Ayumi Hamamoto × KIDILL
Ayumi Hamamoto × KIDILL

濱本愛弓の試着歩き #4 KIDILL

Ayumi Hamamoto × KIDILL

photography: kyohei hattori
interview & styling: ayumi hamamoto
edit & text: miwa goroku

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スタイリストの濱本愛弓が気になるブランドを訪ね、最新アイテムをチェック&試着してまわる本連載。第4回は、パリメンズ公式参加2シーズン目となるデジタル発表を終えたばかりの KIDILL(キディル) のショールームへ。若い層を中心に支持を集めるパンクなブランドで、しかもメンズ向きに仕立てられた服を彼女はどう着こなすのか。デザイナー末安弘明とのファッション愛に満ちた会話とともにお届け。

濱本愛弓の試着歩き #4 KIDILL

濱本愛弓(以下、A): KIDILLは女性も着ているのを見かけますが、表向きメンズブランドですよね。

末安弘明(以下、H): そうです。ウィメンズをやろうとはまったく思ってなくて、それでも着たいといってくれる女性のお客様がいたらどうぞというスタンスです。今日もこうして愛弓さんが私服と合わせてスタイリングしてくれたのは嬉しい。いつもの愛弓さんのスタイルとはちょっと違うじゃないですか、こういう感じになるんだという発見もあり。ありがとうございます。

A: 今日は私なりのパンクでした。

H: ほんとそうだなって思いました。パンクを追求していくと、Malcolm McLaren(マルコム・マクラーレン)と Vivienne Westwood(ヴィヴィアン・ウエストウッド)の Seditionaries(セディショナリーズ)があって。初期ロンドンパンクや、その後のニューウェーブなど、それにリンクするように SM ボンデージやフェティシュのカルチャーがあって…… と、枝わかれしていくじゃないですか。そこからもっとパンクという言葉そのものを突き詰めていったら、精神性に行き着くと思うんです。「パンクといえばこれだろ」 みたいなことではない。だから愛弓さんが、自分の哲学でスタイルの軸を通していること自体がすごくパンクだと思う。そこの本質で KIDILL を着てくれるっていうのは、何度もいいますけどすごく嬉しいです。

パリメンズ公式初参加となった2021-22年秋冬コレクションのキーピースのひとつ。LA拠点のヴィジュアルアーティスト Jesse Draxler(ジェシー・ドラクストラー)のグラフィックをあしらったコート ¥182,600、その他スタイリスト私物

A: いわゆるパンクに私は詳しくないんですが、KIDILL がパンクからインスピレーションを受けてるのはわかります。さらにフェティッシュやカワイイ感覚が掛け合わされていますよね。

H: そうですね。KIDILL の根底にあるのはやっぱりパンクなんだけど、先輩デザイナーたちと同じものをつくっても仕方なくて、じゃあ自分のパンクって何なんだ、っていう。KIDILL がやっているのもつまりそこなんです。

A: KIDILL のショーは毎回私の知らない世界を見せてくれるから楽しみです。今シーズン(2022年春夏)は緊縛?! があり、絶叫?! は止まずでドキドキしっぱなしでした。

H: 最近とにかく濃いものにしたい思いが強くて、そこを突き詰めていくと、自分が10代の頃に好きだったものにたどり着くんです。今回参加いただいたのは、非常階段のJUNKOさん。ちなみに前シーズンは灰野敬二さんに出てもらいました。ふたりとも70年代後半から80年代の日本を代表するノイズミュージシャンで、僕ですら2世代くらい離れたレジェンドなんですけど、今も現役で活躍している。ずっと好きな存在です。

A: テーマはなんだったんですか?

H: 「INNOCENSE(純粋性)」 です。現世界とは違う 「天国」 という国に住人たちが暮らしている設定でムービーをつくりました。Trevor Brown(トレヴァー・ブラウン)のグラフィック、ロープアーティスト Hajime Kinokoさんの緊縛、そして JUNKO さんの叫び……「天国」 が持つイメージからは程遠い、むしろ地獄を連想する要素を入れました。今回、会場として借りた草月会館の石庭のスペース自体が 「天国」 という名前なんです。あの場所ありきのアイデアでもあり、自分が好きなものを詰めました。

KIDILL SPRING / SUMMER 2022 COLLECTION ‘INNOCENCE‘

A: 濃いですね。

H: そう感じてもらえたら本望です。服自体もストーリーが詰まっているものにしたいと思ってやっているので。ストーリーといってもシルエットの追求とか生地づくりの話ではなくて、自分の場合は好きだったカルチャーを服に凝縮させて爆発させるっていうのが得意だから、そこをとにかく濃くしたいと思っています。

A: そのリアルさが、ヒロさんの親しみやすさにつながってる気がします。

H: 親しみやすいですか?

