デザイナー・Ludovic de Saint Sernin (ルドヴィック デ サン サーナン) インタビュー
Ludovic de Saint Sernin
Writer: Yuki Nakashima
Photographer: Yusuke Miyashita
2017年のデビューから一気に注目を集め、日本では「ADELAIDE (アデライデ)」や「伊勢丹新宿本店のリ・スタイル」が早々に取り扱いをスタート。2018年 LVMH ヤング ファッション プライズのファイナリスト9組に顔を並べる若きフランス人デザイナーがいるのをご存知だろうか? 彼の名前は、Ludovic de Saint Sernin (ルドヴィック デ サン サーナン)。
デザイナー・Ludovic de Saint Sernin (ルドヴィック デ サン サーナン) インタビュー
Portraits
2017年のデビューから一気に注目を集め、日本では「ADELAIDE (アデライデ)」や「伊勢丹新宿本店のリ・スタイル」が早々に取り扱いをスタート。2018年 LVMH ヤング ファッション プライズのファイナリスト9組に顔を並べる若きフランス人デザイナーがいるのをご存知だろうか? 彼の名前は、Ludovic de Saint Sernin (ルドヴィック デ サン サーナン)。
理想的なスタートダッシュを切ったこの若きカリスマに会うべく、天気の良い3月某日表参道へ伺うと、細身で背が高く、端正な顔立ちを引き立てる肩まで伸びたブラウンヘアをなびかせたひとりの青年が店の外のガードレールに腰掛けながら談笑している。そんな彼の、またブランドにも宿る世界観は美しくセンシュアル。そしてどこか、芯が強くフラジャイル。この掴みどころのなさにあっさりと魅了され、ファッション界の大物たちが手を差しのばさずにはいられないのだ。今まさにスターダムの中腹にいるLudovic de Saint Sernin とは一体? わかっているのは、今後ますます目を離せなくなるということだ。
—まずは、生い立ちを教えてください。
ベルギーのブリュッセルで生まれで、アフリカのアイボリーコーストで7歳まで育ちました。その後はパリに渡って、そこで普通の学校に通いました。17歳からはパリのESAA Duperré (国立応用美術学校) へ行き、クリエイティブな環境の中でウィメンズウェアを4年半ほど勉強しました。卒業後はインターンシップを数社で経験して、そのひとつがバルマン (BALMAIN) でした。インターン生として1年を過ごし、そのまま就職することに。たくさん働いて学んだクレイジーな毎日でしたが、私がいたチームはみんな若くて、本当に楽しかったです。まさに、人生の転機です。
バルマンにはトータルでは3年ほどいました。退社後の数ヶ月後に自分のブランドをスタートさせ、1年も経たないうちに最初のコレクションをプレゼンテーション形式で去年の6月に発表しました。メンズファッションウィーク中ではありましたが、男性と女性のどちらもを意識してコレクションを作りました。
—デザイナーになったキッカケはありましたか?
最近思うのですが、私はずっとファッションデザイナーになりたかったんだと思います。子供の頃はよく絵を描いていて、最初に夢中になったのは「リトル・マーメイド」。今思えばすべての始まりは、ここからだったかもしれません。毎日映画を見ていましたし、アリエルのバービー人形などを持っていました。お絵かきにのめり込んでいた私に、母の友人がいつも Yves Saint-Laurent (イヴ・サンローラン) のショーが映ったVHSテープを見せてくれて、その映像に味わったことのない衝撃を受けました。そこから、ファッションデザイナーを目指すようになったんです。
—自身のブランド「Ludovic de Saint Sernin」を立ち上げたのは26歳だったとか。何かキッカケがあったんですか?
BALMAIN では、持っているすべての力を注いで働いていました。しばらく経った頃、デザインチームの一員としてブランドのために頑張っていることよりもっと何かを伝えたい、と込み上げてくる想いに気づきました。私がやるべき事をしなさい、と言われているような気がしました。その “声”が消えてしまう前にリスクを冒してでも、BALMAIN を離れる必要があると思いました。
—BALMAIN を退社後、ブランド立ち上げのためにまずしたことはなんでしたか?
少し休みました(笑)映画や美術館などに行っていましたね。自分のテイストを再発見することや、本当にしたいことに気づく時間が必要だったのです。私はずっとウィメンズウエアをやっていて、それは男性である私にとってはファンタジー。メンズウエアをデザインすることで、はじめて自分で作った服を実際に着れました。作る服はよりリアルですし、しっくりしたものが出来上がります。私のブランドは、ファンタジーの要素はありながらも、みんなにとっても心地よい洋服なんじゃないかと思っています。
他には、旅行なども楽しみました。特に、ターニングポイントになったのは日本への旅。日本へは BALMAIN のデザインチームの一員として1度来たことがありましが、2度目となったその時は香川県の直島にとてもインスパイヤされました。その帰りに、頭の中に一冊の本が現れて、最初のプレゼンテーションはすべてそこから作り上げていきました。また、インスタグラムを使ってのモデル探しやフォトシューティングをしながら、ブランドを固めていった感じです。
—ブランド「Ludovic de Saint Sernin」をご自身で言い表すと?
