agnès b.
with shuta hasunuma

アニエスべーと5人の表現者たち vol.5 蓮沼執太

agnès b.
with shuta hasunuma

model: shuta hasunuma
photography: naoya matsumoto
interview: tomoko ogawa
edit: yuki namba

流行ではなく、スタイルを生み出す服がある。映画、音楽、アートをこよなく愛する一人の女性、Agnès Troublé (アニエス・トゥルブレ) によって1975年に誕生したブランド agnès b. (アニエスベー)。50年近くにわたり彼女が生み出してきた服には、人々のスタイルに馴染み、着る人の個性を引き立出す力が宿っている。

どんなに時代が移り変わろうとも、自分らしく、独創的であること。今回、agnès b. が大切にしてきたスピリットに共鳴する、独自のスタイルを持つ5人の表現者がagnès b.に袖を通し、それぞれの表現活動やオリジナリティについて語る。

第5回に登場するのは、音楽家の蓮沼執太。映像作品や舞台などの楽曲制作を手がける他、さまざまなクリエイターとコラボレーションをし、個展やインスタレーションなどアート作品の制作も積極的に行う、活動の幅に制限を持たない彼。新しいものをクリエーションする上で大切なこと、蓮沼が考える独自性について話を伺った。

agnès b.
with shuta hasunuma

アニエスべーと5人の表現者たち vol.5 蓮沼執太

蓮沼が袖を通したのは、agnès b. で毎シーズン登場しているワークウェアシリーズから、フランスの老舗ワークウェアメーカー Dolmen (ドルメン) とのコラボレーションのセットアップ。コットンのモールスキン生地で仕立てられており、張りのある質感とシルクのような光沢感が、フレンチワークウェアの上品な佇まいを生み出す。足元に合わせたのは、こちらもフランスの老舗、Paraboot (パラブーツ) とのコラボレーションアイテムだ。

−ソロ・プロジェクト、蓮沼執太フィル、映画・ドラマ・CM・舞台など、あらゆるフィールド、ジャンルで多岐にわたる音楽活動をされていて、蓮沼執太さんという像が掴めないというところが魅力だとは思いますが、意識的に選択されているのでしょうか?

基本的に、素直に活動していると、そういうふうになっているんですよね。僕がメインにやっているのは、音楽や音にまつわることで、いろんなフィールドの中に分断されることなく「音」が存在しています。ただ、その中で自分発信の作品を作っているというよりは、たまたまオファーがあって、監督だったりプロデューサーだったりとお会いして、何にフォーカスを当てている作品なのか、そこで僕の音楽で何ができるのか、お互いが持ってる問題意識やチャレンジしたいことを話し合いながら作っていくことの重なりの結果なので、意識的に毎回違うものを選んでいるわけではないですね。とはいえ、いただいたオファーを引き受けてやっているといっても、コラボレーションしたいと言ってもらえるのはやっぱり嬉しいですし、自分で選んで決めたという感覚はあります。僕にとっても、作品制作への新しい手法や文法みたいなものがそこで作られていくことが多いので、そういう偶然の賜物である機会やチャンスを、例えば、忙しいとか金額が見合わないといった理由で自分で潰してしまうのはもったいないというか。自分に余裕がないときは苦しいかもしれないですけど、何でもトライしてやってみる方が総合的に面白いことが生まれるとは思っています。

−フィールドを広げていると、いろんな締切を抱えて同時並行していることになりそうですが、それもまた刺激になるものですか?

そこまでワーカホリックではないですが、デッドラインがはっきり決まっているものもあれば、川のように終わりなくずっと続いていくものもあって。いわゆるミュージシャン的な立ち位置でパフォーマンスをするとき、作品を作るとき、全ジャンルで制作のプロセスは違うんです。ライブだったら、前日にいいものを食べてよく寝て、当日に演奏したら終わるので、そのときの自分の身体と精神のバランスと見に来てくれる人たちとの関係性や空間で完結する。一方で、今作っている映画の音楽は、半年くらいやりとりをしながらずっと作業しているイメージです。ソロのプロジェクトとして昨年リリースしたアルバム『unpeople』は、それまでにシングルを出したり、アートワークをデザイナーと写真家と時間をかけて固めていったりしているので、3年くらい続いています。アルバムがリリースしたら終わりではなく、『unpeople』はプロジェクトとして動いていて、8月末には弘前れんが倉庫美術館でパフォーマンスをしましたし、10月12日からは VAGUE KOBE で展示という形式で作品発表があります。そうやってかたちを変えていけることが面白いと思っていて、そういうプロジェクトも同時にやっています。きっとひとつだったら楽なんでしょうけど、自分は選択肢や変化が多いことを割と楽しめるタイプなので。

−これまでもたびたびプロジェクト名や楽曲名として登場している「ウインドアンドウインドウズ」も、今年、新たなプロジェクトとして活動をスタートされましたね。これはどんなものになるのでしょうか?

