映画と生きる。池松壮亮の体温 vol.4
池松壮亮は、映画でもドラマでもファッションでも、その場で起こることを受け入れ、そこに居るということに嘘がないと感じさせる俳優だ。今年、事務所から独立した彼の最新主演作、奥山大史監督最新作『ぼくのお日さま』(9月13日公開)は、第77回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され、大きな反響を得た。北村道子がスタイリングを手がけ、写真家の鈴木親が撮り下ろす、池松壮亮の現在地とは。
これまでも時折々でコラボレーションを重ねてきた池松、北村、鈴木の三人。全4回にわたるファッションストーリーでは、その出会いを振り返りながら、映画という総合芸術について語る鼎談(第1-2回)、そして、『ぼくのお日さま』への想いを聞いた池松のソロインタビュー(第3-4回)をお届け。(全4回/最終回)
SOSUKE IKEMATSU
model: sosuke ikematsu
photography: chikashi suzuki
styling: michiko kitamura
hair: tsubasa
makeup: masayo tsuda
interview & text: tomoko ogawa
edit: daisuke yokota & honami wachi
—奥山さんは、HERMÈSのドキュメンタリー『HUMAN ODYSSEY』でご一緒した池松さんに対し、子どもの目線を持つ人だと感じたそうですね。
自分ではわりませんが、確かに子どもに対する抵抗感とかはなく、共演することも好きですし、僕は4人きょうだいの2番目で、下に2人いて、姪っ子、甥っ子も5人います。あとは昔、実家が保育園をやっていたんです。家のすぐ近くにあって、家に帰ると、保育園のお迎えの時間に親御さんが間に合わなかった子どもたちが走り回ったりしていました。周りに子どもが多い環境があったからなのかもしれません。奥山さんも4人きょうだいなんです。
—確かに、奥山さんも共通して子どもの目線を持っている監督という印象があります。奥山さんの演出はいかがでした?
素晴らしかったです。演出を見ていると、その人が何を見ているのか、何を聞いてるのかよくわかるものなのですが、その感覚が抜群に良く、目と耳が素晴らしく良いなと思います。テイク数は比較的多いですが、どんな局面でも冷静に非常に細かく見ていて、チューニングが的確で、丁寧に丁寧により良いものを辛抱強く手繰り寄せていきます。テイクを重ねることで鮮度が落ちたりパフォーマンスが落ちるものだとされがちですが、奥山さんの場合、むしろ上がっていきます。視点が高く、我慢強く、人に対しても、物作りに対しても非常に丁寧な方です。子どもたちも時に遊びながら、時に必死についていきながら、ひとつひとつ素晴らしい瞬間を奥山さんと共に生み出していきました。
—共演者の若葉竜也さん、山田真歩さんも、子役の潤浩さんも、一瞬しか出ないような方々も含め素晴らしい役者さんが勢揃いされていましたね。
みなさん、本当に素晴らしかったです。もう少し見たいなと思う役ばかりでした。奥山さんは自分の映画に合う人をとても客観的に知っていて、その肌感覚も素晴らしいなと思いました。出演者みんなが今作において素晴らしい演技をされていると思います。
—カンヌ映画祭に初参加されたとのことですが、現地のエネルギーはどのようなものでした?
これまでベルリン、ヴェネチアと三大映画祭を経験してきましたが、カンヌはまた違った独特な空気とエネルギーがありました。また、観てもらった後の人の高揚感があれほど伝わってくる体験は初めてでした。今年のカンヌは、日本映画勢がたくさん参加されていて、是枝裕和さんが審査員として、西川美和さん、三池崇史さんが登壇された、映画会社 K2 Pictures がこれから立ち上げる映画ファンドのための発表会もありましたし、山中瑶子さんや山下敦弘さんの作品も参加されていたり、その他、深田晃司さんや柳井康治さんにもお会いしました。今年は、過去一番日本人が多かったという声も現地で聞きました。公式ポスターも黒澤明監督の『八月の狂詩曲』がモチーフでしたしね。日本映画のこれからのグローバルな躍進を予感するような年だったのではないかと思います。映画祭公式のランチパーティーで、ある視点部門の審査員長をしていた Xavier Dolan (グザヴィエ・ドラン) が、「映画素晴らしかったよ、君の作品はこれまで色々と観ていて〜」と声をかけてくれました。Greta Gerwig(グレタ・ガーウィグ)がコンペの審査員長をしていたり、これまで遠くに感じていた人たちがすぐ目の前にいて、カンヌ凄いなあと圧倒されているうちに終わりました。
—最後に、今日の撮影でお話されていた、北村道子さんから言われた、よく思い出す言葉が何だったのかを聞いてもいいですか?
何個もあるのでひとつだけお話しすると、25か26歳くらいの頃だったと思います。当時の僕は、インタビューや舞台挨拶など、俳優が演じる以外に自分自身の言葉を表だって話すことを好んでいなかったんですね。あまりに数が多くて正直嫌気がさしていたということもありました。演じること以外で伝えるということに、なかなか前向きになれなくて。そういう話を北村さんにしたら、「そのままでいいじゃない。何のために映画やってんの!」と言ってくれました。泣きそうになるくらい嬉しかったのを覚えています。でも、そういう時代じゃないということももちろん自分でわかっていて。そうしたら、「ただね、あなたはこれから世界中の人が聞いてると思って喋りなさい」と言われて。あの時なぜ僕にそんな言葉をかけてくれたのか、いまだにわかりませんが、そこから人が変わったように喋るようになったんです。自分が関わって人に観てもらう作品のことくらい、自分がちゃんと話せなくてどうするんだという気持ちにもなりました。とてもとても大きなきっかけをもらった出来事です。