Carlo Rivetti
Carlo Rivetti

Stone Island (ストーン アイランド) クリエイティブディレクター Carlo Rivetti (カルロ・リヴェッティ) インタビュー

Carlo Rivetti

Photographer: Yusuke Miyashita
Writer: Arisa Shirota

Portraits/

2018年9月、日本初の旗艦店を東京の南青山にオープンさせたイタリア発のスポーツブランド Stone Island (ストーン アイランド)。Supreme (シュプリーム) や NikeLab (ナイキラボ) といったブランドともコラボレーションし、話題を集めてきた Stone Island の新たな門出を祝うために来日を果たしたクリエイティブディレクター Carlo Rivetti (カルロ・リヴェッティ) に話を聞いてみた。

Stone Island (ストーン アイランド) クリエイティブディレクター Carlo Rivetti (カルロ・リヴェッティ) インタビュー

Photo by Yusuke Miyashita

Photo by Yusuke Miyashita

ひとめ見た瞬間、彼に惹きつけられる何かを感じた。温和でユーモアに溢れていて、いろいろな人たちと握手し、そして乾杯していた。その光景は、洋服そのものやビジネスだけでなく、スタッフや関係者をまるでファミリーのように大切にする彼のパーソナリティーを感じさせるものだった。

日本初の旗艦店が9月14日、東京の南青山にオープンした。表参道近くに位置するそのエリアは、数々のメゾンブランドのショップが連立し、デザイナーが変わるたびに改装が施され、次々と様子が変わっていく。そんな場所に新しく誕生した Stone Island (ストーンアイランド) のショップは、南青山というエリアの雰囲気を変えてしまうような、温和な雰囲気が感じられる空間となっていた。

オープニングを迎える前日にパーティが開催された。平日にも関わらずアーティスト、ミュージシャンにセレブリティまで約400人が祝福に駆けつけ、談笑を楽しんでいた。これほど様々な年代、職種の人たちが集まり、垣根なく楽しんでいるファッションブランドのパーティーは日本では珍しい。Stone Island が単なるスポーツブランドとは一線を画すバックグラウンドを培ってきたことを感じられる一時だった。また、表参道 WALL&WALL (ウォール&ウォール) で行われたアフターパーティには、Octavian (オクテヴィアン) や Benji B (ベンジー・ビー)、Mickey Pearce (ミッキー・ピアース) と言ったUKのグライムアーティストやDJたちを招聘し、多様な文化を受け入れる Stone Island の姿勢に共鳴した日本のオーディエンスが踊り明かした。

時代を超えて”良いもの”と言われるものは、常にオリジナティを保持しつつ、変化を受け入れる柔軟さを持つ。かつて Supreme (シュプリーム) や NikeLab (ナイキラボ) といったブランドともコラボレーションしてきた Stone Island も同様。普段はスーツを着るサラリーマンやブランドの背景に共感するファッションキッズ、さらにはアクティブな女性も、フットボールやスケートボードに没頭する若者さえもみんな受け入れる。それぞれの人生に付加価値を与える Stone Island のクリエイティブディレクターをつとめる Carlo Rivetti (カルロ・リヴェッティ) に話を聞いた。

—Stone Island は1982年にイタリアでスタートしたスポーツブランドですよね。それはつまり、歴史背景があるメゾンブランドや、大きなシーンが背景にあるストリートブランドというわけではない。それなのにどうして36年もの間、ファンの心を掴み続け、さらには若者たちをも惹きつけているんだと思いますか?

