junya ishigami
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それがあることによって周りの風景が新しく置き換わるような建築を目指して

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photography: Wataru Kakuta
interview & text: Mari Matsubara

Portraits/

まるで地底空間のようなレストラン、緻密な計算のもとに植樹された木々とその合間を縫うように配置された無数の池から構成されるボタニカルガーデン、湖上の砂洲に横たわる全長1kmの細長いミュージアムなど、石上純也の作品は従来の建築という概念を軽やかに刷新する。それは誰も見たことのないものであり、施工者にとっても前例のないクリエーションだからこそ、そのプロセスにおいてさまざまな壁に突き当たり、完成までに多くの時間を要することが少なくなかった。そのため、かつては「アンビルドの建築家」と揶揄されたこともあった。しかし近年では着々とプロジェクトが実を結んでおり、国内外からのオファーが引きも切らない。石上はどんな思想を持って建築に向き合っているのだろう?ここ数年の竣工例や現在進行中のプロジェクトを取り上げながら話を聞いた。

それがあることによって周りの風景が新しく置き換わるような建築を目指して

—地面に穴を掘ってコンクリートを流し込み、コンクリート以外の部分を掘り起こして建築空間とした《House & Restaurant》や、約55m×86mの一枚の鉄板とすり鉢状の地面との間にできる空間を広場とした《KAIT広場》など、石上さんの作品は建築の概念を軽々と超え、私たちをいつも驚かせます。個人住宅からレストラン、博物館、庭、教会など幅広いプロジェクトを手がけていらっしゃいますが、それぞれに共通する思想とはどんなことでしょうか?

建築を作ることによってその場の風景やランドスケープを新しくしていくというアプローチは、どのプロジェクトにも一貫していると思います。建築自体を風景と捉えたいと考えています。

—具体的に例を挙げて説明していただけますか?

たとえば中国・山東省で2015年から続けている《谷の教会》というプロジェクトがあります。与えられた敷地がたまたま、切り立った山壁に挟まれた谷底の地形でした。沖縄の御嶽(うたき)の例もあるように、洞窟の暗がりや、落ち窪んでいる土地に人間は聖なるものを感じます。この谷底の地形はすでにその空間的特性を持っているわけで、そこに建つ教会も谷の延長として捉えられないか、と考えました。入り口の幅は1.3m、左右に高さ45mの壁がそそり立つ細い通路を進んだ奥に礼拝堂があるという建物にしました。既存の谷よりもさらに高く、狭い空間を作ることで、より谷の特徴を強調し、教会の神秘性を高めたいと考えました。

—左右から高い壁が迫る狭く暗い通路は、頭上から降り注ぐ光が印象的になりそうですね。

谷の地形的な特性をモチーフとして建築を作っているのですが、結果的には既存の風景にはない、新しい風景に置き換わっている。そういう効果を、建築を介して実現させたいと思っています。

—同じく中国・山東省では《水の美術館》が竣工しました。こちらは湖の上の長さ1kmの砂州の上に建てられた細長い建築で、通路の両側から湖水が打ち寄せるそうですね。

中国で建築を作る場合、国から土地を借りることになります。その際、借りた土地をフルに有効活用する設計が求められます。今回のプロジェクトの場合は、建物が立つ敷地ギリギリの土地を国から借りることができました。通常、たとえば日本国内であれば、敷地内に余白を作りながら建造物と周辺環境と繋げることができるけれど、中国では敷地のギリギリまで建物が建つわけで、周辺環境との明確な断絶が起きてしまうのです。じゃあどうすればいいかと考えて、逆に周辺環境を建築内に取り込んでしまおうという発想になり、ガラス壁の下端から室内に流れ込む湖水が砂州に打ち寄せる形の建築になりました。

中国・山東省に完成した《水の美術館》©︎Arch-Exist

—公表されている進行中のプロジェクトのうち、《徳島文化芸術ホール》についてお聞きします。2021年9月に石上純也建築設計事務所と熊谷組などによるジョイントベンチャーが優先交渉権者に選定され、約3年の歳月をかけて実施設計まで終わり、見積もりとともに工務店も決まっている状況です。いよいよ着工という矢先、2023年5月に県知事が変わり、予算縮小の公約から建設地が変更となり、石上事務所との契約(=基本協定)が継続している中、あらためて事業者の公募が行われるなど計画は混迷しているようです。現況をお聞かせください。

僕は誰の批判もしたくはありませんが、熊谷組と組んだ我々の設計案が選択されたことで県と協定を結んでおり、その協定は現時点まで生きているという事実は述べておきたいと思います。県は私たちとの契約を破棄せぬまま、ほぼ同じプロジェクトを新しい土地で開始しようとしており、もしそうなれば契約が2つ存在するという異常事態になります。県は新しい建設用地について設計事務所と工務店が組んで参加するという方式の事業者公募をこれまで2回行いましたが、いずれも応募者なしで不成立に終わりました。3回目の公募は設計と施工を切り離したようです。

—まずは設計案だけを募集するようにして応募しやすい環境を作ったそうですね。仮に設計が決まっても、これほどまでにこじれた案件に進んで手を挙げる施工業者は決まらない可能性もありますよね。一方で、建設地が変更・縮小したのであれば、新たに公募するのではなく、まずは実施設計を終えている石上さんに設計変更を依頼するのが筋ではないでしょうか?

普通はそう考えます。そういう依頼が来れば、もちろん我々は対応します。予算半減は無理だとしても、減額するためにできることは多々あります。

—知事が変わるたびに計画が変わるとなったら、建築家は誰も公共建築などやりたがらないでしょうね。

そうかもしれませんね。新知事就任後も計画変更のためのゴタゴタのうちに建設費や木材などが高騰し、予算半減・工期縮小という現知事の当初の公約はそもそも破られています。

—《House & Restaurant》は約10年、《KAIT広場》は約13年と、石上さんの作品はどれも構想から竣工までかなり長い年月がかかっています。その間、さまざまな壁にぶつかっても諦めないでプロジェクトを遂行する秘訣はなんですか?

建築は大きなプロジェクトになるほど、完成までに何年もかかりますし、街の再開発なら数十年単位のスパンで進行します。そう考えると自分の人生の中でそれほど多くの作品を作れるわけではないので、一度着手したら、可能性がゼロにならない限りは考え続けたいと思います。僕ひとりが諦める・諦めないという話ではなく、自分のコントロールとは別のところで進んでいることもある。だからプロジェクトの流れが途絶えないうちは、その流れを推し進めるべく粛々と仕事をするのみです。