jun takahashi
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実験と変化を繰り返す高橋盾が見つめる、COVID-19流行後の世界

Photography: Yoshie Tominaga

jun takahashi

interview & text: rio hirai

Portraits/

UNDERCOVER (アンダーカバー) の高橋盾は、これまでも周囲を震撼させる実験を繰り返してきた。自身のデザインする洋服が実験的であることは周知の事実だが、コレクションの発表の仕方や洋服以外の作品の制作、レコードレーベルの設立など、その手段や内容は幅広く、事例は枚挙に遑がない。

2018年には、アートディレクターの永戸鉄也、フォトグラファーの守本勝英、水谷太郎と共に、広告や映像などを制作するクリエイティブチーム「UNDERCOVER PRODUCTION (アンダーカバー プロダクション)」を発足。

これまでに前野健太や GEZAN (ゲザン) といったアーティストのミュージックビデオや、UNDERCOVER のみならず、VALENTINO (ヴァレンティノ) をはじめ国内外のブランドの広告ビジュアルなどを手がけ、クリエイションの幅はどんどん広がり複雑になっていくように見える。

実験と変化を繰り返す高橋盾が見つめる、COVID-19流行後の世界

ZINE『SN』

そしてこの度、ブランドとして初のZINE『SN』を発表した。第一号のテーマは、「Fictional movie-架空の映画-」。プロダクションメンバー4名のほか、Thom Yorke (トム・ヨーク) や Red Hot Chili Peppers (レッド・ホット・チリ・ペッパーズ) の Flea (フリー)、Will Sweeney (ウィル・スウィーニー)、Frank Lebon (フランク・ルボン)、国内からも大橋裕之、カンパニー松尾、マヒトゥ・ザ・ピーポー、Nanook (ナヌーク) など合わせて16名のアーティストが参加している。

計画が始動したのは2019年11月。COVID-19の流行前から計画されたプロジェクトがついにローンチされる今、改めて何を思っているのか。高橋盾に話を聞いた。

 

―「UNDERCOVER PRODUCTION」をスタートした経緯から聞かせてください。

もともと仕事で知り合っていたメンバー3人とはプライベートでも仲良く、時間を共にすることが多かったんです。ある時、「プロダクションを一緒にやりませんか」と声をかけられたのがきっかけ。映像を撮ったり、プロダクトや広告のデザインをしたり、普段別の仕事をしている僕たちが4人集まればさらに面白いことができるんじゃないかという考えで始動しました。

「UNDERCOVER PRODUCTION」が最初に手がけた前野健太のミュージックビデオ

―4人で引き受けることの影響はどれくらいありますか。

依頼のなかには、4人で集まって進めるものもあれば、そのうちの数人で、または個人で進めるものも。一度4人の視野が届くところにプールして「これはこうしたらいいんじゃないの」と意見を伝えることもあります。誰かが単独で受ける仕事に、他のメンバーが入ることでベクトルが違う方向に向いたり、お互いに干渉することを期待して始めたのがこのプロジェクトです。「UNDERCOVER PRODUCTION」の仕事は、普段の自分たちの仕事ではできないことを4人で遊びながらやる、くらいの感覚でやっていきたいと思っています。

―お互いに信頼関係があるからこその仕事の進め方ですね。高橋さんは人のどんなところを見て、「信頼できる」と判断しているのでしょうか。

まずは人柄。言葉で説明するのはすごく難しいけど、言葉にしなくても感覚的に理解し合えるという人がいて、そういう相手は信頼しています。あと僕たちは、年齢がバラバラだということもスムーズな関係性に一役買ってるかも。僕が最年長で、永戸くんが49歳、守本が46歳、水谷が45歳かな。僕らは夜も一緒に遊んできたけれど、同じ歳のなぁなぁな関係性でやってきたわけじゃないし、元々は仕事で繋がっているからね。

 

―今回、どうして『SN』を作ろうと思ったのでしょうか。また、表現方法として紙媒体を選んだ理由も気になります。

これまで広告や映像を作ってきた流れで、それぞれのよりアート色の強い側面を紙媒体で表現したいと、守本から提案があったんです。デジタルはデジタルで良い点もあるけれど、僕らはやはりアナログで育った世代。紙媒体の良さが失われつつあることを感じていたので、手にとってもらえる距離でアートや僕らのクリエイションを感じてもらうために、ZINE として自由に発表しようということになりました。今回アートディレクションをお願いした鈴木聖は、自分たちより若い世代のおもしろいデザイナーがいると紹介してもらって、知り合っていた。彼は紙に対して変態的なこだわりを持っている人なので、今回 ZINE を作ると決まった時、迷わず彼にお願いしました。彼の持つ、独特なムードや感覚を信頼していたので。

―「SN」は「spiritual noise」の略だということですが、どうしてこのタイトルにしたのでしょうか。

タイトルを決めるのは結構難航しました。3年前くらいの UNDERCOVER のメンズコレクションを「SN」というタイトルで発表したんです。それを思い出して提案したら、あとの3人も賛同してくれて決まりました。多種多様な人が集まって、様々な考えや感覚を出し合うというこの行為とワードが合ったんじゃないかなと思います。「NOISE」自体が、基本的に自分が作っているもの全てに合うワードではありますね。

 