Stone Island はこの36年間、様々な文化を取り入れながら、それらと共に歩んできました。以前にはイギリスのフーリガン(熱狂的なフットボールファン)の間で人気が出て、ロンドンでは Stone Island の服を着ていると入店を許可されないバーも存在したと聞いています。最初の頃、私たちは彼らのことを心配していました。しかし、ミラノに初めてお店を開いた時、フーリガンの印象はガラッと変わりました。彼らが教会にいるかのように静かにしゃべり、ブランドをリスペクトする姿を目の当たりにしたからです。そのようなサブカルチャーと言われる文化と相互にリスペクトし合えたのは、Stone Island の価値ある歴史です。

—フーリガンを始め、現在では Drake (ドレイク) など有名なミュージシャンも Stone Island の洋服を愛用しています。このような個人的な関係性を築いているだけでなく、ここ数シーズンでは Supreme と、さらに2016年には NikeLab ともコラボレーションしていました。

私たちは何も特別なことはしていません。Drake はまだ彼が有名になる前の子供の頃から Stone Island の洋服を着ていたみたいです。今でも彼が着続けくれているのは、先ほど話したフーリガンのように、ブランドをリスペクトし、そしてクオリティの高さを理解してくれているからだと思います。

—クオリティの高さとはどのようなことを意味するのか教えていただけますか?

一つは服の染色です。私たちはイタリアに自社の染色工場を持っています。その工場は、Stone Island が設立されるより昔に設けた工場で、50年近く密なコミュニケーションをとり続けています。当時から現在まで積み重ねてきた6000万以上の染色配合のデータがあります。これは紛れもなく、私たちがこれまでに取り組んできた研究の成果なのです。

—確かにピンクはピンクでも若干フェードしたようなピンクであったり、今までに見たことのないようなビビッドなパープルだったりを機能的な生地で表現していますよね。機能性だけでなく、そのような細部のカラーリングまでにこだわる Stone Island はユニークな立ち位置にいると思います。

”ユニーク”というよりも、”マジック”だと私は思っていますよ。たった今私が韻を踏んだことに気づきましたか? まぁそれは置いといて……、それまで白かったジャケットを染色する機械の中に4時間入れるだけで、色が変わるんです。当たり前といえば、当たり前のことかもしれませんが、この過程には未だに興奮してしまいます。当然、間違えが起こることもあります。しかし、それはそれ。予想していた色と違うものになることで、今までに見たことのない色を発見できるわけですからね。この探求に終わりはないのは分かっていますよ(笑)。

—そのようにして生まれた色もアーカイブされていくと貴重な資料となり、ブランドのアイデンティティの一部となっていきますよね。

そうですね。80年代から色々と実験を重ねてきましたが、当時できなかったことも、新しい技術を使うことで実現できたケースがいくつもあります。そうして何十年越しで商品化されたプロダクトもあるんです。夢を感じてしまいます。秘密を教えてあげましょう。確かに膨大なデータはコンピューターで管理していますが、結局は人の手が重要なのです。50年近く染色部門で働いている2人の女性がいます。彼女たちは私たちにとって母のような存在です。かけがえのない存在です。昨年のクリスマスに彼女たちの功績を会社全体で讃えるイベントをしました。どんなに技術が進歩しても、コンピューターだけではできないこともあるんです。

—記号化するファッションの潮流の中で、Stone Iseland のプロダクトのほとんどがシンプルで、グラフィックや写真といったプリントなど装飾が施されていないことに気付きました。

デザインはもちろん洋服の大切な要素ですが、洋服を成す要素はそれだけではありません。むしろそれだけではいけないのです。染色作業のこだわりは先ほど話した通りですが、機能性もとても大切なエレメントです。例えば最近、外部の企業と協力し、中綿を改良したジャケットを作りました。具体的に言うと、外の気温によって中綿の繊維が動くという画期的なものです。つまり寒くなると中綿が収縮し、より暖かく感じるような仕組みになっています。その中綿を使ったジャケットは、今まで使ってきたグースダウンジャケットよりも薄手ですし、効果的に保温もできます。36年もブランドを続けていると技術もそれだけ進歩するので、常にアンテナを張っています。もう私は70近いですが、未来が楽しみで仕方ありません。

Photo by Yusuke Miyashita

Photo by Yusuke Miyashita

—現在、注目しているものを教えてください。

たくさんありますが、サブカルチャーにはいつもインスピレーションを受けています。1つの文化が支配する世界でなく、多様な文化が存在できる世界は、エキサイティングですからね。サブカルチャーのインディペンデントな姿勢にとても共感が持てる。実際、Stone Iseland のチームも小規模です。世界は目まぐるしいほど速いスピードで変化しています。ですがチームが小さいと、その変化により俊敏に対応することができます。

—『i-D』の創立者である Terry Jones (テリー・ジョンズ) や世界的なカメラマンの Nick Night (ニック・ナイト) と並ぶスタイリスト Simon Foxton (サイモン・フォックストン) をクリエイティブコンサルタントとして”ストーンアイランドファミリー”に招き入れていますよね?

