー・マーティン) インタビュー

Stacy Martin

Photographer: UTSUMI
Writer: Manaha Hosoda

Portraits/

ヌーヴェルヴァーグの騎手としてフランス映画史における金字塔を打ち立てた Jean-Luc Godard (ジャン=リュック・ゴダール) の神話に一石を投じる映画『グッバイ・ゴダール!』でヒロイン、ゴダールのミューズであり妻の Anne Wiazemsky (アンヌ・ヴィアゼムスキー) を丁寧に演じあげた女優 Stacy Martin (ステイシー・マーティン) にインタビュー。東京という地に女優として再び舞い戻ってきた彼女に、本作やゴダールとアンヌのこと、そして彼女の見つめる女性像に迫ってみた。

新世代のミューズ Stacy Martin (ステイシー・マーティン) インタビュー

ヌーヴェルヴァーグの騎手としてフランス映画史における金字塔を打ち立てた Jean-Luc Godard (ジャン=リュック・ゴダール)。彼の持つ数々の逸話は、半世紀経った今もなお語り継がれ、レジェンドとして崇められている。そこへ一石を投じるような映画が生まれた。ゴダールのミューズであり、Anna Karina (アンナ・カリーナ) に次いで2番目の妻であった Anne Wiazemsky (アンヌ・ヴィアゼムスキー) による赤裸々な自伝小説を原作にした『グッバイ・ゴダール!』は、5月革命で揺れるパリを舞台に映画監督と女優、そして一組の男と女の物語をコメディタッチで描く。

監督と脚本を手がけたのは、『アーティスト』でアカデミー賞を見事獲得した Michel Hazanavicius (ミシェル・アザナヴィシウス)。ゴダールに扮したのは、アンヌとも仕事を共にした Philippe Garrel (フィリップ・ガレル) を父に持ち、 『SAINT LAURENT/サンローラン』では Yves Saint Laurent (イヴ・サン=ローラン) の愛人であるジャックを演じた Louis Garrel (ルイ・ガレル)。そして、アンヌを演じたのが、Lars von Trier (ラース・フォン・トリアー) 監督作『ニンフォマニアック』で若かりし頃のヒロイン、ジョーを演じ、一躍スターダムに躍り出た Stacy Martin (ステイシー・マーティン) だ。

ヘアスタイリストの父を持つ Stacy Martin は、類まれなる美貌とスタイルに恵まれただけでなく、知性と品格も兼ね備えるサラブレッド。ファッションモデルとしてキャリアをスタートさせ、数々の話題作にも立て続けに出演し、MIU MIU (ミュウ ミュウ) のフレグランスキャンペーンの顔にも抜擢された新世代のファッションアイコンだ。

イノセントでありながらコケティッシュな魅力を兼ね備える彼女は、本作でアンヌという少女が一人の女性にまで成長していく様子を見事演じきっている。東京という地に女優として再び舞い戻ってきた彼女に、本作やゴダールとアンヌのこと、そして彼女の見つめる女性像に迫ってみた。

—まずは映画のことからお伺いしたいと思います。実在する著名な人物を演じるのは本作が初めてだったと思いますが、いかがでしたか?

アンヌは昨年亡くなってしまいましたが、実在していた彼女を演じることは、非常に興味深い試みでした。今回の映画を作るにあったって、ミシェルとルイとで彼女をよりフィクショナルなキャラクターにすることに決めました。ルイは実際のゴダールを比較的忠実に演じた一方で、私は彼女の若々しさであったり、彼女独自の視点や思い出はそのままに、ゴダールのアイコンたちや私たちよく知っている60年代のアイコンといった女性像を象徴するキャラクターを演じました。伝記映画でもなく、フィクションでもない、その間のバランスをとったのです。

—映画の中でアンヌは非常に寡黙で賢い女性として描かれていました。例えば、ゴダールが間違っていると感じたとしても彼女はそれを口に出さず、彼の才能を信じ続けていましたね。あなたにとって彼女はどんな女性だと思いますか?

彼女の人や状況に対してオープンな部分が好きです。当時彼女は若く、非常に偉大な映画監督に恋に落ち、彼に対して敬意を抱いていました。彼女は彼を決してジャッジすることはありませんでした。彼女は聡明で勇敢であったからこそ、自問し続けるゴダールを許容できたんだと思います。映画を見ている人の方が彼女よりも早く二人の関係性が壊れ始めていることに気づくと思いますが、彼女は彼ともう一緒にいることが出来ない、彼がもはや自分の恋した男性ではないのだという決断をゆっくりと下します。現実にも第三者が先にカップルの別れのサインに気づくということがしばしありますが、リレーションシップにおいて相手が下す決断を尊重することは非常に大切なことだと思います。彼のことを失いたくなかったからこそ、彼女は沈黙を続けた。そんな姿に感銘を受けました。彼女は大人の女性になりたかったし、彼は彼自身になりたくなかった。だから、彼らは不完全で矛盾していたんですね。

—アンヌに共感する部分はありましたか?

