Yu Aoi
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女優・蒼井優インタビュー

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Portraits/

「共感度0%」「全員、最低」というキャッチコピーが目を惹く、沼田まほかる原作の人気ミステリーを白石和彌監督が実写映画化した映画『彼女がその名を知らない鳥たち』。本作で不快な空気をまといながら観客を引きこむ、主人公の北原十和子を演じた蒼井優にこの不思議な愛の物語について聞く。

女優・蒼井優インタビュー

 

「全員、最低」。『彼女がその名を知らない鳥たち』に出てくる登場人物の話だ。金も地位もなく、不潔で下品な男。その男の稼ぎに依存して自堕落な生活を続ける女。性欲だけで動くゲスな男。女を道具として扱うクズな男。しかし、人からまったく共感を呼ばない男女がたどり着くのは驚くほど純粋な愛だ。沼田まほかる原作の人気ミステリーを白石和彌監督が実写映画化した本作。不快な空気をまといながら観客を引きこむ、主人公の北原十和子を演じた蒼井優にこの不思議な愛の物語について聞く。

 

『彼女がその名を知らない鳥たち』

 

—「最低な人間ばかりが出る映画」と聞いていたので、どれだけ不快になるんだろうと思って観ていたんですが、最後は気持ち良く裏切られました。

それは嬉しいです。作中に散りばめられている不快はすべてラストのためのものなので。

—蒼井さん演じる十和子は、阿部サダヲさん演じる陣治に嫌悪感を抱きながらも、彼の稼ぎをあてにして自堕落な生活を続けています。しかも、妻子ある男性、水島とも関係を持つ。これだけ聞くとまったく共感できない人物なのですが、話が進むにつれ、だんだんと彼女に惹きつけられる。不思議な魅力を持つ女性だなぁと思いました。蒼井さんはこの役をどう意識して演じられたのでしょうか?

私はふだん演じるときに、役を魅力的に見せたいという気持ちが働くんですけど、今回それを全力でやってしまうと物語が崩れてしまう。かといって、全く魅力がない人物だとラストの展開につながらないので、現場でも結構悩みました。十和子をどこまで最低な役にすればいいのか。その線引きがすごく難しかった。“最低”にも種類がありますし、最低な人でもその人なりの踏み越えないラインがあると思うんです。白石和彌監督とも、十和子の最低ラインがどこなのかについてけっこう話し合いました。時には意見が分かれることもあり、2つのパターンを撮った場面もあります。脚本を読んだ時に大変な役を引き受けてしまったなぁと感じていたんですが、実際に演じていてもなかなか手応えを感じられなかったですね。

© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会

—手応えを感じないというと?

十和子は陣治とも向き合っていないし、不倫相手の水島さん (松坂桃李) や、過去の恋人の黒崎さん (竹野内豊) とも気持ちがつながっていない。だから、うわべだけの会話もすごく多いんです。心がこもっていない。

—陣治は真正面から十和子に向き合おうとしているのに、彼女は軽蔑の眼差しを向けるだけ。

彼女は陣治の上の立場にいるというか、完全にマウンティングしている状態なので、やりとりが対等じゃないんです。でも実際のところ、阿部さんは百戦錬磨の俳優さんですから、私にとっては雲の上の存在。陣治と十和子の関係とは逆なので、その立場を乗り越えて演じる大変さもありました。しかも、陣治って映像を通して見ると下品で不潔ですごく嫌な人に見えると思うんですけど、現場で会うとすごくかわいいんですよ (笑)。思わずキュンとしちゃうくらい。だから、「この人はゴミ、この人はゴミだ」って自分に暗示をかけて、ときめかないようにしていました (笑)。それぐらい努力しなきゃいけないほど阿部さんはすごく素敵な方なんです。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

—そういう努力があったとは (笑)。しかも、今回は舞台が大阪ということで、台詞はすべて関西弁でしたよね。方言やイントネーションの習得も大変だったと思います。

はい、ずっと阿部さんと練習していました。やっていくうちにだんだん慣れはするんですけど、お互い完璧じゃないから、相手が間違えると動揺して、共倒れになることもありました。ある時、私と阿部さんの関西弁がひどすぎて、それがだんだん面白くなっちゃって。二人でゲラゲラ笑っているシーンもありました。もちろんカットされましたけど (笑)。

—意外と賑やかな現場だったんですね。

結構、笑ってましたね。監督が一番笑っていたかもしれない。

Photo by Hiroki Watanabe

Photo by Hiroki Watanabe

—蒼井さんは白石監督とは初めてだと思うのですが、それまではどういう存在でしたか?

