自由奔放に輝き続ける女性たちを描いたイラストレーター、山口はるみ インタビュー
Harumi Yamaguchi
Photographer: UTSUMI
Writer: Sumire Taya
自由に、開放的に。70年代から現代までしなやかでエネルギッシュな女性「HARUMI GALS」を描き続けてきたイラストレーター山口はるみ。PARCO (パルコ) の広告制作や様々な作品で時代を牽引してきた彼女は自らの考案でアートディレクターYOSHIROTTEN (ヨシロットン) とタッグを組んで実現した展覧会『HARUMI’S SUMMER』。時代を超えても色褪せることのない作品を生み出す山口はるみに本展覧会のこと、そしてイラストレーターとして時代を駆け抜けた当時のリアルな話を聞かせてもらった。
自由奔放に輝き続ける女性たちを描いたイラストレーター、山口はるみ インタビュー
Portraits
自由に、開放的に。70年代から現代までしなやかでエネルギッシュな女性「HARUMI GALS」を描き続けてきたイラストレーター山口はるみ。PARCO (パルコ) の広告制作や様々な作品で時代を牽引してきた彼女は自らの考案でアートディレクターYOSHIROTTEN (ヨシロットン) とタッグを組んで実現した展覧会『HARUMI’S SUMMER』。
ギンザ・グラフィック・ギャラリーのガラスのドアを開けるとそこにはピンクのネオン、中央にはプールに水が揺らめき、山口はるみの世界観を空間すべてで表現した従来の展覧会とは一線を画すものになっている。時代を超えても色褪せることのない作品を生み出す山口はるみに本展覧会のこと、そしてイラストレーターとして時代を駆け抜けた当時のリアルな話を聞かせてもらった。
ー「HARUMI’S SUMMER」をYOSHIROTTENさんと組んでやることになったきっかけはなんだったんですか?
1Fの入り口から入って右側のピンクのネオンの下にレコードが置いてあるでしょ。そのイラストを発注してくれたのがYOSHIROTTENさんだったの。8年前、彼は当時26、27歳だったのかな?彼から突然メールをもらって。会ったこともないし、名前も知らないし、年齢も不詳だったんだけれど、どういう方かなって思って。彼からエアブラシの絵をリクエストされて、長らくエアブラシでは描いてなかったから「エアブラシかぁ!」って正直思ったんですけど(笑)。初めての方からの依頼だったし、音楽に関する仕事は大好きなので、引き受けました。
ー8年前ってことは、展覧会まで大分期間が空いていますよね。
Facebookでは繋がっていたんですけど、ある時に彼の仕事を検索してみたらいい仕事がどんどん出てきて。質もだけど、量もすごくて、びっくりしちゃって。20代の作品だけで本を出してるんだなんて凄いなってその時にすごく感心したんです。そうこうしている内にこの展示が決まって。渋谷PARCOでの展示ではシンガポールのアートディレクター Theseus Chan (テセウス・チャン) に手掛けてもらって。2011年の渋谷の西武百貨店で開催したエアブラシ作品の原画展では会場の真ん中に作品をトリミングしたパネルに吉行淳之介さんとか阿佐田哲也さん、田中一光さんなどに文章を書いていただいたものをプリントしたパネルをディスプレイして。その時はスペースコンポーザーの谷川じゅんじさんにやっていただきました。さらに遡って、2001年にはG8ギャラリーのタイムトンネル・シリーズとして「時代のヒロイン」という展示をしました。タイムトンネル・シリーズに女性イラストレーターが参加するのは初めてで。その時には浅葉克己さんにお願いして。展覧会では大御所、中堅とばかり組んでいたので、誰と組んだら楽しいかって空想してる時にYOSIROTTENさんが浮かんできて。
ーそれで彼にオファーしたんですね。
一回しか仕事をしたことがなかったけど、ずっと彼のことが印象に残っていて、彼の作品集を取り寄せてみたら、8年前のあの作品も掲載されていて嬉しくなって連絡を取りました。東山の彼の新しい事務所の近くの喫茶店で話をしてから、事務所を訪れてみると、机の上のモニターにはカッコいい作品が沢山映し出されていて「わあ、これだ!」って思いました。その時、彼は東雲の元倉庫だったギャラリーでの大規模な展示を控えていたので、断られるかもって思ったんですけど、すんなりいいですよって言ってくれて。
ーはるみさんは YOSHIROTTEN さんの「Future Nature」をご覧になりましたか?
