天才ヘッドピースデザイナー、Stephen Jones (スティーブン・ジョーンズ) インタビュー
Stephen Jones
2年ぶりにお目にかかるその人は、以前に比べずっとすっきりとした様子で出迎えてくれた。聞くところによると、食事制限で減量しているらしい。Stephen Jones (スティーブン・ジョーンズ)。世界にその名を轟かせる帽子デザイナーであり、ファッション業界における数々のレジェンドたちと肩を並べる生き字引だ。以前取材したジャーナリストの Gene Krell (ジーン・クレール) とも旧知の仲のようで、取材の後に行われたごく限られた知人たちを招いたディナーでも和気藹々と談笑する姿が見受けられた。
天才ヘッドピースデザイナー、Stephen Jones (スティーブン・ジョーンズ) インタビュー
Portraits
2年ぶりにお目にかかるその人は、以前に比べずっとすっきりとした様子で出迎えてくれた。聞くところによると、食事制限で減量しているらしい。Stephen Jones (スティーブン・ジョーンズ)。世界にその名を轟かせる帽子デザイナーであり、ファッション業界における数々のレジェンドたちと肩を並べる生き字引だ。以前取材したジャーナリストの Gene Krell (ジーン・クレール) とも旧知の仲のようで、取材の後に行われたごく限られた知人たちを招いたディナーでも和気藹々と談笑する姿が見受けられた。
今年で還暦を迎える Stephen は、昨年の10月にアメリカで発刊された自身初の作品集『Stephen Jones: Souvenirs』(Rizzoli 社) の国内ローンチに合わせて自身のアーカイブ作品を多数提げて来日。イベントが開催された Dover Street Market Ginza (ドーバー ストリート マーケット ギンザ) では、木製のスツールを高く積み上げたコンセプチュアルなインスタレーションが登場した。
「帽子と同じように、全体のバランスを見ながら椅子を組み立てていくのが面白くてね。結局昨日は深夜まで作業していたんだ。」としわくちゃに笑う。その姿はまるで子供のような好奇心に満ち溢れている。30年以上ものキャリアにおいて絶えず創作活動を続けてきた “帽子屋さん” の半生を、少しばかり掘り起こしてみたくなった。
— 久しぶりにお目にかかれて嬉しいです。前回来日されたのは「メルセデス・ベンツ・ファッションウィーク・トーキョー (現 アマゾン・ファッションウィーク・トーキョー)」だったかと。2年前だったでしょうか?
Henry Holland (ヘンリー・ホランド) がショーをやってた時だったね、君のことも覚えてるよ。
— 嬉しい限りです。変わらずお元気そうで、何よりです。今回は自身にとって初となる作品集の発表で来日されたとのこと。まだ中身をきちんと見れていないんですが、タイトルの “Souvenirs (お土産)” にはどういった意味が込められているのでしょうか?
お土産ってワクワクするだろ?大好きなんだ。お土産。なんだか思い出が詰まってて、後で見返してまた同じ感情を味わえる。今回書籍の制作にあたって昔の作品を見返していて、「あぁ、お土産みたいだな」って。だから、スーベニア。
2013年に『A Magazine (エーマガジン)』のコラボで一冊雑誌をキュレートしてるんだけど、書籍の出版は実は初。昔のお土産を振り返りながら一冊の本にまとめるのはなかなか骨の折れる作業だったね。
— 僕も昔インデペンデントで雑誌を作っていたので、その苦労お察しします。でも昔の作品を見返すのって何かこう言葉で表現出来ない郷愁がありますよね。Stephen さんの場合色々大変そうですが。ほら、帽子って場所を取るじゃないですか。
そうなんだよ。帽子を保管する箱がいかんせん大きくて、かさばるんだ。
— どうやって保管してるんですか?まさかご自宅では無いですよね?
そんなわけない!(笑) ウェールズにアーカイブ専門の保管スペースを持っているから、昔の作品は全てそこに。
— アーカイブ専門の保管スペース!なんだかタイムマシーンみたいでワクワクしますね。
僕もワクワクしたさ。最近では滅多に公に出すことのなかった30年以上も前の作品を引っ張りだしてきて、思い出に浸ると。ほら、ここに飾ってある小さなビーズ刺繍のハットがあるだろう?あれが僕の初めての作品なんだ。
— キャプションを見ると1980年とありますね。これって恐らく、Stephen さんが Blitz (ブリッツ) (※1) 時代を謳歌してた頃ですよね?