彼女の人に対して好奇心旺盛なところが似ていると思います。そして、彼女が現在自分に置かれている状況に対して、 常に先を見越しているという部分も。彼女は裕福な家庭で生まれ、外を見ながら育ってきました。彼女を取り巻く世界に対する感覚は、私が持っているものに近いと思います。

—私はもともとゴダール映画のファンだったので、本作を見て結構ショックを受けました。この映画に出演してみて、彼へのイメージは変わりましたか?

ゴダールに恋をしていたアンヌの目線を通して彼を見たことによって、変わった部分はあります。彼の映画は21才の時、イギリスに引っ越してから初めて見たのですが、一人の人間としては彼のことを何も知りませんでした。今回の映画は、ゴダールの神話ではなく、人間としてのゴダールを見れる映画です。自身も出演している短編映画などを見るとわかるのですが、彼は非常にユーモアのある人物で、アンヌも監督もそういった部分に魅力を感じていました。尊敬に値する人物であるからこそ、むしろ一人の人間であるということを感じられるのは、人々にインスピレーションを与えると思います。それは決してネガティブな意味ではなく、人間的な部分をさらけ出すというのは、非常に勇敢なことです。彼は誰も聞かない質問をする勇気を持っていて、それは偉大なことだと思います。

—アンヌも素晴らしい女性へと映画内で成長していきますが、あなたにとってロールモデルとなる女性はいますか?

私の母です。これまで家族で世界中を旅してきましたが、彼女は常に私を勇気づけてくれました。例えば、日本にいた時に一人で学校に行ってみたらと背中を押してくれたりと、私の自立心を育ててくれたのは母でした。役者としては、Gena Rowlands (ジーナ・ローランズ) を尊敬しています。非常に勇敢な女性だと思います。最近だと、若干30歳にして初監督作品の『Treat Me Like Fire』がカンヌ国際映画祭の監督週間に出品された Marie Monje (マリー・モンジュ) と仕事をしたのですが、若くしてヴィジョンを持っている彼女と出会えて、これまでの考え方が一変しました。

—日本には7年ほどいらっしゃったそうですが、何か思い出に残っている出来事はありますか?

渋谷駅で迷子になったことです。7才の頃なのですが、最も鮮明に残っている思い出です。まだ東京に来たばかりで、私の母は迷子になるのが好きな人でしたが、反抗期だった私は母親のやることなすことが気に食わなくて、すごく怒りました。そのおかげで、今では絶対に迷子にならないほどの方向感覚を手に入れることが出来ました(笑)。日本らしい日本はきちんと知っている訳ではありませんが、東京の街は大好きです。慣れ親しんだ土地でもありますし、ヨーロッパとは全く違って、伝統的な部分と現代的な部分が共生しているという部分が、非常に面白いと思います。

—最後に、今後の目標を教えてください。

次のゴールについては、まだわかりません。サプライズが好きなので、なるべく制限をせず、計画を持たないように心がけています。可能な限り働き続けることが、私の目標です。

<プロフィール>
Stacy Martin (ステイシー・マーティン)
1991年1月1日、フランス・パリ生まれ。両親の仕事の都合により、7才から13才にかけて日本で暮らす。10代の頃から、ファッションモデルとしてキャリアをスタート。イギリスで演技を学んでいる時に、ラース・フォン・トリアー監督『ニンフォマニアック』(13)のオーディションに参加し、見事シャルロット・ゲンズブール演じるヒロイン・ジョーの若い頃に抜擢される。同作で、デンマーク映画批評家評議会の主演女優賞にもノミネートされる。その後、『シークレット・オブ・モンスター』(15)、『五日物語 3つの王国3人の女』(15)、『ハイ・ライズ』(16)など話題作に次々と出演。その他、MIU MIU 初となるフレグランスのキャンペーンに起用されるなど活躍の幅を着実に広げている。

映画情報
タイトル グッバイ・ゴダール!
原題 Le Redoutable
監督 Michel Hazanavicius (ミシェル・アザナヴィシウス)
原作 Anne Wiazemsky (アンヌ・ヴィアゼムスキー) 著「それからの彼女」
出演 Louis Garrel (ルイ・ガレル)、Stacy Martin (ステイシー・マーティン)、Berenice Bejo (ベレニス・ベジョ)
配給 GAGA (ギャガ)
制作年 2017年
制作国 フランス
上映時間 108分
HP gaga.ne.jp/goodby-g
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  7月13日(金)新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座他全国順次公開