展覧会オープニングには音楽、ファッションの関係者などオシャレな若者が沢山いて。後で聞いたら800人も集まってたみたいで、びっくりですよね。その展覧会を見て、彼がやっていることが半端じゃなく大人で、洗練されているなって思って。その展覧会で2作目の作品集を出していて、まだ35歳なのに偉業を成し遂げているなと。
ー今回の展覧会のディスプレイなどを決めるのはどんな流れだったんですか?
200点を超える今までの作品を洗いざらい彼に見せました。彼からどんなものが出てくるのか見てみたいなって思いがありました。「プールサイドや夏を描いたものが一番強く印象に残っているので、夏(サマー)をテーマにしてもいいですか?」って彼に言われたんです。絵コンテを見せてくれたんですけど、プールがあったり、床はタイル張りだし、今までと違いすぎてびっくりしちゃって。やっぱり中堅どころとは発想が違うなって思って嬉しくなりながらも、一目見て予算がかかりそうとは思いました(笑)。
ー作品のディスプレイも斬新ですよね。
プールには水が張ってあってそれが揺れて、色が変わる。カーテンが風で揺れ、作品の前で写真を撮ると、ピンクのネオンが水やパネルに反射して映る。そういったものがすべて細かく計算されているのが凄い。BGMもクラシック経由で現代音楽をやっているミュージシャンの方が展覧会のために40分の曲を書き下ろしてくれて。オーケストラや自然の音、いろんな要素が入っていて、会場でずっと佇んでいても気持ちがいい。ファッションと音楽に強い YOSHIROTTEN さんの良さが全面に出ていて、彼に頼んで本当に良かった。
ー地下に行くとまた違った世界が広がってますね。
彼はわざわざ、フィルムから強弱をつけて起こしていて。ただ漠然と作品を並べるのではなく、年代に分けて、表面の質感にもこだわって壁面を作り上げてくれ、その上に時代を象徴する作品選んで、額装したものを飾ったんです。2FはCMの映像と原画がディスプレイされていて、野球の松坂大輔選手が横浜高校を卒業して、西武球団に入ったばかりの初々しい時の彼に肖像画を3枚書いて、西武ブルーの額に入れてプレゼトしたんです。その時にもらったサインと共に展示しています。彼が復帰して活躍しているからこそあれを出そうってなりました。
ーはるみさんは野球好きなんですか?
ゴルフに凝ったり、球技全般が好きなの。松江高校の時代にはソフトボール部のピッチャーをやっていて、県大会で優勝したこともあるんです。松江は雨が多いから、雨の日は美術部で絵を描いている高校生活でしたね。でも球技やスポーツが好きだったから、そういう女の子を描く時は気持ちが自然と込められています。
ーはるみさんがイラストレーターになった時のことを教えてもらえますか?
初めて就職したのは西武百貨店の宣伝部デザインルーム。この商品を女の子に着せた絵を描いてって商品を持ってこられて、それをひたすら描きまくるっていう仕事でした。堤清二さんの妹の邦子さんが西武百貨店のパリ支局にいらっしゃって、素晴らしいセンスの持ち主の彼女が Saint Laurent (サンローラン) の「リヴ・ゴーシュ」や Mary Quant (マリー クヮント) をいち早く取り入れていて、Saint Laurent の素敵なドレスを新聞広告のために描くチャンスをいただいたり、今振り返ると、時代を受けてすぐ反応する場所にいられたのはとってもラッキーだったと思います。でも、その仕事を始めて大分経ってから上司と揉めてやめてしまったんです。
そこから2年くらいは雑誌の仕事ばかりやっていたんですけど、ある時、「西武の中にいるもんだけど、隣にあった丸物っていうデパートが倒産したんで、これからそこを持つことになって、自分が専門店街を構成してやることになった」って自宅に電話がかかってきたの。それが西武百貨店の堤さんの高校時代の友人の増田さんって方で、その人はアートにすごく気持ちを持っていらっしゃる方で。「また流通業で仕事をする気はあるかい?」って聞かれたから「やります!」って私は即答しました。今はすごいキュレーターとして活躍しているコピーライターの小池一子さんと共に、その施設の名前を決める会議に最初から参加させてもらえたんです。「楽しい公園みたいな、イタリア語でパークを意味する『PARCO』はどうですか?」っていう小池さんのアイデアで名前が決まって。
