SOSUKE IKEMATSU
The Fashion Post
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映画と生きる。池松壮亮の体温 vol.3

池松壮亮は、映画でもドラマでもファッションでも、その場で起こることを受け入れ、そこに居るということに嘘がないと感じさせる俳優だ。今年、事務所から独立した彼の最新主演作、奥山大史監督最新作『ぼくのお日さま』(9月13日公開)は、第77回カンヌ国際映画祭のある視点部門で上映され、大きな反響を得た。北村道子がスタイリングを手がけ、写真家の鈴木親が撮り下ろす、池松壮亮の現在地とは。

これまでも時折々でコラボレーションを重ねてきた池松、北村、鈴木の三人。全4回にわたるファッションストーリーでは、その出会いを振り返りながら、映画という総合芸術について語る鼎談(第1-2回)、そして、『ぼくのお日さま』への想いを聞いた池松のソロインタビュー(第3-4回)をお届け。(第3回/全4回)

SOSUKE IKEMATSU

model: sosuke ikematsu
photography: chikashi suzuki
styling: michiko kitamura
hair: tsubasa
makeup: masayo tsuda
interview & text: tomoko ogawa
edit: daisuke yokota & honami wachi

ジャケット ¥311,300、シャツ ¥111,100、パンツ ¥180,400、シューズ ¥139,700/すべて LOEWE (ロエベ)

奥山大史監督の前作『僕はイエスさまが嫌い』をご覧になったことから、『ぼくのお日さま』への出演につながっていったそうですね。

『僕はイエスさまが嫌い』を観て、素晴らしいなと思っていました。その後も、AIの美空ひばりさんの「あれから」のMVや、その他、奥山さんの広告の仕事や配信ドラマなどを拝見し、その度に感銘を受けていました。その後、奥山さんが監督された HERMÈS の『HUMAN ODYSSEY』でオファーをいただいて、そこで初めて仕事を共にしました。そこから対話を重ねるうちに、今作のプロットを読ませていただくことになりました。

—HERMÈSのドキュメンタリー『HUMAN ODYSSEY』で関係性を築いていたことも、作品づくりに大きく影響したのでは?

そうですね。そのときドキュメンタリーということもあって、ほとんど即興のようにアイコンタクトをとりながら、より良いものを目指して作り上げていくことができました。そこで得た感触を映画作りにも活かせるはずだという確信がありました。その上で今回様々なことを話し合い、提案し合い、物語空間を作り上げ、奥山さんがそれを素晴らしく映しとってくれて、まるで奇跡のような時間がたくさん映ったピュアで胸に響く、映画に仕上げてくれました。とても誇りに思っています。

『僕はイエス様が嫌い』のDVD化の際も、多くの人に届けるためにバリアフリー字幕付きのDVDを制作されていたり、吃音のある人の気持ちが歌われたハンバート ハンバートの同名曲から生まれた本作『ぼくのお日さま』の中でも、奥山さんはマイノリティと呼ばれる人たちを記号化せずに、自然な個性として見つめるまなざしがあるように感じます。

これまでいろんな価値観を持った方たちと映画作りをしてきましたが、奥山さんとの映画作りにおいて、何の違和感無くそうした視点や描き方に共感することができました。おっしゃるように、奥山さんは吃音というものを自分の映画に利用するというような態度が一切ありませんでした。ごく自然に物語世界に存在させ、周囲の優しさでカバーしていくことを選んでいました。まるで映画で私たちの現実世界をカバーしていくような感性に、とても共感できました。

これまでの日本の映画業界に、足りなかった視点だという思いもありました?

そういった面での足りないこと、海外と比べて日本は遅れているなと感じることはよくありますし、僕よりも若いグローバルネイティブ世代の子たちが観たら、もっとそう感じるだろうなと思うことはあります。倫理観や教養の面で作り手側がアップデートしていかなければいけないなというのはこれまでも感じてきました。

先ほど話題に挙がった、『HUMANODYSSEY』でも、知的障がい者支援施設しょうぶ学園を訪ねていらっしゃいましたよね。

はじめは、見知らぬ俳優やスタッフがぞろぞろお邪魔して、そこでカメラを回すということに抵抗があり、あまりいい考えとは思えないというのが正直な気持ちでした。ですが行ってみて、しょうぶ学園の素晴らしさに心から感動し、施設の方々も僕たちと触れあうことを喜んでくれて、忘れられない経験になりました。そこで奥山さんの人柄に触れ、人や対象に向けるまなざし、そこに傾ける耳に大きな信頼を持つことができました。あの作品を経て今作に向かえたことはとても大きかったと思います。