ファッションデザイナー・Alber Elbaz (アルベール・エルバス) インタビュー
Alber Elbaz
老舗オートクチュールメゾン Lanvin (ランバン) を現代に呼び覚ましたモード界の救世主、Alber Elbaz (アルベール・エルバス)。忙しないファッションウィークから離れた彼は今何を思うのか。最新 CONVERSE (コンバース) とのコラボエピソードを含む貴重な声明を収録。
ファッションデザイナー・Alber Elbaz (アルベール・エルバス) インタビュー
Portraits
Alber Elbaz (アルベール・エルバス) が帰ってきた。Lanvin (ランバン) のアーティスティック ディレクター辞任を表明したのが2015年のこと。その後様々な憶測が飛び交う中で、突如明らかとなった新プロジェクト、その名も「AVANT CONVERSE (アヴァン コンバース)」。プロジェクトでは、CONVERSE (コンバース) の最もアイコニックなスニーカー「ALL STAR (オールスター)」生誕100周年を記念した、ハイエンドなカプセルコレクションを制作した。リュクスなオールレザーを纏った限定デザインのスニーカーは、Elbaz らしい遊び心が光る。モードシーンを牽引した “ランファンテリブル” は、この6足のスニーカーにどんな思いを込めたのだろう。コレクションのローンチに合わせて来日を果たした本人に、溢れ出る質問を投げかけてみた。
— 「AVANT CONVERSE」の話を聞いた時は、正直驚きました。
そうだよね。でも CONVERSE は昔から好きだったよ。17歳の頃から愛用してた。しかもこのコラボの話をもらった時、すごくしっくりきたんだ。だってスニーカーってもはやストリートファッションだけのものじゃないでしょ。パリのファッションショーを見ても、ドレスにスニーカーを合わせることはもはや珍しいことではない。今回のコラボを担当してくれた、日本のコンバースの美穂が、ウェディングドレスに「ALL STAR」を合わせていたのは特に印象的だったね。世の中にスニーカーブランドは星の数ほどあれど、スポーツ用ではなく、カルチャーに寄り添ったスニーカーブランドといえば CONVERSE を置いて他に無いね。ランニング用じゃなくて、家に帰るためのスニーカーって感じかな。
— Lanvin を離れて1年半の間、CONVERSE のコラボのほかにどんなライフスタイルを送られていたのでしょうか?
とにかく旅ばかりしていたね。観光というより、人に会いたくて。たった1年余りの期間で、ファッション業界は大きく様変わりした。ジャーナリストやデザイナーと話しをしても、皆一様に「ショーが多すぎる」って。みんな疲れてるみたい。
そんな中、伊藤忠の担当から連絡をもらえた時は嬉しかったね。来る日も来る日も締め切りに追われるんじゃなくて、自分のクリエイションに専念出来ると思ったんだ。実際彼らとの仕事は本当にやりやすかった。今は自分が関心のあるプロジェクトしかやりたくないんだ。
— ちょうど先日、東京でもファッションウィークが開催されましたが、ファッションサーキットを離れてみて、改めてファッションウィークについてどんな感想をお持ちでしょう?
東京コレクションっていくつブランド出てるの?
— 大体50ブランドくらいですかね。
50ブランド、多いね、でもNYはもっと多いよ。確か250ブランドくらいかな。ロンドンも同じくらい。ミラノで200ブランドくらい。パリは150ブランドくらい。ランウェイショーを全て網羅しているジャーナリストは、1ヶ月で1000ブランドくらいショー観てる計算になる。絶対、覚えられるわけがない。
じゃあ彼らが深夜までかかって書き上げた批評を、今どれほどの人が読んでるだろう。残念だけど、かつてのようなジャーナリスト主導のメディア論はもはや通用しない。インターネットユーザーは、ジャーナリストが残業続きで書き上げた原稿よりも、Gigi Hadid (ジジ・ハディッド) の新しいボーイフレンドのことで頭がいっぱいだからね。
ではジャーナリストや批評家は不要なのかって言われると、それが全く大間違い。今の時代、ジャーナリストや批評家はこれまで以上に必要とされているんだ。何故かって、彼らにしかストーリーを作ることは出来ないからなんだ。
— ストーリーというと?
