映画と生きる。池松壮亮の体温 vol.2
池松壮亮は、映画でもドラマでもファッションでも、その場で起こることを受け入れ、そこに居るということに嘘がないと感じさせる俳優だ。今年、事務所から独立した彼の最新主演作、奥山大史監督最新作『ぼくのお日さま』(9月13日公開)は、第77回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され、大きな反響を得た。北村道子がスタイリングを手がけ、写真家の鈴木親が撮り下ろす、池松壮亮の現在地とは。
これまでも時折々でコラボレーションを重ねてきた池松、北村、鈴木の三人。全4回にわたるファッションストーリーでは、その出会いを振り返りながら、映画という総合芸術について語る鼎談(第1-2回)、そして、『ぼくのお日さま』への想いを聞いた池松のソロインタビュー(第3-4回)をお届け。(第2回/全4回)
SOSUKE IKEMATSU
model: SOSUKE IKEMATSU
photography: chikashi suzuki
styling: MICHIKO KITAMURA
hair: tsubasa
makeup: masayo tsuda
interview & text: Tomoko Ogawa
edit: daisuke yokota & honami wachi
—ここ数年、若者の映画館離れという話を耳にしますが、その状況について御三方はどういうふうに見ていますか?
池松壮亮(以下、池松):もう何年も言われ続けていますよね。コロナがあって、ミニシアターの危機もありましたし、他国に比べて、特にこの国は若者が映画に興味を持っていないと思います。
鈴木親(以下、鈴木):美大で教えているけれど、ほとんどの生徒さんが『ブレードランナー』(82)を知らなくて。『ブレードランナー』はいろんなアイデアの源になっている作品だし、アニメ好きだったら『攻殻機動隊』シリーズ、ファッション好きだったら Alexander McQueen(アレキサンダー・マックイーン)や Martin Margiela(マルタン・マルジェラ)も通った道なわけだから、映画はいろんな勉強ができるものなんだよ、とよく話すんです。
北村道子(以下、北村):親くんが映画好きだからであって、学生は興味ないんじゃないの。私は幼い頃は全然映画を観ていなくて、放浪に出て、フランスに来て以降に知るんだよね。私にとってフランスは、カルチェラタンから人々から、パリ大学も含めて映画そのものなんです。黒澤明映画もそこで観て、この人たちが住んでいる日本に帰ろうと思ったんだから。
鈴木:フランスは映画が文化として根付いてますからね。
—池松さんは、『ぼくのお日さま』の公式上映で、去る5月カンヌ映画祭に参加されていましたね。
池松:はい。初めてのカンヌでした。映画があれだけ文化的にもビジネス的にも力を持つ場所で、映画をより好きになるのか、それとも嫌な面を見て帰ってくるのか、どっちなんだろうと思っていたんですね。
鈴木:正直、お金が集まるところでもありますもんね。
池松:そうなんです。結果、さらに映画が好きになって帰ってきました。世界中から映画を愛する人たちが集まって、そうじゃない人もたくさんいましたが、ものすごいエネルギーがありました。映画そのものが祝福されるような場所でたくさんの刺激をもらいました。
北村:映画祭だからといことじゃなく、現地に行って見て歩くのが面白いんですよね。それと、何か問題が起きている情勢も面白いから、若いときは最低な社会状況の国に行くべきだし、そういうところにはいい映画もたくさんあるのよ。
鈴木:確かに。一番経済がダメなときに、若い子が出てくるチャンスがあるなとも思いますよね。僕は90年代の終わりにフランスにいたけれど、今の日本みたいに経済が低迷していたんです。その頃に観た、Mathieu Kassovitz(マチュー・カソヴィッツ)の『憎しみ』(95)に主演していたVincent Cassel(ヴァンサン・カッセル)は、今も活躍しているじゃないですか。逆に言えば、日本も今そういうチャンスがあるということだし、経済がダウンしているヨーロッパに行くのもチャンスだと思います。
北村:いろんな意味で、確実に映画の質が変わってきていますよね。
池松:そうですね。若い人が映画から離れているのは、若い人が熱狂できるような映画がないというわけですし、内側にいる立場からすると、自分たちの責任を感じています。また映画界だけの問題ではなく、社会的に文化そのものの力が弱いこと、この国において文化の価値もアートの価値も、映画の価値も低いことなど様々な複合的な理由があります。ですが人はいつだって映画をもてめてはいると僕自身は思っています。
—カンヌで映画もご覧になったんですか?
池松:Francis Ford Coppola(フランシス・フォード・コッポラ)の新作『Megalopolis』や、Yorgos Lanthimos(ヨルゴス・ランティモス)の『憐れみの3章』(2024年9月27日公開)を観ました。
北村:コッポラは、『ゴッドファーザー』(72)以上の作品はないですよね。どれだけの俳優があそこから著名になっていったか。あそこで全部のエネルギーを使ってるんですよ。
鈴木:僕もあれが一番だと思う。Tom Cruise(トム・クルーズ)が出ていたコッポラの『アウトサイダー』(83)も若い子がいっぱい出てましたよね。役者を育てるというのも監督の役割というか。
池松:生コッポラ見てきましたが会場での祝福がすごかったです。僕も手が痛くなるまで拍手してきました。
北村:どれだけ『ゴッドファザー』を観たことか。イタリアからの移民で、カリフォルニアにワイナリーの土地を買った人ですよ。今回の映画のために、その大半を売却して、制作費にしたという。映画ファンはみんな知ってますよ。それこそ、映画という文化と政治力の世界じゃない。
鈴木:お父さんの借金がすごいと、ソフィアに昔聞きました(笑)。
北村:それで、映画ファンという生き物は、そんなにお金ないのかと映画館に観に行くの。それで映画が黒字になっていくんです。何より、素晴らしい監督の映画というのは、写真もファッションも音楽も、大体全部が入ってるんですよ。
池松:僕も18で上京して、その頃から映画館ばかり通って様々な国の映画を見漁っていました。映画を観ることによって文化、歴史、世界、美術も音楽も、建築も、人間も、すべてを映画から学んできたように思います。
鈴木:Harmony Korine(ハーモニー・コリン)が言っていて、忘れられない話があって。彼は意地悪な表現もすごく巧みな人だから、「写真は終わりゆくメディアの可能性があるけれど、映画は全てを兼ねてる総合芸術だから、美術をやろうが何をやろうが、映画が頂点だ」と言ってたんです。確かに、音楽、政治、人種、何もかも入ってるから、安い言い方だけど、映画から何でも学べるということに、すごく納得して。
北村:私が美大を中退して旅に出たのも、映画を観てりゃいいと思ったからですよ。それに、飛行機代払ってちょっと行くくらいだったら、1年くらい住んじゃったほうが良くない?と思って放浪に出たわけ。だって、お金がもったいないじゃないですか。
池松:僕もいまだに海外に行くのがとても好きですね。まだまだ知りたいことがたくさんあります。
鈴木:いいと思う。行くとちょっとマインドは変わるはずだから。