ミニマム、と、官能的、ですかね。常にアイテムにはセンシュアルな緊張感を持たせています。ハイエンドブランドと同等の美しいファブリックを使い、ディテールはごくごくシンプル。そうすることでミニマムだけど存在感のあるピースが完成するんです。コレクションは男性のためとか女性のためというのはありません。私は「ユニセックス」の言葉は使わないんです、定義が好きじゃないというか…。いいなって思ってくれる人全員のためのブランドです。
—2018春夏のブランド初のプレゼンテーションから、高い注目を集めていますね。その要因は何だと思いますか?
デザインはどこか新しく、かつ男性も女性も関係なく手にできます。そういう点で、ブランドがみんなの目に新鮮に映ったのかなと思います。それに、「A.I.P.R 」という素晴らしい PR エージェンシーに巡り合ったこと。彼らには相当助けられています。
—先ほども名前が挙がったロンドンの大手 PR エージェンシー「A.I.P.R 」や、初コレクションのキャンペーンを撮り下ろした有名なクリエイティブディレクターの Luis Venegas (ルイス・ベネガス) との出会い、さらに2018年 LVMH ヤング ファッション プライズではファイナリストに選出されるなど、華々しいデビューですね。その理由を自己分析すると?
なぜだろう…(照)おそらくインスタグラムのおかげかもしれませんね。イメージによっては、驚くほどすぐに広まります。私のファーストコレクションで披露したアンダーウェアがそうでした。インスタグラムをキッカケに、ブランドのアイコンピースとしてたくさんの男性に受け入れられました。特に若いデザイナーにとっては、作品を発信したりブランドイメージを構築できたりする、とても素晴らしいプラットフォームだと感じています。
—初参戦の2018S春夏コレクションの感想は?
みんなの反応を見てとても嬉しくなりました。初回というのは何事も、誰も自分のことを知らない段階なので、気に入ってもらえればいいな、という気持ちだけでしたが、2回目(2018秋冬)はそうはいかない。とても怖かったですね。最初が良ければ、次ももちろん良いものでなければだめでしょ?
—デザイナーの仕事は確かに恐怖がつきものですよね。怖いなと感じるときはどのように対処しているのですか?
「be my self!」自分自身でいるように心がけています。すると、その姿を見て周りの人たちは優しく気遣ってくれるもの。できるだけ自分に正直でいれば乗り越えていけると思っています。
もちろん、友達の存在も大切です。たとえ、自分を信じられなくなっているときでも精神的に支えてもらいました。セカンドコレクションもうまく行ったので、本当によかったと思っています。
—2018秋冬のデザインのテーマを教えてください。
今シーズンはシュルレアリスムがコンセプトです。実はあまり好きではないアートムーブメントだったのですが、“常にミニマムでシンプルなデザイン”という私の居心地のいいコンフォートゾーン (安全領域) の外に出るチャレンジになると思ったからです。例えば今季、特に影響を受けたアーティストに Salvador Dalí (サルバドール・ダリ) がいます。男性モデルの肩に (溶けたような) エッグカップホルダーと、裾を引きずるほど長いパンツをデザインしてコーディネートしました。これは、『記憶の固執 (やわらかい時計)』(溶けやわらかくなった時計が描かれたダリ屈指の代表作) がインスピレーション源です。
—ルドヴィックさん自身は普段、どのようなファッションスタイルですか? やはりウィメンズウエアも着ることも?
もちろんです! 一番新しいものだと、友人が The Row (ザ ロウ)のデニムのジーンズを X’mas にプレゼントしてくれました。とっても気に入っています。ISSEY MIYAKE (イッセイ ミヤケ) も好きなので、フィットしそうなものがあれば、という感じです。ただし、トップスはあまり着ないですかね。普段は自分のブランドの服がメインです。
—ルーティーンワークとして、日常的にどんなことをしていますか?
だいたい朝起きるのは10:30頃。朝型じゃないんです(笑) しばらくするとアトリエ兼スタジオがある自宅にチームがやって来ます。とても小さなブランドなので、ミーティングリサーチ、資料整理からパターン作りなどチームで全部をこなしています。同じ日は全くないですね。でも、それがとても楽しい。寝る時間もまちまちです。遅くまで仕事をしているときもあれば、リアリティ番組をネットで何本見るかによっても変わってきます。はまっているのは『リアル・ハウスワイブス』シリーズ。馬鹿げていて面白いんです。
—最後に、将来の展望について教えてください。
まずは、LVMHヤング ファッション プライズでグランプリを獲得することです。言葉に個人的には抵抗がありますが、候補のブランドの中で5つがある種ユニセックスなんです。今では、大小関わらずさまざまなブランドが、メンズとウェメンズをひとつのショーをおこなっています。いまの流れ的に見ても、私が目指すものは間違っていないと感じています。ユニセックスというよりも「gender fluid (ジェンダーフルーイド)」かな? 男性も女性も誰にでも関わっていけるブランドとして成長していくのが理想です。
<プロフィール>
Ludovic de Saint Sernin (ルドヴィック デ サン サーナン)
1991年ベルギー・ブリュッセル生まれ。ESAA Duperré を卒業後、オリヴィエ・ルスタン率いる「バルマン」でインターン生として働き、その後デザインチームの一員に。独立後の自身のブランドを立ち上げ、2017年に初コレクションをメンズファッションウィーク中に披露。2018年 LVMH ヤング ファッション プライズのファイナリストに選ばれる。
HP: ludovicdesaintsernin.com
Instagram: @ludovicdesaintsernin