【実録】 2020年春夏トレンド対談 vol.1
Trend Talk
【実録】 2020年春夏トレンド対談 vol.1
Trend Talk
2020 Spring Summer
artwork: aiko koike
text: kaori watanabe
TFP編集長が今シーズン気になるコレクションを深堀する対談企画。ファッションの現場における15年来の同志であり、現在も第一線でパリコレの取材を続ける編集者・渡部かおりをゲストに迎えて、2020年春夏コレクションのハイライトを実録でお届け。
サステナブルいろいろ
合六美和 (TFP編集長、以下 G): 私はコレクションの現地取材はしばらくご無沙汰なのだけれど。実際に見てきてどうでした? 1番気になったことは?
渡部かおり (編集者、以下 W): まずはやっぱり 「サステナブル」 だよね。今シーズンは本気度が違っていた。この言葉をトレンドとして終わらせずに、これから当たり前のこととしてやっていく意気込みと覚悟を感じさせるブランドが多かった。
G: ファッション産業全体の取り組みとして。
W: 今できることを、今やる。
G: GUCCI (グッチ) はショーの直後にリリースを配信していましたね。いわく、ミラノ市内に2000本の植樹を行った。これにより今回のショーに関連するCO2排出量はオフセットされると。
W:「サステナブル」 の定義づけとアプローチ方法は、ブランドごとにさまざまで興味深かった。たとえば Dior (ディオール) のショーは、会場自体が多種多様な木々が生い茂る庭園になっていて。
G: ラフィア素材のドレスがあったよね。象徴的なルック。
W: アーティスティックディレクターの Maria Grazia Chiuri (マリア・グラツィア・キウリ) は、「すべてのアイテムを急にサステナブルなものに変えるのは難しいけれど、意志を持って取り組んでいく」と宣言。「シーズンごとに買い換える必要のないタイムレスなアイテムを増やす」とか、透明性のある真摯な姿勢が心に響いたな。
G: 昨年末に Jonathan Anderson (ジョナサン・アンダーソン) にインタビューしたんだけど、彼の場合はサステナブルが急に取り沙汰されることで、いわゆるトレンドとして消費されてしまうことを危惧していた。いい指摘だなと思ったのは、服を作る側・売る側だけでなく、買う側にも責任があることを忘れてはいけないということ。そこを踏まえた上で、地球全体を見据えた話を繰り出す Jonathan は地に足がつきながらウィットがあって、やっぱり面白い。
W: 自社のスタッフが気持ち良く働ける環境にこだわる=サステナビリティと考えるブランドはミラノにも多い。Sergio Rossi (セルジオ・ロッシ) も人的資本をなにより大切に考えていて、工場で働く職人や従業員の労働環境の幸福、健康、安全を確保することを明言してる。
G: 作り手が幸せであること。そのうえで質の良いものを、適切な数で世の中に出す。ということですね。
気象変動とゼブラの春
W: 世界観でいうなら、Marine Serre (マリーン・セル) が面白かった。「気象変動や熱波で世界の終焉を地下で生き延びた部族」っていうのをテーマにしていて、レザーやプラスティックをリサイクルしたエナメルっぽい素材のコートを着ていたり、テーブルクロスを再利用したニットがあったり。気温が上昇した世界という設定だったから、タオルでスーツを作ってたり。
G: 面白い! Marine Serre はデビュー時から注目していて。服のバリエーションも広がって、どんどん良くなっていると思う。
W: インビテーションが真っ黒な折りたたみ傘だったんだけど、なんとショー開始とともに本当に雨が降ったんだよね (笑)。
G: Marine Serre さすがです! モチーフでいうと、ここ数年レオパード柄が再燃していたけど、次の春夏はゼブラ柄がくるのかな。ネイチャーつながりで、力強い野花柄も気になる。その筋でいうと、Dries Van Noten (ドリス ヴァン ノッテン) が最高にエレガント。
W: 動物や自然モチーフは、プリントで思いっきり楽しもう。そんなメッセージが聞こえてくるよね。
G: サファリテイスト、動物モチーフ。色はグリーンが多かったのは、根っこの部分でサステナビリティとつながっているのかも?
W: 個人的には noir kei ninomiya (ノワール ケイ・ニノミヤ) がよかった。鬱蒼と生い茂るワイルドな苔 (コケ) みたいにモコモコの起毛素材のドレスとか、プラスティックやビニールの花で覆われたドレス、雪や雲を思わせるピュアな立体物…… 息をのむくらい力強くて美しかった。
優しさ、共存、ポジティビティ
G: 今シーズンは女性像も変化していたと思う。象徴的なのは、肩部分にボリュームをもたせたトップスとか。いわゆる突き進む系のパワーショルダーとは違って、しなやかでロマンティックなんだよね。
W: わかる。肩とか袖とか、ニッチかもしれないけど、女性像の方向性がくっきりと出るディテールだと思う。
G: 当然エフォートレスとも違う。肩の力を抜いたまま、でもドレスアップをもっと楽しもう。そんな提案。
W: いい意味で、視野が広くなった感じがあるな。半径5m の身近なコミュニティを大切にしながら、同時に、地球規模の環境問題も真剣に考える。自分自身の「好き」と社会貢献を両立させるような感覚。そういうしなやかさや強さを持つ女性像が見えたシーズンだった。
G: なるほどね。花柄、フリルやレース、シースルーとか、個人的にあんまり得意ではなかった素材も、今シーズンはなんだかアリな気がしているのは、そういうことか。
W: どこかがギークだったり、逆に知的だったり。ちょっとしたエッセンスを加えて魅せるブランドが多かったんだよね。
G: 大人でもガーリーなドレスを着る人が増えたり、大胆な色や柄を楽しんだり、今までちょっと難しかったことができるようになる感じがあって。自分のいろんなコンプレックスをどこかで解き放ってくれるようなメッセージやフックがあるシーズンだったと、今改めて思いました。
W: ダメな自分も抱きしめてくれる感じでしょ?! ファッションの役割とか多様性って「新しい服を着て、新しい自分になる」ことじゃないよね、もはや。
G: New Me ではない。でも開き直っているわけではない。過去すらも包み込んでしまう感じ。あらゆるものが共存する、ポジティビティの時代へ。
W: キーワードは「優しさ」なのかもしれないね。
(vol.2 へ続く)