インフルエンサーが届けられるのは断片的な情報でしかない。ランウェイに起用されました、新作のシューズもらいましたとか、全てが断片的な一人称でしかないんだ。だからこそ、第3者の立場にたって、断片的な情報を繫いでひとつながりのストーリーに出来る人が、これからもっと必要になるんだ。好き、嫌いで批評をする時代は終わった。これからはもっと深層まで切り込んで、独自のストーリーが求められる。
— これまで Lanvin で手がけてきたクリエイションと、具体的にどんな違いを感じられましたか?
まずターゲットが広いことが最大の違いだね。3歳の女の子から95歳のおじいちゃんまで、老若男女に受け入れられるデザイン。 あと日本限定という意味でもデザインアプローチはこれまでと全く違ったね。日本には数え切れないくらい来てるけど、やっぱりこの国が好きなんだ。
— またまた、お世辞じゃないですか?
いやいや、本当。お世辞じゃない。多分他の国には雑音が多すぎるんだ。日本の文化って、昔から沈黙の中に形式美を見出すだろ?その感性って、この国にしかないと思うんだ。声高に主張する代わりに、ささやくような文化。
あと日本の習慣で素晴らしいと思うのは、思いやりの心。日本の人たちに会うといつだって気の利いたギフトを手渡してくれるんだ。お土産って、本当に感動するよ。その精神を受け継ぎたくて、今回のコラボでは全部同じテキスタイルで統一したパッケージにしたんだ。中には布製のバッグも入ってる。一目で「かわいい!」と思えるような、贈り物のような感覚を再現したかったんだ。
あと、何度も言われてきたことだけど、日本人ならではのインディビジュアリティ (個性) には目を見張るものがあるね。今日の君の格好、本当最高だよ。
— いやいや、そんなお褒めの言葉に預かれるとは…光栄です。
そのスタイリング、すごく日本っぽいと思うよ。だって考えても見てよ。今若い子たちが見てるのはソーシャルメディアだけだろ?どこに行ったって、同じように “ブロガーっぽい” 格好の子たちばかり。でもこの国には、オリジナリティを大切にする文化がまだ健在している。そのことを再確認出来て、本当に嬉しいよ。お寿司も相変わらず美味しいしね。
— お寿司好きなんですね (笑) 確か「AVANT CONVERSE」のプレスリリースでも食生活に例えたコメントされてましたよね。
え、そうだっけ?何て書いてた?
— ミシュランの話をしていた気がします。
ああ、そうだそうだ。ミシュラン。どこかで読んだんだけど、パリで名の通ったミシュランのスターレストランが、揃いも揃って認定を手放したいと言い出したんだ。何でだと思う?
— お客さんが増えすぎたから?
いいや、違う。彼らは、ミシュランにスター認定されることで、自分たちのクリエイションが批評家のためのものになってしまうと考えたんだ。実際に足を運んでくれるお客さんではなくね。
これってさっき出たランウェイショーの話とも関係してくると思わないかい?名前は出さないけど、トップメゾンのデザイナーの中には、『Vogue (ヴォーグ)』の編集長に気に入ってもらうための洋服を作っている人がいる。でもラグジュアリーブランドの顧客の方たちって、驚くほど頭が良いんだ。自分の好きなものを心得ているばかりか、ブランドのバックボーンや、デザイナーの特徴まで把握して、取捨選択している。だからこそ、「誰もが共感出来るエクスクルーシブさ」が今の時代に求められる感性だと思うんだ。
取材を終えてからポートレートの撮影に移る間、簡単な質問をしてみた。「今好きな言葉って何ですか?」。すると返ってきたのは、「Good (グッド)」という単語。正直、拍子抜けした。Lanvin 時代の煌びやかなクリエイションを想像していたからだ。
しかし考えれば考えるほど、グッドという単語が今の彼を象徴しているように思えてならなかった。ファビュラスでも、スプレンディドでも、エキストラオーディナリーでもなく、グッド。ああ、もしかしてこの感覚こそ、今ファッション業界が求めているものなのかも、と鑑みたりして。