勘がいいね。そう、まさにロンドンのアンダーグラウンドシーンが最も栄えていた時期で、この帽子も当時のクラブキッズの子に頼まれて作ったんだ。ロンドンのクラブは小さくて天井が低かったから、大きな帽子では身動きが取れない。だから小さくても目立てる特別な帽子を作って欲しいと。
(※1) 1979年から1980年にロンドンで開催されたアンダーグラウンドパーティー。Steve (スティーブ・ストレンジ) や Boy George (ボーイ・ジョージ)、Roxy Music (ロキシー・ミュージック) など数々の伝説のアーティストを輩出し、「ニューロマンティック」の形成に寄与した。
— 「Blitz Kids (ブリッツ・キッズ)」のことは、当時の『i-D (アイディー)』マガジンや『The Face (ザ・フェイス)』で読みかじっていたので、少しはイメージ出来ます。とはいえ僕がそれを読んでいたのは、リアルタイムから20年以上も後のことですが。
当時のロンドンはとにかく勢いがあったね。若い子たちがとにかくエネルギーとクリエイティビティに満ち溢れていて。ドレスアップもどんどんエキセントリックになっていくから、僕の作風もどんどんアヴァンギャルドになっていったよ。
— そして時を同じくして、当時またセントラル・セントマーチンの学生だった John Galliano (ジョン・ガリアーノ) と出会う、と。若者が集うアンダーグラウンドシーンから華々しいクチュールの世界へと転身することとなった契機について教えて下さい。
当時はまだ「ハイファッション」と「ユースカルチャー」が今ほど親和性の無かった時代。だから所謂ファッション業界人といえば、Chanel (シャネル) や Yves Saint Laurent (イヴ・サンローラン) とか、オートクチュールメゾンにしか興味が無かったし、薄暗いナイトクラブで何が起こっているかなんて目もくれなかったね。
この「ユースカルチャー」に初めてスポットライトを当てたのが、私の記憶が正しければ、先ほど君が言ったようなクリエイティブな雑誌たち。こうして晴れてアンダーグラウンドヒーローたちがメインストリームに躍り出たわけだけど、私は特にクチュールの世界に身を投じるという意識は無かったね。いつも私は若い感性をインスピレーションに創作活動を続けてきたからね。これは何も年齢のことを言っているわけじゃなくて、70歳や80歳になっても生き生きとして感性豊かな人たちもいるし、逆に年齢が若いのに年老いたように見える人もいる。僕は常に前者であり続けたいと思っているし、そう思えるのは心のどこかで常に「ユースカルチャー」を拠り所にしていたからだと思うんだ。
(I was) at the right place at the right time
— なるほど、では “年老いた若者” からお願いがあるんですが、さっきのアンダーグラウンド時代の話をもう少し聞かせてもらえませんか?80年代がとにかく大好きで…
そうだね、僕自身 “Right place at the right time (良い時代に良い場所にいた)” だったと思うよ。じゃあせっかくだから、写真集見ながら話そうか。これがさっき言ってた、僕の最初の帽子ね。これは1980年に Boy George (ボーイ・ジョージ) のために製作したもの。これは僕が当時やってたバンドのポスター。
— え、バンドやってたんですか?名前は何ていうんですか?
Pink Parts (ピンク・パーツ)。可愛いだろ?(笑) で、これが君の大好きな Steve Strange (スティーブ・ストレンジ) のイラスト。
— こうして年代別に見ていくと、80年代から90年代、2000年代にかけて徐々にデコラティブになっていく過程が見て取れますね。一緒に仕事をしていて最も刺激を受けるデザイナーは誰ですか?
やっぱり John Galliano (ジョン・ガリアーノ) 時代の Dior (ディオール) は素晴らしかったね。彼はアイデアを否定するということをしないんだ。ほら、このあたりのビックリするくらい大きな帽子も全部当時の Dior。
— 当時の Dior は全部大ファンなので覚えてます。このジャンヌダルクをテーマにしたコレクション、2006年秋冬のオートクチュールですよね?
そうそう、よく覚えてるね。あとほら、この花園のコレクション。これなんかも Galliano から「今回のテーマは花なんだ」って聞かされて、モデルをブーケのようにしたいと。じゃあブーケを包んでるあのビニールで頭を覆ってみたら?と提案したら、「それだ!」って即決だったよ (笑)
この Jean Paul Gaultier (ジャンポール・ゴルチェ) のオートクチュールも印象的だったね。もっと最近のコレクションで言えば、Thom Browne (トム・ブラウン) 2014年春夏コレクションなんかもなかなかインパクトがあるよ。
— これ凄かったですよね。エディトリアルでも引っ張りだこだったけど、いかんせん帽子が大きすぎて洋服に目がいかないっていう (笑)
彼が素晴らしいのは、ショーではエキセントリックな演出をするのに、実際にお店で売っている洋服は極めてトラッドだということ。そしてランウェイでは、この2つが見事に融合している。ただの話題作りのための前衛的なランウェイルックではなくて、完璧なテーラリングを追求した先に、デフォルメしたランウェイの見せ方があるというイメージかな。素晴らしい才能の持ち主だね。
そしてもちろん COMME des GARÇONS (コムデギャルソン) の川久保玲を超える才能は、他のどんなデザイナーを見渡しても見当たらないね。彼女とは何度もランウェイのハットでコラボしてきたけど、一度として飽き飽きしたことがない。常にフレッシュなアイデアで満ち溢れている、まさにアーティストなんだ。今回、Dover Street Market Ginza ではこの書籍のローンチに加えて、エクスクルーシブのハットコレクション「Stephen Jones One (スティーブン・ジョーンズ・ワン)」も製作したんだ。
— John Galliano (ジョン・ガリアーノ) に Jean Paul Gaultier、川久保玲、そして2012年にこの世をさったファッションエディターの Anna Piaggi (アンナ・ピアッジ) まで、誰もが羨むレジェンドたちとのコラボを手がけてきたあなたですが、今ワクワクすることってありますか?パッションを感じるというか。Gene さんのインタビューでも同じことを聞いたんですが。
ワクワクすることね、何だろういっぱいあるよ。こうして話をしているのも僕にとってはワクワクすることだし。パッションという意味でいえば、やっぱり帽子作りが一番だね。30年前も今も変わらず、やっぱり手を動かしてものを作っている時が一番パッションを感じる。
— では次お会いする時も、また新作のお話いっぱい聞かせてもらえるの楽しみにしてますね。
そうだね、いっぱいお土産を持っていくよ!
問い合わせ先/ドーバー ストリート マーケット ギンザ 03-6228-5080
HP: shop.doverstreetmarket.com