―今回のテーマは「Fictional movie-架空の映画-」。どうしてこのテーマに決まったのでしょうか。

作品をまとめるなら、軸を決めた方が広がりがでるし、それぞれの持ち味を生かせると思いました。そこで僕がこのテーマを提案したら結構すんなりと決まりましたね。参加してくれたアーティストにはこのお題だけ渡してあとは自由に作ってもらいました。集まってきたものを見たら、「どこが映画なんだろう?」と思うものもたくさんあって、思ったよりも抽象的な表現が集まりましたが、テーマに対してそれぞれの解釈があってすごく面白い。巻頭の「Fallen Man」は、黒澤明の蜘蛛巣城を題材にしたこの間のショーをもとに作ったビジュアル。ショーの音楽は、この ZINE にも参加してくれた Ron Morelli (ロン・モレリ) が作っていて、その音源は今度 UNDERCOVER RECORDS からリリースする予定です。(以前 UNDERCOVER RECORDS からリリースした)Mars89 (マーズ89)をはじめ、テクノやインダストリアル系のアーティストにもリミックスで参加してもらいます。

 

 

―参加アーティストのメンバーも豪華、かつユニークな方々集まっていますね。

最初から表現方法にバリエーションを持たせたいという共通の意見があって、漫画は入れたいなと思っていたんです。そこで、僕がもともと大好きだった大橋裕之さんを提案しました。他のアーティストも、今回のテーマにあった人をそれぞれで出し合いました。カンパニー松尾さんも誰かから名前が出てきて、それいいね!と。みんなで人選を出し合った感じですね。「SN」は今後も継続してリリースしていきたいと思っているので、様々な人に参加してもらいたい。若い人から年長者まで、ジェネレーションも幅広くね。

―ジェネレーション関係なく幅広い交友関係をお持ちだと思いますが、今の20代とご自身が20代だった頃の感覚は共通していると思いますか。

基本的には、一緒だと思っています。もちろん一般論ではなく、自分が仲良くなる20代とは、ということになりますが。20代の友人と話をしていても、自分がその年齢の時に思っていたことと近いことを考えている人は多い。彼らと話していると、自分が歳を重ねて忘れかけていたあの時の感じを話しをしながら思い出したりもします。かと思えば、僕よりもずっと大人っぽい考えを持っている人もいる。年齢が上になってきたなということは感じる機会も増えましたが、不思議と同じ場を共有することに違和感はありません。

 

―UNDERCOVER や高橋盾さんから影響を受けた若い世代も多いと思います。

「影響されました」って直接言ってもらうこともあれば、俺のことを全く知らない人と遊ぶ機会もありますね。仮に、自分が影響を与えたものが本当にあるのならばならそれはすごく嬉しいこと。でも逆に、自分が若い人たちから得るものの方が大きいと思っていますよ。「SN」もそうだし、「UNDERCOVER PRODUCTION」でやっていることは遊びの延長なので、年取ってもこうやって集まって面白いことやれるのはいいなって、思ってもらえたらそれで良いかな。

 

―「SN」の企画を始動させたのが2019年11月ということで、COVID-19の流行は想像も付かなかった時期だと思います。ローンチまでのこの間に、自身の考えや生活はどれほど変わったのでしょうか。

大転換したと言っても過言ではないかもしれません。自粛期間中は、家にこもって仕事をしていました。これまでほとんど自宅で仕事をすることはなかったので、どうなることかと思っていたのですが、やってみたらすごく捗った。COVID-19の流行前は、朝走ってから会社に出社して、午前中は音楽を掘ったりメールのやりとりをして午後13時頃から集中して作業をする、というルーティンでしたが、家だと余計なことをしない。はやく仕事を終えて、子供と一緒に自転車で出かけたり、自宅で映画を見たりして過ごしていましたね。のんびりした、不思議な時間を過ごせたなと思っています。自粛が明けて元の生活に戻るかと聞かれるとそうじゃない。葉山の山の中にアトリエを借りることになっていて、週1、2回そこに行って作業しようと思っていたり。頻繁にDJもしていましたが、この期間中に聞く音楽も変わって、アンビエントや歌謡曲、もともと好きだったサザンオールスターズとかを聞いています。無理に音楽を掘ったりすることもなくなりましたね。自粛期間中に、これまで当たり前としてやってきたことに対して、向き合って考えるようになりました。例えばパリでショーをやってきたことも、本当に必要なのかとか……。

最新となるアンダーカバー2021年春夏メンズコレクションでは COVID-19 の影響により従来のパリファッションウィークにおけるショー形式ではなく3Dのルックブックで発表された。制作は「UNDERCOVER PRODUCTION」

―これまでもパリでのショーを休止したり、オンラインショーやユニークなスタイルのショーを行ったり、UNDERCOVER では発表の仕方を模索している印象がありましたが。

そう。これまでもうすうす、この発表の仕方が適切なのかということについては考えてきたんです。そうして、守本と作った作品「GRACE」が出来たりした。10年くらいのタームで、自分がやってきたことを改めて疑い直すみたいな機会がありますが、今回もすごく大きな気持ちの変化が起きていると思います。

 

―そもそも、“装う”ことについて考え直した人も多かったのではないかと思います。人と会う必要がないときのファッションについて、考えざるを得ない機会でしたから。

家族以外の誰にも会わないし家から出る必要がないわけですから、1日中パジャマでいても良い。僕もそれを数日やってみましたが、途中で「これじゃ、だめだ」と思って着替えるようになりました。その時々の気分で服を選ぶという行為が、ファッションに携わる立場、もっと言えば文化的なことに携わっている人にとっては必要なことなんじゃないかと思いました。これまで僕が作ってきたものは合理的なものとはかけ離れているけれど、合理的な物の良さもわかる。だけど、ファストファッションが当たり前になり、合理的なものが善とされたときに隠れてしまったスピリチュアルなものや感覚的なこと、いびつだったり尖っているものの良さに、この期間に改めて気がつきました。でも僕は、作るものも、発表の仕方も、元には戻らないと思います。COVID-19の流行によって起きたこの稀有な状況が自分にどれだけ影響を与えるのか、まだ未知なことが多いけれど影響は明らかで、決して小さくないと思いますね。これを機に、また違うタームに入っていくことに面白さを感じています。