A: 親しみやすいですよ。こんなにハードなお洋服なのに、つくっている本人はゆるキャラっぽい(笑)

H: (笑)。スキンヘッドで全身タトゥーみたいなイカツイ人が出てくるのかと思ったら真逆だった、みたいなことはよくいわれます(笑)。ハードな服っていうところでいうと、吹っ切れたのは意外とこの数年なんです。東コレ時代(2014-15年秋冬〜)はちょっと迷走してしまっていて、テーラードに向いたり、生地やディテールのこだわりを模索したり。そしたらどんどん地味になっていって。

A: 年を重ねて落ち着くというか、変わることはありますよね。

H: 地味になるのに比例して、売り上げも落ちたんですよ。そこから服づくりの向き合い方を改善して、やっぱり自分がカッコいいと思うのをとにかく全開でやろうと吹っ切れたら、売り上げがブワッと戻ってきた。KIDILL は、自分が着たい服をつくるという考えでなくて、自分の美学や生き方に沿った好きなカルチャーを服に詰め込んでやってるんで、今は迷いなくすごいクリアです。

A: そこに行き着くまで何年ぐらいかかりました?

H: 変わったのはパリで発表(2019年秋冬〜)しはじめた頃、COMME des GARÇONS(コム デ ギャルソン)の川久保玲さんから 「あなたはこのままのパンクを続けなさい」 とアドバイスをいただいたことが大きいです。その一言で本当に気持ちが楽になって、俺はこれでいいんだと気づいた。そこから一気に視界がクリーンになって、つくる服にパワーが宿ってきたと思います。

鋲と剃刀はKIDILLが好むモチーフ。ジャケット ¥209,000、ラップスカート ¥34,100/ともに KIDILL、その他スタイリスト私物

僕から愛弓さんに個人的な質問なんですけど、愛弓さんは仕事柄いろんな服を見て、いろんなデザイナーさんに会うじゃないですか。いいなって思うとき、何を見てるんですか。

A: まず、そのデザイナーさんが楽しそうにしゃべってるかどうか、かな。ものづくりすることに関して、すごく楽しそうにしゃべる人はいいものをつくっている気がします。ちなみにヒロさんはいつも楽しそうに話すからすごく良いと思います。

H: なるほどね。わかるかもしれない。さっき東コレ時代に落ち込んだ時期があるっていったじゃないですか、確かに当時は全然楽しくしゃべれてなかったですね。展示会でバイヤーさんに説明するときも、削ぎ落とした服が並んでいるだけだから、つくった本人も話すことがない……

(上) Jesse Draxler のアートワークをのせたベレー帽は CA4LA(カシラ)とのコラボ。(下)HYUSTO(ヒュースト)とコラボしたローファー。2021-22AWはこのほか Malcolm Guerre(マルコムゲール)とのアクセサリーコラボも展開。Dickies(ディッキーズ)、EDWIN(エドウィン)、rurumu:(ルルムウ)とのタッグも継続中。

A: ちなみにヒロさん、ずっと1人で KIDILL をやってるんですよね。デザインはもちろん、サンプルまわりも生産管理も。パリコレに出るくらい大きくなったのに、それでもひとりでやり続ける理由はあるんですか。

H: そこに関しては、ちょうど壁にぶつかってるところです。全部自分でやらないと気が済まないとかのこだわりはなくて、即戦力の方がいたらぜひ来てほしいです。先日、ずっとコレクション見てくれている記者の方に 「ひとりでできる限界は3億円」といわれて、なるほどなと思いました。3年〜5年後くらいの売り上げ目標も見据えて動いてますが、その目標に到達するには絶対一人では無理というのを実感しています。セールスやプレスも信頼できる仲間を築いていく必要があるし、インディペンデントでパリでどこまで戦えるかチャレンジしたいなと思っています。

A: ブランドは、数字のことも考えないと生き残れない。

H: そう。僕は趣味で終わらせたくないから、数字も目標を立てて、到達するために何をするべきか。今ちょうど向き合っています。

A: 今後もパリで発表し続けますか。

H: そうですね。やり続けます。これまでいろいろと浮き沈みありましたが、今が一番貪欲になっています。パリコレのオンスケジュールは審査が厳しくて、面談や資料提出を繰り返してようやく入れたので、このチャンスは絶対に落とさず、これからも積み重ねていきたいです。

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