『凶悪』(2015) を見たときからいつか一緒に仕事をしたいと思っていました。これまで白石監督は女性が主役の作品を撮られていなかったので、オファーをいただいたときはとても光栄で。白石さんの現場に長くいられるってこんなラッキーなことはない、と。それから、原作の沼田まほかるさんの小説を読んで、「なんて素晴らしい物語なんだろう」と改めて思いました。陣治を阿部サダヲさんが演じてくださるというのも幸せでしたね。そのあと、水島役に松坂さん、黒崎役に竹野内豊さんをオファーしていると聞いたんですが、両者とも本当に最低な役柄なので (笑)、きっと引き受けてくださらないだろうと思っていたらお二方ともOKだったのでさらに驚きました。だから、みんなこの作品に惹かれて、白石監督と一緒にやりたくて集まったんだろうなと思いました。

—一緒に作品を作ってみて、改めて白石監督はどういう方ですか?

エゴが見えない監督ですね。現場でも冷静だし、すごく客観的。真面目なシーンを撮っていても、遠くから監督の笑い声が聞こえてくることもありました。「え?私たち、コメディを撮ってるんだっけ?」と、こちらが不安になるくらい (笑)。常に飄々としていて、本当に不思議な方です。実は私も、撮影中に笑いが止まらなくなることがあって。松坂さん演じる水島さんとのやりとりなのですが、彼は薄っぺらくて甘い言葉を滔々と放ちますよね。十和子は彼に惚れているのでうっとりと聞いていなくてはいけないんですけど、急に冷静になっちゃって「なんなの、この人」って笑えてきちゃって (笑)。

—たしかに作中ではところどころ、笑いを誘うシーンがありました。

監督は、不快感や不吉な空気を流すだけじゃなくて、どこか笑える要素を入れたかったんだと思います。

—そうした中で、十和子はだんだん陣治に対してある疑念を持ち始め、最後は驚きの展開を迎えます。

あのシーンは現場のみんなが泣いていました。カメラマンさんも泣きながら撮られていたんです。それぐらい、現場の空気が満ち足りていました。映画に携わっている人間は、撮影中にそういう幸せな時間を味わえることがあるんです。味わえない時ももちろんありますが、みんなその時間をまた味わいたくて映画を作っている。この作品はその幸せな時間が確実にあったし、そういう映画に携われて私はすごく幸せだと思います。

Photo by Hiroki Watanabe | イヤリング ¥7,000/ジェーン スミス (UTS PR)、ブーツ ¥28,000 ファビオルスコーニ (ジャーナルスタンダード)

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<プロフィール>
蒼井優 (あおい ゆう)
1985年8月17日生まれ。福岡県出身。99年にミュージカル「アニー」で舞台デビュー。映画初出演となった岩井俊二監督の『リリィ・シュシュのすべて』(2001) で脚光を浴びる。2004年に同監督の『花とアリス』で初主演を飾り、『ニライカナイからの手紙』(2005) で初単独主演を務める。翌年に主演を務めた『フラガール』(2006) で日本アカデミー賞最優秀助演女優賞と新人俳優賞を受賞、他数多くの賞を総なめにした。その他の主な映画出演作は『ハチミツとクローバー』(2006)、『クワイエットルームにようこそ』(2007)、『百万円と苦虫女』(2008)、『おとうと』(2010)、『東京家族』(2013)、『春を背負って』(2014)、『家族はつらいよ』(2016)、『オーバー・フェンス』(2016)、『アズミ・ハルコは行方不明』(2016)、『家族はつらいよ2』(2017)、『東京喰種 トーキョーグール』(2017)、『ミックス。』(2017) など。

作品情報
タイトル 彼女がその名を知らない鳥たち
監督 白石和彌
脚本 浅野妙子
出演 蒼井優、阿部サダヲ、松坂桃李、竹野内豊
配給 クロックワークス
製作国 日本
製作年 2017年
上映時間 123分
備考 R-15指定
HP kanotori.com
© 2017映画「彼女がその名を知らない鳥たち」製作委員会
 10月28日(土) 新宿バルト9他全国ロードショー