Simon Foxton は、コミュニケーションや宣伝の分野で一緒に働いてくれているコンサルタントで、彼と働くのはとても面白いです。彼はロンドンで、私たちはイタリア。異なる文化を持っている人と一緒に仕事をすることで、Stone Island に今までなかったカルチャーを取り入れ、ブランドとしての視点が広がっていると感じます。

—冒頭の話に戻ってしまいますが、フーリガンなど様々な文化を取り入れつつ、発展してきた Stone Island ですが、ブランドとしての姿勢には一貫性を感じます。拠点としているイタリアはブランドにどのような影響をもたらしていますか?

イタリアは、日本と同じように食べ物も美味しいですし、本当に素晴らしい国です。それに歴史的に見ても、とても高い技術力を持っています。例えば、自動車産業。Ferrari (フェラーリ) や Maserati (マセラティ)、さらに De Tomaso (デ・トマソ) や Ducati (ドゥカティ) などのメーカーが同じイタリアの土地で育っています。デザインや技術を重んじる国柄なのでしょうね。それはもちろん私たちも同じです。

—日本の文化についてはどう思いますか?

ファッションの視点で見ると、以前と比べて日本は大きく変わったように思います。15年前東京に来たときは、Burberry (バーバリー) のチェックのコートを着た女性たちをたくさん見かけたことを覚えています。しかし今では皆色々な服をミックスしていて、オリジナリティ溢れるスタイルが溢れています。素晴らしい変化ではないでしょうか?ブランドのネームバリューで自分を守る必要がなくなったということでしょうね。自分たちの個性をファッションに反映させている。そのような変化はとても革命的で、私たちのブランドと共鳴するところがあります。

—36年間ブランドを続けていますが、以前と比べて現在のファッション業界の現在の状況をどのように捉えていますか?

30年前と比べると、成功するかどうか分からないものにお金を投資する人が少なくなりました。皆新しいものを求めてはいるのですが、保守的になっています。しかし、私は投資であり挑戦である研究をし続けています。何か新しいものを生み出すために、それは価値のあることです。ナノテクノロジーや新しいスティッチングの技術、さらには超音波など、今まで考えもしなかったことを実際に服作りに生かすことができる時代になっています。それと同時に、テクノロジーの進化に頼るだけでなく、自分たちのスタイルを変えないこともまた挑戦です。つまり、今まで信じてきたことを、これからも続けていく。こんな時代だからこそ、Stone Island を信じてくれる人に向けて、挑戦をやめない姿勢やプロダクトのクオリティなど、ブランドとして私たちは本当の価値をこれからも探求していきます。

Photo by Yusuke Miyashita

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<プロフィール>
Carlo Rivetti (カルロ・リヴェッティ)
Stone Island (ストーン アイランド) クリエイティブディレクター
アパレル産業と密接に携わる一族に生まれ、1975年よりヨーロッパ屈指の繊維メーカーGFTグループに参画。1982年に Stone Island を創立した Massimo Osti (マッシモ・オスティ) が所有していた会社の50%を1983年に買収し、1993年にGFTを退職した後、同社を完全に買収。研究、実験、機能性へのこだわりを常にブランドの代名詞として掲げ、繊維やファブリックの研究と加工を追求し続けた結果、Stone Island をカルト的な存在として世界中の若者から高い支持を得るブランドにまで成長させた。現在では、2018年9月にオープンした「Stone Island Tokyo」をはじめ、世界に22もの旗艦店を展開している。

HP: www.stoneisland.com