ー女性主導のチームって素敵ですね。
最初は男の方とも組んでいたんですけど、石岡瑛子さんが資生堂をやめてフリーになってからは、小池さん、石岡さん、私の女三人組で PARCO の広告を作るようになって。西武百貨店は糸井重里さん、浅葉克己さん、上坂光信さんの男三人組チームで、実際はすごく仲良しだったけどライバル同士としても切磋琢磨して、刺激のある楽しい時代でした。PARCO ではある特定の商品を描いたりすることはなくて。「PARCOであなた達の個性を発揮してください!」って女性に向けて発信するために、開放的で奔放な女性を描くことが多くなりました。
ーその女性たちが「HARUMI GALS」と呼ばれるようになるんですね。
PARCOの仕事も初期はそれほど肌の露出がないものが多かったんですけど、ある仕事がきっかけで服を着ていない女の人を描くようになりました。三枝成彰さん主催で「ニューミュージック・メディア」というイベントが軽井沢で開催されることになり、フォトグラファーやグラフィックデザイナーがポスターを1点ずつ自由に制作して展示するっていう企画に、私も依頼されて。洋雑誌の切り抜きを参考にしながらどんなポーズの女性を描こうかなって考えてたんです。その時に女の子がボクサーのポーズを取っている写真があって、このポーズいいなって思って。その写真ではTシャツを着ていたんですけど、おっぱい出しちゃおうって急に思い立って(笑)そのポスターが会場でもすごく目立って、評判も良くて。それを見てくれたマンズワインのアートディレクターの方から4〜5点スポーツをするギャルのイラストを描くお仕事を頂いて。悪戯心におっぱいを描いたことにひっぱられて、割と女性の体を表現するようになりました。宇野亜喜良さんが私のことを可愛がってくれて、よく飲み屋に連れて行ってくれたんですけど、女性の体を描く以前は、宇野さんからお酒が入ると「はるみさんって女の人をいっぱい描いているけど、セクシーなところが全く無いね」って言われたんですよ。だから今はどんな風に言うのかしらって思う時もありますね。女の人の性をユーモアなしでストレートに書くのは嫌で、どこかにユーモアやファッションを感じられるものを入れて描き続けています。
ー最近では女性だけでなく、馬を描く機会が増えていますよね。
サラリーマンの三大趣味「ゴルフ、麻雀、競馬」が私の趣味と一致するんですけど(笑)。JRA の「優駿」のエッセイのためにイラストレーションをやっていて。中央競馬が開催されているところに入れるこのパスは私の持っているもので唯一の自慢です(笑)。今は残念ながらというのもなんですけど、女性より馬のイラストレーションのお仕事が多いですね。
ー最後に、はるみさんの Facebook ページがありますが、この展示は最強に「インスタ映え」する展示ですよね。
オープニングに横尾忠則さんの娘で画家として活躍している美美さんが来てくれて「今はインスタの時代ですよ!はるみさんもやったらどうですか?」って言われたんですよ。折角だからやってみようかなって。まずやり方を教えてほしいですね(笑)。
<プロフィール>
山口はるみ
イラストレーター
松江市生まれ、東京藝術大学油絵科卒業、西武百貨店宣伝部デザインルームを経て、フリーランスのイラストレーターとして、劇場、映画館、ミュージアム、レストラン、そしてアパレル店舗を融合した PARCO の広告制作に参加。1972 年よりエアブラシを用いた女性像を描き、一躍時代を象徴するアーティストとなる。近年、山口の作品は、2018 年 Nottingham Contemporary (イギリス)「The House of Fame」、2017 年 Centre Pompidou ‒ Metz (フランス)「Japanorama. A new vision on art since 1970」、2016 年 PARCO MUSEUM 個展「Hyper! HARUMI GALS!!」(東京)といった展覧会で国内外の美術館でも発表されている。パブリックコレクションとして、Museum of Modern Art(ニューヨーク)、CCGA現代グラフィックアートセンター(福島)などに作品を収蔵。