ライフワークと言ったら大袈裟かもしれませんが、先ほどお話しした通り、僕は集団で何かを作っていくことが多いので、自分が活動するにあたって、わかりやすく蓮沼執太印というか、自分発信のものによくこの名前「ウインドアンドウインドウズ」を使っています。2019年までニューヨークに住んでいたのですが、日本の方たちとコラボレーションするときは、日本に来て集中して作業してまた帰るという一期一会のものだったんです。それはそれでよかったけれど、もう少し継続的に自分の作っているもの、考えやアイディアを、音楽だけでなくさまざまなフィールドでアウトプットする環境ができたらいいなと思い、いろんな視点を持った仲間を募って、コミュニケーションを取り始めて、徐々に軌道に乗ってきました。なぜかというと、これだけ情報や選択肢に溢れた世の中になっていると、選び取るということがすごく大切だなと思ったんですね。昔を考えると、一つのことを極めるのがベストという価値観のもとに動いてきたかもしれないけれど、現状の価値観をどこかで疑うことが自分の人生の時間軸の中で新しいものを作るきっかけになるんじゃないかと。自分自身、何かを作ろうと思ったときに、パラダイムを変えるということを意識してやってきましたし。だから、技術者が揃った集団や会社みたいなものではなく、かたちがぐにゃぐにゃ変わっていくようなコミュニティやアセンブリーみたいなニュアンスで僕は捉えています。

−パラダイムを変えるということを意識してきたとおっしゃっていましたが、クリエーションをするうえで大事にしていることがあれば教えてください。

一番最初がすごく大切だなと。作品が生まれる瞬間なので、本当に自分に嘘をつかないように作ることを気をつけています。ちょっと手を抜いたらそれは伝わるものですし、そういうものはやっぱり自分に響きませんから。 なぜ最初が大切かというと、おそらく多くの人は完成形をゴールとして設定してそこに向かって動いていくと思うけれど、僕は真逆で、完成形を設定しないんです。最初に一個出てきたとしたら、それはもう僕ではないものなんです。あとは、生まれた作品はもう全然違うところに向かって行けばいいくらいの感覚で、自分もそれが見せる変化に驚きたい。だから、必然的に最初が重要になってくる。例えば、ある曲を作ってそれを譜面にしてみんなで楽しく演奏しようと渡した時点で、もう僕は演奏はしないし、曲のかたちはもう変わっているんです。最初に頭に描いてる音を実現しようとすると、すごく技術の高い演奏家を用意する方向になってくる気がするけれど、僕自身は自分の作品に対して、 技術なんてなくても面白く楽しめるように、演奏家にプレイしてほしいという考え方です。

−独自のスタイルを持っているという点でアニエスベーと共鳴する蓮沼さんですが、アニエスベーというブランドにはどんな印象がありますか?

僕は80年代生まれなので、成長とともにある存在でした。特に、学生の頃って、アートやカルチャーに敏感じゃないですか。敏感だけど、まだわけがわからないという最初の頃に、媒介になってアーティストや映画について教えてくれるような、ずっとすごく近いところにいるブランドだと思います。ブランドがメディアになっているということはすごく大事ですし、そうやって時代を映しているんだなという印象があります。

−蓮沼さんは、オリジナリティという言葉をどんなふうに捉えていますか?

素のままという感じですかね。素であることが常にいいとも思わないけれど。一応、何かを作っている人という枠の中で考えるのであれば、どんなに技術が発達したとしても、生きているうちにできることは限られていると思いますし、特に音楽というジャンルは、過去の作品が既に大量に世界中にあるので、自分はその何十年かの期間にたまたまそのクリエーションに参加しているくらいの感覚なんです。だからこそ限られた時間の中でいかにして新しいものを作っていく、という意気込みや姿勢はすごく大切なのではないかと。新しいものが作れるかどうかはわからないんですよ。わからないけど、姿勢としては、常に新しいと思えるものを作っていく姿勢をぶれずに貫いていく。そうすると、自然に自分に素直にならないといけなくて。僕の場合は、どこかで使った手法をもう1回使いたくないんですね。同じことをやる行為自体を否定してるわけではなくて、どちらかというと作り手である自分は、そういう考えのもとにやっています。

−今のお話を踏まえて、ご自身の独自性が見えてきたと思いますか?

僕は一貫したコンセプトを持ってますとは全く考えていないですが、こうやって話しながらひとつ一つを見ていくと、やっぱり貫通したところはあるんだなと。とにかく変わりたいんですね、みたいに受け取れることをずっと言ってるし(笑)。新しいことをやるためには素のままでやらないといけないし、変化し続けないといけないので、 自分の場合はその3つが作用し合っているという状態なのかな。そうしていると、最初にもらった質問のように、結局、何してる人なんだろう?みたいな見え方になるんでしょうね。あと、今はそういうふうに見えるかもしれないけれど、僕が死んだ後でも作品は残っていくと思うので、生きてきたアクティビティや作品を通して後から振り返ったときに、また違う見え方が出てくるんじゃないかなという気持ちでいます。

agnès b. × Dolmen ジャケット¥55,000、ボーダー T シャツ¥15,400、agnès b. × Dolmen パンツ ¥49,500、agnès b. × Paraboot ブーツ ¥99,000 (11月下旬発売予定) /すべて agnès b. (アニエスベー)